ツタヤのジブリコーナーにもある海外アニメ映画4選+α 美術館で特集される名作たち
マグミクス / 2022年5月4日 8時10分
■宮崎駿の原点も。ジブリ美術館提供のおすすめ作品4選
「アニメ大国」と言われる日本のなかでも、国内外で抜群の知名度を誇る制作スタジオスタジオジブリの作品は、現状配信サービスで見ることができないため、TVのロードショー以外で見るためにはDVDを買うかレンタルビデオ店に行くしかありません。
さて、TSUTAYAなどでジブリ作品のコーナーに、おもにヨーロッパなどの海外のアニメ作品も一緒に置かれているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。ジブリはこれまで数々の名作を制作してきましたが、それ以外に海外の知られざる優秀なアニメーション作品を日本に紹介する事業も行っています。その事業名は「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」。
同美術館は日本初のアニメーション美術館として、日本の作品だけでなく世界にも多種多彩な素晴らしいアニメーション作品があり、それを知ってもらいたいとの考えから、この事業を行っています。ディズニーやピクサーなどのアメリカの作品ならいざ知らず、その他の国々の作品はなかなか注目してもらいづらいので、「ジブリ」の名を冠することで少しでも多くの人に知ってもらいたいというわけです。レンタルビデオ店で同じコーナーにあることが多いのも、その一環です。
故・高畑勲監督が熱心に推進していた事業のひとつでもあり、高畑監督亡き後も継続して海外の優秀なアニメーション作品を紹介し続けています。今回は、ジブリ美術館ライブラリーが提供する海外アニメーション作品のなかから、おすすめの作品を紹介するほか、その他のおすすめ海外アニメ映画も特集します。
●『王と鳥』
高畑勲監督と宮崎駿監督にとっての「原点」のひとつともいえるフランスのアニメ作品。1952年に『やぶにらみの暴君』というタイトルで公開され、アニメーションが実写映画に比べて今よりも評価されにくい時代に、芸術的な観点で高い評価を受けました。その『やぶにらみの暴君』を、ポール・グリモ―監督が権利とネガフィルムを買い取って再構築したのが本作です。
独裁者の王様が支配する城で、絵に描かれた煙突掃除の青年と羊飼いの少女が命を持ち、絵を抜け出して、紳士でおしゃべりな鳥の助けを借りて独裁の打倒を目指します。宮崎駿監督の初期作品には本作からの影響と思われるシーンが多数あり、終盤には巨大ロボットも登場するなど、日本アニメに多大な影響を与えた今なお色褪せない名作です。『やぶにらみの暴君』とは違い、ハッピーエンドで終わらないラストも心に残ります。
●『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』
2015年に制作され、高畑勲監督も絶賛したフランスのアニメ映画。輪郭線のないシンプルなキャラクターデザインと豊かな色彩で、少女のダイナミックな冒険が描かれる手に汗握るアドベンチャー映画です。19世紀のロシア、14歳の少女サーシャは北極航路の探検に出て戻らない祖父の身を案じ、ひとりで祖父を探す旅に出発。道中、様々な人々と出会いながら、艱難辛苦の冒険を繰り広げていきます。
黎明期の日本アニメを彷彿とさせるような画風で、ノスタルジックな雰囲気のなか、宮崎アニメに登場しそうな勇敢な少女が活躍します。レミ・シャイエ監督は本作の後、西部開拓時代に活躍した伝説の女性ガンマンを描いた『カラミティ』も発表。こちらも国内外で絶賛を受け、世界で最も注目されているアニメーション監督のひとりとなりました。
■まだまだある海外の素晴らしいアニメーション
高畑勲監督の盟友ミッシェル・オスロ監督作『ディリリとパリの時間旅行』 (C)2018 NORD-OUEST FILMS - STUDIO O - ARTE FRANCE CINEMA - MARS FILMS - WILD BUNCH - MAC GUFF LIGNE - ARTEMIS PRODUCTIONS - SENATOR FILM PRODUKTION
