『シン・ウルトラマン』は良質のバディ映画 「スペシウム光線」は決め技ではない?
マグミクス / 2022年5月18日 11時50分
■怪獣や星人たちは使徒っぽいデザインに?
「そんなに人間が好きになったのか」
2022年5月13日より、実写映画『シン・ウルトラマン』の劇場公開が始まりました。『シン・ゴジラ』(2016年)を大ヒットさせた、庵野秀明(企画・脚本)&樋口真嗣(監督)コンビによる空想特撮映画です。
オープニングのタイトルバックから、1966年~67年にTV放映された『ウルトラマン』をオマージュしたものになっています。さらに、『ウルトラQ』のファンも歓喜させるサプライズな序盤です。昭和の特撮ドラマで育った世代はもちろん、庵野監督の人気アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の使徒っぽいデザインになった怪獣や星人たちは、若い世代も魅了しているようです。
特撮映画としての面白さだけでなく、主人公・神永新二を演じる斎藤工さんと同僚・浅見弘子役の長澤まさみさんとのバディムービーとしても楽しむことができます。公開から3日間で興収9.9億円を記録する、好調なスタートを切っています。幅広い層を動員している『シン・ウルトラマン』の魅力を紹介したいと思います。
■カラータイマーのないウルトラマン
凶暴な巨大生物「禍威獣(カイジュウ)」が日本に次々と出没し、日本政府は「禍特対(カトクタイ)」と呼ばれる専門家チームを発足させます。『シン・ゴジラ』後の日本を舞台にしたような設定ですが、庵野監督の『シン・ゴジラ』に比べ、樋口監督の『シン・ウルトラマン』はアップテンポで進む、ライトタッチな物語となっています。
禍威獣第7号・ネロンガは変電所を襲いますが、通常兵器では歯が立ちません。田村班長(西島秀俊)率いる「禍特対」もお手上げです。「禍特対」のメンバーである神永新二(斎藤工)が逃げ遅れた子供の救出に向かったところ、「銀色の巨人」ことウルトラマンが現れ、ネロンガを一蹴するのでした。
胸にカラータイマーのないウルトラマンは、とてもシンプルかつ鮮やかなデザインとなっています。オリジナルのウルトラマンをデザインした成田亨氏は、造型されたウルトラマンにカラータイマーがつけられることを嫌っていたそうです。そんな成田氏が当初イメージしていた、美しい巨人の活躍に目を奪わる前半となっています。
新たに現れた「銀色の巨人」の分析官として、「禍特対」に新メンバー・浅見弘子(長澤まさみ)が配属されます。ここからドラマパートも、がぜん盛り上がっていきます。
■スクリーンいっぱいに広がる長澤まさみ
カラータイマーのあるなしだけでなく、『ウルトラマン』と『シン・ウルトラマン』には大きな違いがあります。ウルトラマンにとっての必殺技である「スペシウム光線」が、本作では必ずしも決め技にはなっていないことも、違いのひとつに挙げられるように思います。
もちろん、ウルトラマンが発する「スペシウム光線」は破壊力抜群なのですが、ネロンガに続いて出没した禍威獣第8号・ガボラは放射性物質を食料としているため、うかつに「スペシウム光線」を浴びせることはできません。また、「スペシウム光線」を使うと、ウルトラマンは著しくエネルギーを消耗してしまいます。
では、新しいウルトラマンにとっての最大の武器は何になるのでしょうか? 「スペシウム光線」の代わりとなるのは、相手との対話や仲間との信頼関係です。映画の中盤、ウルトラマンの正体である神永は、「外星人」ザラブの策略によって窮地に追い詰められます。ここで大活躍するのが、神永のバディ(相棒)である浅見弘子です。
地球人とは異なる価値観を持つウルトラマン/神永新二ですが、浅見弘子とお互いにバディとして認め合うことで、ピンチを切り抜けるのでした。長澤まさみさんの魅力が、スクリーンいっぱいに大きく大きく映し出されます。
■高度な文明を持つウルトラマンが忘れていたもの
高度な文明を持つメフィラス(山本耕史)やウルトラマンから見れば、地球人はまだ文明のレベルの低い、未開人のような存在です。地球存続の危機に陥っているにもかかわらず、国家間では醜い争いも起きてしまいます。
欠点だらけで、理性的でないことを次々とやらかす地球人ですが、遠い宇宙の彼方からやってきたウルトラマンは、神永や浅見たちを通じて、地球人のことが好きになってしまったようです。
何かを「好き」になるという原始的な感情を、高度な文明社会で暮らしていたウルトラマンは、長い間忘れていたのかもしれません。子供を救うために自分の命を投げ出した神永に、お風呂に入れずにいることを恥ずかしがる浅見……。地球人の理性的でない部分に、ウルトラマンは惹かれてしまったように感じます。
映画のクライマックス、ウルトラマンは最強の敵と戦うことになります。理性的に考えれば、勝ち目のない相手です。それでも、地球人と触れ合ったウルトラマンは、逃げることも絶望することもせず、最大の試練に立ち向かいます。浅見との友情や「禍特対」の仲間たちとの信頼関係があっての行動です。
何かを「好き」になるという感情は、理屈ではありません。「好き」という心の動きは、生命に不思議な力をもたらすようです。現代社会が忘れかけていた大切なものを、『シン・ウルトラマン』は思い出させてくれるのではないでしょうか。
「そんなに地球人が好きになったのか」
脚本家・金城哲夫氏が『ウルトラマン』の最終話「さらばウルトラマン」のなかに書き記した名セリフが、55年ごしで胸にしみてきます。年代物のワインのような格別な味わいです。『シン・ウルトラマン』は、現代社会を生きる私たちに懐かしさと爽快感を同時にもたらしてくれる作品となっています。
(長野辰次)
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