ヤバい奴しかいない？戦隊『ドンブラザーズ』に「まともな人」がいない深いワケ

■「まともな人」がいないのは……『ドンブラザーズ』の宿命だった？

　回を追うごとに盛り上がりを見せる『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』。放送開始前から超長身のピンク、二頭身のブラックと不揃いないでたちが話題を集めていましたが、放送がスタートしてからはむしろ「変身前の方がやばい」なんて声を多く耳にします。いや、下手をすれば「『ドンブラザーズ』にまともな人はいないのでは？」なんて珍説まで飛び出すように。

　日本を代表する「正義のヒーロー」であるところのスーパー戦隊にまともな人がいないとは一体、どういうことでしょうか。そんなの嘘に決まっています。確かめるべく一旦、「ドンブラザーズ」の各々のプロフィールを簡単にまとめてみました。

・ドンモモタロウ：桃井タロウ（赤）。普段は宅配業者。桃型のカプセルで人間界へやってきた。人の気持ちに疎く、「幸せ」が何かを知らない。

・サルブラザー：猿原真一（青）。無職の風流人。コーヒー代をお金の代わりに俳句で払おうとする。100円玉に触って火傷して以来お金を憎んでいる。

・オニシスター：鬼頭はるか（黄）。本作の語り部的ポジション。女子高生漫画家として華々しくデビューするも盗作疑惑をかけられてしまう。以降、学校では「トウサク」と呼ばれている。

・イヌブラザー：犬塚 翼（黒）。無実の罪で指名手配されており現在逃亡中。どのような罪かは秘密。その秘密を守り通すと、愛する女性・夏美を返してもらえるらしい。

　……ぐうの音が出ないほどの奇人集団でした。実際、猿原真一役の別府由来さんも「ドンブラザーズは過去の戦隊にないくらい、個性豊かな5人」と述べているのです。しかしまだ希望があります。残るひとり、キジブラザーのプロフィールをみてみましょう。

・キジブラザー：雉野つよし（ピンク）。平凡なサラリーマン。変身後は220センチの高身長だが変身前はただのサラリーマン。妻のみほを溺愛。

　公式サイトでも「平々凡々たる生活を送る、33歳の妻帯者」と紹介されているので、彼がこの世界の「まとも」ということになるのかもしれません。確かに他のメンバーと比べて派手な能力がない彼ですが、妻に危害を加えようとした者に対して「そんな奴この世にいちゃいけないんだ」とヒーローらしからぬ想いを抱き、ネットでは「闇落ち待った無し」の声が多く寄せられています。それでも、これがこの世界の「平々凡々」なのです。

　宇宙海賊で構成された『海賊戦隊ゴーカイジャー』、異星人たちで構成された『宇宙戦隊キュウレンジャー』、主人公以外ヒューマノイドの『機界戦隊ゼンカイジャー』などここ最近だけでも枠組みが「まとも」とは言い難い戦隊はたくさんありましたが、ここまで各個性が突出しているのも珍しいのです。（とはいえ同作脚本を手がける井上敏樹氏の戦隊シリーズにおける代表作『鳥人戦隊ジェットマン』のメンツも相当なものではあります）。

　さてこうしてみると『ドンブラザーズ』は事情を背負ったメンバーが結果として集まってしまった戦隊のように思えますが、これが2020年5月8日放送の第10話でくつがえりました。同話では『ドンブラザーズ』を脱退した鬼頭はるかの後任オニシスターが、同じく過去に盗作疑惑をかけられていたことが判明。つまり『ドンブラザーズ』に加入すると各ポジションの「ロール」としてその事情がついて回るという宿命だったのです。ある意味、「まともな人」がいないのは設定上の必然だった、と言えるかもしれません。

　一方、白倉伸一郎プロデューサーは今回の戦隊構成に関してインタビューで「ステレオタイプな人物造形はしていないというメッセージを発している」と仰っています。キジブラザーが男性戦士でありながらピンク色なのはそのほんの一例。「（子供らには）与えられた型に自分を無理してはめ込むのではなく、自分らしくのびのびと育ってほしい」とのことで、『ドンブラザーズ』を観て「まとも」だとか「まともでない」とか大人の価値基準で型にはめようとしていた自分に喝を入れたくなります。奇人変人でも、良いではないですか。

（片野）