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『シン・ウルトラマン』庵野秀明が追求した、概念としての「トクサツ」空間の魅力

マグミクス / 2022年5月20日 18時10分

『シン・ウルトラマン』庵野秀明が追求した、概念としての「トクサツ」空間の魅力

■「特撮」ではなく「トクサツ」を目指した

 庵野秀明氏が総監修と脚本を務める映画『シン・ウルトラマン』が公開されました。庵野氏といえば、『ウルトラマン』からの多大な影響を公言しており、自主製作で『帰ってきたウルトラマン』を製作したこともあるほどのウルトラマン好き。そんな庵野氏が現代に向けて新たな『ウルトラマン』を作るとあって、特撮ファンからもアニメファンからも大きな注目を集めていました。

 今回、庵野氏は「総監修」という立場で現場の陣頭指揮をとってはいないようですが、彼の狙いや感性はそれなりに色濃く反映されている作品だったと思います。

 本作は、庵野氏が愛を注ぐ「特撮」の魅力を今の技術で発揮することを目指したものと言えるでしょう。それは、庵野氏が長年追求してきたことであり、技術への偏愛ではなく、新たな概念としての「トクサツ」空間を創出する試みでもあります。

 100%本物ではない、しかし100%虚構でもない、トクサツ独自の奇妙で魅力的な空間を今回はどのように作ろうとしたのかを振り返ってみましょう。

 庵野秀明氏にとっての「特撮」とはどういうものなのでしょうか。過去の発言から紐解いてみましょう。庵野氏は、特撮を一般的な実写ともアニメとも異なる感覚のものだと捉えているようです。

「特撮は、現実感の中にアニメと同じ発想の「現実にはないイメージ」を紛れ込ませることができるんですね。現実を切り取った空間の中に、現実ではない空想を融合させられるんです。その異種感覚というのはすごくいいなと」(『巨神兵東京に現る』2012年7月5日刊行、日本テレビ放送網株式会社、『館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』別冊、P10)

 アニメは絵なので全て作られたものですが、特撮は現実の風景と人物をカメラで切り取ったなかに、虚構の空想を紛れ込ませることができるというわけです。

『エヴァンゲリオン』シリーズなどが顕著ですが、庵野氏の作品は「虚構と現実」がテーマとなることが多いです。それは、アニメ作品であっても実写作品であっても同様で、彼にとって最も重要なテーマと言っていいでしょう。特撮という手法は、物語ではなく形式としてそのテーマに一番馴染むものであり、『シン・ゴジラ』の時はそのことにかなり自覚的に挑んでいます。

「特撮だけが描けるんですよ、現実と虚構が融合した世界観を。だから本作も最大の主題として、そこを描こうとしています」(『ジ・アート・オブ・シン・ゴジラ』、株式会社カラー刊行、P500、庵野秀明)

 庵野氏は、そうした特撮の感覚をいかに今の技術で再現するかを追求してきました。それは実写だけでなくアニメ作品でも同様です。例えば、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』ではCGによって特撮のような空間を作り上げることに挑んでいます。CGI監督の鬼塚大輔氏はこう証言しています。

「鬼塚:僕たちとしては「これはCG的にどうかな?」って思うカットでも、「特撮的にOK!」となるようなことはいっぱいありましたね。車が倒れたり落ちたりするカットで、たとえ挙動が軽く見えてしまっても、「ミニチュアっぽさが出てて、グー!」とか。
<中略>
通常、CGに求められるものとは、「どうやって現実らしく見せるか」という方向のリアリティなんです。そうではなく「特撮の世界をどうやってCGで再現するか」みたいな方向性なんですね」(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序 全記録全集』、株式会社カラー発行、2008年7月刊行、P386)

 3DCGは基本的に空間の遠近感や造形物も正確な物理演算で現実を再現しようとする技術で、どれだけ現実に迫れるかという方向に発展してきたものです。そういう技術を使って、空想の産物である「特撮」らしさを作ろうとしているわけです。

