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時代が追いついた?『シャーマンキング』のテーマ「自己確立」を振り返る

マグミクス / 2022年5月26日 18時10分

時代が追いついた?『シャーマンキング』のテーマ「自己確立」を振り返る

■「ナンバーワンよりオンリーワン」という主張

 2022年4月まで全52話を駆け抜けたTVアニメ『シャーマンキング』の放映終了から1か月が経過しましたが、アニメ公式サイトは元気です。現在は「Blu-ray BOX 4 【初回生産限定版】Blu-ray BOX4 封入特典キャラソン集」の全曲試聴動画が公開されていて、これは一見(聴)の価値あり! ぜひご覧ください。続編『SHAMAN KING FLOWERS』を意識した楽曲も含まれており、製作陣からは「まだだ、まだ終わらんよ!」といった意欲を感じます。

 さて、本連載記事の第1回で、筆者は原作者・武井宏之先生の言葉を用いて「シャーマンキングの価値観は連載当時マイノリティだった」「現代ではそれが一般化していたので再び脚光を浴びた」と述べました。アニメ放映を終えた今、改めてそのことを振り返ってみたいと思います。

 連載記事中ではさまざまな表現を使いましたが、『シャーマンキング』が総じて主張しているテーマは「自己を確立すること」だと言えます。他人のなかの自分という存在を考えたり、自分自身の気持ちと向き合い、時には壁を乗り越え「私はこういう人間だ」ということを自覚したりする。それにより、何事にも動じない強さや自信を持てるようになるという考えです。

 麻倉葉、道蓮、ホロホロなどはシャーマンキングを目指す過程でその必要性に直面し、乗り越えたと思ったら不足だと気づかされる……といったことを繰り返して成長していきます。

 ただ誤解してはならないのですが、「自己の確立」とは、人に認めてもらうことや一番になることとは違います。一般的には、すぐに自分を他人と比較する人や、他人の顔色をうかがって態度を決めすぎる人は、自己を確立しているとは言えません。この代表がハオです。

 ですから彼は、テーマを体現する麻倉葉たちと対立する存在です。なお「ナンバーワン」と「オンリーワン」は本来、善悪や優劣で語ることではありませんが、バトルマンガのフォーマットを使ってオンリーワンの意義を表現するには対立が必要で、そのためハオには、ナンバーワンを目指す動機や手段などにさまざまな悪の要素が持たされています。

 1998年の連載当時にマイノリティだった価値観とは、「ナンバーワンを目指すこと」が悪の側として描かれたことです。なぜそのようなアプローチになったのでしょうか? そこには当時の時代背景や、武井先生の体験・思いがありました。

■「テーマと世界観の融合」を見事にまとめ上げたTVアニメ

アニメ『シャーマンキング』グレート・スピリッツ編キービジュアル (C)武井宏之・講談社/SHAMAN KING Project.・テレビ東京

 原作連載開始当時は、ゆとり教育制度に向け教育現場が変化していた頃でした。「ナンバーワンよりオンリーワン」へと価値観が変化する初期の初期です。まだまだ世間では、全員同じカリキュラムのなかでトップに立つことがベストで、そこから落ちこぼれた人や、そもそも同じカリキュラムを受けられないタイプの人は弾かれる……という考えが多数でした。

 その価値観を悪側として描いたわけですから、当時としては早すぎでしょう。ただ、主な読者層だった学生さんたちは、価値観の転換を受けた当事者として共感できることがあり、ファンとなり支えてくれていたと思われます。

 次に武井先生の体験と思いですが、幼少期の先生は「勉強しろ」と厳しく言われたりせず、感性を伸ばすような生活をしていたようです。それは学力というルールで優劣をつけるシステムから外れているので、先生は社会から弾かれる側だったわけですが、特に不幸でもなかったという体験から、ナンバーワンを求める風潮に一石を投じたかったと考えるのは自然です。

 このように、時代のトレンドと先生の思いが合致して『シャーマンキング』は自己の確立がテーマになったと考えられます。

 また、このテーマと世界観の緻密な関係にも注目してみましょう。シャーマンキングになれば「グレート・スピリッツ」を手にすることができるという設定は、北米先住民族の信仰がヒントです。そこでは、全ての存在は「大いなる神秘」によって生み出され、自然も動物も人間も平等です。

「大いなる神秘」は擬人化された神ではなく、まさしく劇中の「グレート・スピリッツ」的で、人間はそのもとで全てつながり共有しているという思想から、先住民族たちは富を分け合うなどしていたといいます。つまり「ナンバーワン」を目指すことはそれに逆らうことで、恥なのです! テーマを表現する世界観設定としては最適です。

 原作はこの舞台を使って「自己を確立する」というテーマを何年もかけて描きました。完結まで紆余曲折があり、伝わりづらい点もあったかもしれませんが、今回のTVアニメはそれを上手く再構成してまとめており、理解しやすくなっています。Blu-ray BOXを購入する以外にも、Amazon Prime Videoなどで視聴できますから、可能な方はぜひ振り返りながら、そのテーマ性の表現に注目してみてください!

 それでは今回はこの辺で! 次回もよろしくお願いします!

●タシロハヤト

美少女ゲームブランド「age(アージュ)」の創立メンバーで、長らくシナリオ、演出、監督等を務める。代表作は「君が望む永遠」シリーズ、「マブラヴ」シリーズ。現在はフリーで活動中。『シャーマンキング』の作者、武井宏之氏と旧知の関係である縁から、同作の20周年企画に参加している。

(タシロハヤト)

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