●『ディリリとパリの時間旅行』
フランスアニメーション界の巨匠、ミッシェル・オスロ監督の作品です。ベル・エポック時代のパリを舞台に、ニューカレドニアからやってきた少女公ディリリが、パリで発生している少女誘拐事件を解決するために奔走します。
当時のパリは、華やかですが博覧会で植民地の人々を見せ物のように展示したり、「男性支配団」という組織が暗躍したりと、差別も今よりずっと色濃かった時代として描かれています。そんな時代を背景に、肌の黒いディリリが配達人のオレルとともに、誘拐事件の真相を探るためにパリ中を奔走。パブロ・ピカソやマルセル・プルースト、キュリー夫人など100人以上の当時の有名人が登場し、ディリリに協力し、そのプロセスで当時のパリのカルチャーや風景を美しく見せていきます。
また、本作は背景に監督が撮影した写真を用いており、アニメキャラが実景のなかで躍動するというユニークな映像を作り上げています。
●『ベルヴィル・ランデブー』
フランスのアカデミー賞にあたるセザール賞で作品賞や、米国アカデミー賞長編アニメーション部門にもノミネートされ、世界中で絶賛されたフランスのアニメーション映画。過剰なまでにカリカチュア(誇張)されたユニークなキャラクターデザインが特徴で、誘拐された孫を助けるために、おばあちゃんが犬とともに大冒険を繰り広げる物語です。
ツール・ド・フランスに出場する夢を叶えるために頑張っていた孫がマフィアに誘拐され、おばあちゃんは孫の救出のために犬のブルーノとともに大都市ベルヴィルへと旅立ちます。そして道中、「伝説の三つ子の姉妹」などの老婦人の助けを借りて、マフィアを追い詰めていくのです。バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)出身のシルヴァン・ショメ監督独特の世界観が存分に展開されており、ブラックユーモア満載ながらも可愛い雰囲気を失わない作品です。
●ジブリ特集作品だけではない素晴らしい海外アニメ作品たち
ここ数年は、ディズニーやイルミネーションと言ったメジャーなスタジオの作品だけでなく、様々な国のアニメーションが日本でも数多く公開されるようになってきています。昨今はスタジオジブリだけでなく、ニューディアー、チャイルド・フィルム、リスキットといった会社がエッジの効いた海外アニメーション作品を積極的に配給しています。
たとえば、チャイルドフィルム配給の『ウルフウォーカー』は、近年世界的な注目を受けるアイルランドの「カートゥーン・サルーン」というスタジオが制作。このスタジオはアカデミー賞ノミネートの常連でもあり、今最も勢いのあるアニメスタジオのひとつです。また、ニューディアーが配給したブラジルのアニメーション作品『父を探して』は、全編台詞なしで出稼ぎから帰らない父を探しに行く少年の冒険を色鉛筆やクレヨン、油絵など多彩な絵柄で表現した作品です。リスキットは『この世界の片隅に』の主人公・すずを演じて話題となったのんさんが日本語吹替版の主役を務めた、『マロナの幻想的な物語り』を配給しています。こちらも、自由奔放なイマジネーションを駆使した幻想的な映像が見る人を魅了する作品です。
さらに近年はアジア各国でも個性的なアニメ作品が増加しており、台湾の『幸福路のチー』、中国の『羅小黒戦記』、韓国の『整形水』などが日本でも話題となりました。
普段見慣れた日本のアニメやアメリカの3DCG作品とは異なる魅力を放つ、海外アニメーションの数々。一度観れば、必ず刺激を受けるものばかりです。アニメーションは可能性が無限だからこそ素晴らしいものだと改めて再認識させてくれますし、こうした作品を観ると、日本独自のアニメの素晴らしさも相対的に、さらに深く味わえるようになるでしょう。
(杉本穂高)
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