「無茶ぶり」多かった昭和・平成初期のアニメ脚本 小山高生さん語る、現場の苦闘と面白さ
マグミクス / 2022年5月12日 12時30分
![「無茶ぶり」多かった昭和・平成初期のアニメ脚本 小山高生さん語る、現場の苦闘と面白さ](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_90478_0-small.jpg)
■マンガの1コマで30分の脚本を作成…?
昭和の原作つきアニメ作品では、オリジナル要素がひとつの持ち味として機能していました。しかし現在は『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』などをはじめ、オリジナル要素を極力廃し、原作の内容に忠実な脚本が好まれる傾向にあります。
一方、昭和の大人気アニメの脚本では、また違った試行錯誤が求められました。『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『Dr.スランプ アラレちゃん』など、数多くの人気作を担当したレジェンド脚本家・小山高生さんにお話を聞きました。
今でこそ「第2期」「第3期」とシリーズを分割して放送スケジュールを確保しているTVアニメですが、昭和の原作つきアニメの多くはインターバルがなく、オリジナル展開を入れることで原作に追いつかないよう調整しながら放送を続けるのが当たり前でした。小山さんにとって今も印象に残る苦労話のひとつが、『ドラゴンボールZ』の脚本です。
「打ち合わせに行ったら、プロデューサーから『このひとコマで脚本を書いてください』と言われたことがありましたね(笑)」
1コマの内容から書き起こそうとすると、バトルの最中でストーリーを引き伸ばすため、敵味方が睨みあったまま組み合うこともできず、回想シーンを駆使するしかありません。
また『聖闘士星矢』では、連載開始の10か月後からアニメ放送がスタートしたため、つねに原作の尻尾を見ながらの作業となりました。
「設定がすべて揃っていない状態で執筆しなければならないので、最初は断ったんです。しかし東映アニメーションのプロデューサーに『この状況で小山さんがどう面白くするか見てみたい』と言われて、つい乗せられてしまいました」
『聖闘士星矢』の場合は、『ドラゴンボールZ』と違って、「黄金聖衣争奪編」「北欧アスガルド編」といった形で、章単位のオリジナルエピソードが挿入できたのは幸いでした。そして、どちらのオリジナルエピソードも視聴者から高い評価を集めています。
またキグナス氷河の師匠(水晶聖闘士)をオリジナルキャラクターとして登場させたところ、後を追う形で原作にも別の師匠(黄金聖闘士のカミュ)が登場してしまい、その辻褄合わせで苦労したといいます。
「ただ、辻つま合わせをすること自体は面白かったですよ。おそらく今の脚本家はなかなか遭遇することがない状況でしょうね。それに、章単位のオリジナルストーリーも、バトルの途中で引き伸ばすのとは違ってやりやすく、ある意味ラッキーでした。
うまくいく作品は計算だけでは成り立たない、思いもよらないことが起こるものです。そういった巡り合せも、長期シリーズでは大切な要素だった気がします」
思いがけない苦労もあった昭和の原作つきアニメの脚本づくりですが、「原作に忠実」な傾向の現在のアニメについて、小山さんは次のように語ります。
「原作そのままなら脚本家なんて必要ないですよ。『ドラゴンボールZ』も、制限のなかでいかに退屈させないようにするかを考えていましたが、そこが大変でもあり面白くもありました。今はそういったことがほとんどないのでしょうね」
■オモチャ拡販のために多重放送を使った仕掛けを…
一方、小山さんが手掛けたオリジナル作品はどうだったのでしょうか? 特に面白かったと語るのは、1986年のタツノコアニメ『ドテラマン』です。『ドテラマン』は小学生がドテラを着たヒーローに変身するギャグアニメで、当時としては珍しく音声多重放送に対応した仕掛けが売りでした。
マスコットキャラクターの「オンタ・オニゾウ」が、主音声では意味不明な「ジゾウ語」を話し、副音声ではきちんとしたセリフを喋る……という仕掛けなのですが、時代を先取りしすぎて不発だったといいます。
「外付けスピーカーの機能を持った、オニゾウのオモチャを売り出すのが目的でした。ただ生産が遅れたせいで、番組が終わってからの発売となってしまったんですね」
近年のアニメで主流の「製作委員会」方式が導入されるより以前の、スポンサーに頼った局発注方式ならではのエピソードです。
またキャスティングでは、声優・八奈見乗児さん(大ボス:インチ鬼大王 役)を活躍させようとしていたことも話してくださいました。
「八奈見さんも張り切ってやってくださいましたね。八奈見さんにセリフを振ると面白くしてくれるので、僕ら脚本家はつい頼っちゃうんですよ。タイムボカンでも、同じセリフを別の人が言っても面白くならないんです。八奈見さんがあのテンション、あのトーンで喋るから面白いんですよ」
■登場人物の一人称から考えた『魔神英雄伝ワタル』
お話をうかがった、アニメ脚本家の小山高生さん
そして小山さんといえば『魔神英雄伝ワタル』も忘れられません。
「企画書には基本設定が書かれていましたが、脚本が書けるほどのディテールはありません。そのため登場人物の一人称から考えました。
例えば、企画書に『高倉健みたいな人』と書かれていたとしても、脚本は書けないんです。どんな喋り方をして、何に心を動かされるのか……細かな積み重ねがあってやっと『高倉健みたいな人』ができあがります。その第一歩が、一人称を決めることでした」
第1話の執筆は、そういった作品の基盤になる部分まで考えられる脚本家に託されるのだそうです。なお大人気だったヒロイン「ヒミコ」の一人称「あちし」も、小山さんが考案したものでした。
「ヒミコのキャラクターは、『Dr.スランプ』のアラレちゃんのような感じをイメージしていました。しかし一人称まで同じにするわけにはいきません。そこで、女優でありプロデューサーでもある水の江瀧子さんの口癖から『あちし』を拝借しました」
ヒミコ役は当時、まだ新人だった林原めぐみさんが担当していました。
「彼女と初めて会ったのはタイムボカンシリーズのオーディションでした。その時のことをまだ覚えていますよ。『めぞん一刻』でデビューしたと言っていました。当時は看護学校に通っていて、そこの卒業式があるということでアフレコを早上がりしていましたね」
原作に追いつかないようにしなければならない点、オリジナルを入れるにしても辻褄合わせが大変な点。その一方で、オリジナル要素こそ脚本家の腕の見せどころであり、楽しみだったと語る小山さんは、多忙な仕事の傍ら、脚本家の育成にも力を入れてきました。次回の記事では、「脚本家のタマゴ」たちに伝えてきた、仕事のあり方やエンタメ作品の使命について語ってもらいます。
※小山さんはYouTubeチャンネル「アニメのT王チャンネル」を開設し、毎週水曜日19:04に自身のキャリアや作品を振り返る動画を投稿しています(主題歌は山本正之氏)。
(気賀沢昌志)
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