著名脚本家たちを育てた小山高生さん 「アニメが本来もつ力」を語る
マグミクス / 2022年5月13日 16時30分
■『タイムボカン』シリーズで「視聴率20%超」も
『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』『勇者特急マイトガイン』『地獄先生ぬ~べ~』など、数多くの人気アニメの脚本を手掛けてきた小山高生さんは、多忙な仕事の傍ら、後進の育成にも力を入れ、そのなかから著名な脚本家も輩出しています。苦労も多いけれど面白みがあった、かつてのアニメ脚本づくりと後進の育成について、小山さんにお話を聞きました。
小山さんの代表的な仕事といえば、やはり「タイムボカン」シリーズです。視聴率は20%越えという、現在では考えられない、まさに国民的な人気でした。
「『タイムボカン』シリーズでは、こんなファンレターをいただきました。『うちの父親は中学校の教師をしていましたが、『タイムボカン』シリーズが放送される土曜の6時30分には絶対に帰宅していました」というのです。これは私の持論ですが、子供だけが見る番組は最大でも視聴率10%です。親子そろって見られるものは20%。お爺ちゃんお婆ちゃん世代を巻き込むことができれば30%を越えたと思います。
ただお爺ちゃんお婆ちゃん世代を巻き込むには、『タイムボカン』シリーズでやっていたようなギャグではなく、もっとわかりやすいギャグにする必要があります。もし30%を目指していたら、今のような『タイムボカン』シリーズはなかったでしょうね。その意味では20%の作品だったと言えます」
ほかにも小山さんは、さまざまな作品でシリーズ構成や各話脚本を務めてきました。たとえば、実在するアイドルの田村英里子さんが、次々と襲いくる出来事に翻弄される『アイドル伝説えり子』です。80年代といえばアイドルブームの黄金期。その時代を象徴するような企画でした。
「大げさにストーリーを煽って大人気を博した『大映ドラマ』を意識した作品でした。
はじめは架空のキャラクターを登場させるつもりでしたが、サンミュージックから新人を売り出したいと打診があり、それで実在のアイドルを登場させることになりました。それが今やハリウッドで活躍される女優になり、実写版の『ドラゴンボール』(『DRAGONBALL EVOLUTION』)にも出演されましたからね、不思議な縁です」
■脚本家はサービス業であれ
アニメシナリオハウスで後進の育成をしつつ、小山さん自身も『ハイスクール奇面組』を含む4作品をかけもちした時期があった。画像は「ハイスクール!奇面組 コンプリートBOX」DVD(イーネット・フロンティア)
執筆活動をする傍ら、小山さんは後進の育成にも力を入れてきました。1997年頃まで運営していたシナリオ勉強会「アニメシナリオハウス」です。
「綺麗事に聞こえるのであまり言いたくないのですが、金を残すより人を残そうと思ったんです」
小山さんがタツノコプロに入社した当時、各アニメ会社には脚本を発注・管理する「文芸部」や「企画室」があり、そこで若手脚本家の育成も行っていました。しかし育成には手間暇がかかるということで、やがて担当部署は続々と廃止に。アニメシナリオハウスは意図せずその受け皿となっていました。
人材育成をしようと思ったのは良いものの、それはライバルを増やすことであり、同時に、自分の仕事を弟子たちに回すことになります。さらに自分の仕事に加え、弟子の脚本のチェックもしなければなりません。
育成に打ち込んだ38歳から49歳までの間、月に10本は書いていたという小山さんは、その多忙だった時期の記憶がほとんどないと語ります。1990年当時は過労で倒れ、1997年は癌も患いました。ちょうど『ハイスクール奇面組』を担当していた頃です。
「脚本家はサービス業の最たるものだと思うんです。つまりギブ&テイクではなくギブ&ギブの精神ですね。ギブの部分を徹底すればテイクの部分は後からついてきます」
徹底したサービス精神。その教えを感じさせるのが、アニメシナリオハウスで実際に出された、とある「課題」です。
アニメシナリオハウスでは、何度か実施される試験を経て、最終的に小山さんのシナリオ会社「ぶらざあのっぽ」の所属が決まります。
その際、おもしろく女装をしたら加点する、3日後の奄美大島の講演会に来たら次の試験で下駄を履かせるなど、笑いながら「課題」を提示したものでした。
筆者もかつてアニメシナリオハウスを受講しましたが、当時、他の受講生と「サービス精神を試すものだよね」と話したことを覚えています。
「運が良かったと思います。10年おきに死にかかっていたし、74歳まで生きるとは思いませんでした。そんなラッキーの連続のなかで若い世代と出会い、彼らのうち何人かのデビューに力添えができたのは幸せなことだと思います」
■アニメの持つ力を信じて
お話をうかがった、小山高生さん(本人提供)
現在の原作つきアニメ作品は、原作そのままの映像化が求められる傾向です。このことについて、小山さんは執筆環境の難しさを感じているようです。
「先の展開がわかっているなかで書くのは難しいでしょうね。ただやはり、原作通りにやった上で多少のオリジナリティや工夫も許容してもらえればと思います。右から左へ書き写すだけなら脚本家なんていらないですから。そこの存在意義を含め、今の若い脚本家は自分なりの表現を見つけるしかないでしょうね」
最近では自身のYouTubeチャンネルを開設し、70年代から90年代のアニメの裏話を語る動画を毎週投稿。小山さんは今もアニメづくりの「面白さ」を次の世代に伝えようと発信を続けています。
「世界のどこかで辛い状況に陥っている子どもたちがいると思います。そんな子どもたちがアニメのキャラクターやイラストを目にした時にホッと息をつけるような……そんな力がアニメにはあると思うんです。
そういうアニメの力を大事に、若い脚本家には楽しい作品をギブ&ギブの精神で書いていってもらえたら嬉しいですね」
※小山さんはYouTubeチャンネル「アニメのT王チャンネル」を開設し、毎週水曜日19:04に自身のキャリアや作品を振り返る動画を投稿しています(主題歌は山本正之氏)。
(気賀沢昌志)
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