 ここが庵野氏の考え方の面白い部分で、これは言い換えれば「本物のミニチュアらしさ」をCGで追求したということでしょうが、ミニチュアはそもそも本物じゃなく「本物に似せた何か」ですから、本物そのものではないものをCGで追求させているのです。

 この姿勢は『:序』から『シン・エヴァンゲリオン劇場版』にいたるまで一貫した姿勢で、『シン・ゴジラ』のゴジラも同様の考えに基づいて作られています。

■庵野秀明は「現実と虚構を絶妙に配合させるバリスタ」

『シン・ウルトラマン』 (C)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (C)円谷プロ

 本物に近づけることを目指すのではなく、本物と空想が入り混じった独特の「トクサツ」空間を目指す。これが庵野氏の一貫して追求してきたもので、『シン・ウルトラマン』も同様の姿勢で製作されていると言えます。

 本作のウルトラマンと禍威獣(怪獣)も3DCGで作られていますが、ゴリゴリにリアルな動きをするという感じではありません。適度な着ぐるみ感を残しつつ美しい造形に仕上がっています。着ぐるみにはシワが出来てしまいますが、CGで作られたウルトラマンの体表はシワとも模様とも取れそうな微妙な塩梅に仕上げていて、現実感と作り物感が混在しているデザインになっています。

 禍威獣のデザインは、オリジナルのデザインを手掛けた成田亨さんの生物と金属のような非生物を融合させたような特徴的なデザインを生かしていて、ウルトラマン以上にCGの恩恵を受けています。着ぐるみでは表現しづらかった機械的なパーツはむしろCGの得意分野です。

 また、往年の合成映像の奇妙な遠近感を敢えて再現しているカットなどもありました。ビルの上にいる長澤まさみをちらっと振り返るウルトラマンのカットなどは、リアルで考えるとおかしな映像ですが、その奇妙さがむしろ「トクサツ」独特の味なんだということです。このカットなどは、当然今の技術ならもっと普通の遠近法で見せることもできますが、敢えて歪ませて独特の空間を作りたいわけです。

 また、それを飛んでいる時のウルトラマンが微動だにしないのも、リアルに考えるとそこまでブレずに姿勢をキープできるのは奇妙に思えますが、「トクサツ」感覚としてはありになります。地球人じゃないから人間離れした体幹をしているんだろうと思えてきます。

 本作における、これらの映像的な特徴は、かつての「特撮」技術の限界や予算の問題から生じたものも多いです。着ぐるみにシワができてしまうのは、リアルに考えたら嘘がバレるので見栄えが良くないですが、「本物と空想が交じり合う世界を構築する」というゴールを目指すなら、それもあった方がいいとなります。おかしな遠近感なども同様です。むしろ、それは現実にはないユニークな映像として別の魅力がそこにあるのです。言うなれば、概念としての「トクサツ」空間を新たに創出しようということです。
 その「トクサツ」空間は、100%現実を切り取った一般的な実写映像とも違いますし、絵で作り上げる100%虚構のアニメとも異なる空間のあり方です。これは実は、古いようでいて新しいものではないかと思います。ハリウッド映画などが典型ですが、VFX技術はどんどん本物と見分けがつかなくなってきていて、その進化自体は驚嘆すべきですが、表現の方向性はもっと多彩にあるはず。庵野氏はそれとは別の方向性を提示しているのだと筆者は考えます。

 もしかすると、「トクサツ」空間は「現実よりも安っぽくすれば簡単にできるのでは?」という意見もありそうですが、そう簡単なものではないと思います。現実感と虚構感を一流バリスタのごとく絶妙にブレンドさせるセンスが必須で、かなり繊細な手つきが要求されるでしょう。

 概念としての「トクサツ」空間は、上手く行った部分とさらに追求できる部分もあるという印象ですが、劇場で先行販売されている『シン・ウルトラマン デザインワークス』によれば、続編の構想はあるようですので、充分なヒットになれば続編が製作される可能性はあるでしょうし、来年公開予定の『シン・仮面ライダー』でも同様のチャレンジがあるでしょう。これからの庵野氏の挑戦も楽しみです。

(杉本穂高)

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