『ファーストガンダム』と『オリジン』は異なる物語…大きな違いは「キャラの性格」?
マグミクス / 2022年6月3日 6時10分
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■『オリジン』の誕生は「ガンダム」に新たな可能性を示した
本日2022年6月3日(金)から待望の公開となった『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』。本作は今回の監督であり、もともとのTVアニメ『機動戦士ガンダム』(以下、ファースト)ではキャラクターデザインを務めた安彦良和さんの描いたマンガ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(以下、オリジン)の時系列で進む物語です。
来週の6月7日(火)22:29~23:00からTOKYO MXにて、OVAシリーズ全6章をTVアニメシリーズ全13話に再編集した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 前夜 赤い彗星』の放送も始まる予定です。そこで、この『オリジン』についてご説明しましょう。
『オリジン』は『ファースト』をもとに再構築した物語。単なるリメイクというわけでなく、キャラや設定なども積極的に現代風にアレンジした作品となっています。『ファースト』に深くかかわった安彦さん自らが独自の解釈で再編集した、新たな「一年戦争」の物語が『オリジン』と言うことになるかもしれません。
例を挙げていくと、MSのデザインの変更、新キャラの登場で『ファースト』では語られなかった物語の追加、既存のキャラも一部にデザインの変更や階級が変わるなどしています。もちろん、『ファースト』にはなかった独自の物語を展開することもありました。
その細部の設定の違いに戸惑う人も少なくないと思いますが、それは『ファースト』と同じ時系列で考えるから矛盾が出てくるのだと思います。例えて言うなら、「赤穂浪士」の物語はいくつもありますが、大まかな流れは歴史に添って同じでも、細部は作家によって違うもの。つまり「一年戦争」という架空の歴史を、独自の演出で描いた別の作品と考えるとよいかもしれません。
今や「ガンダム」という作品は、それだけ幅広く物語を構築できるほどの巨大コンテンツなのでしょう。そう考えると『ファースト』と『オリジン』の違いは、むしろ積極的に楽しめる要素ととらえたほうがよいかもしれません。
しかし、物語の進行やメカのデザインといった目でわかる部分は違いも分かりやすいのですが、キャラの性格といった部分は読み解いていかないと分かりづらいもの。そこで今回は、『オリジン』がアニメとして製作された際に中心となった、ジオン公国側のキャラを中心に紐解いていこうと思います。
■キャラの性格を強調することで物語がより明快に
人類史上初のモビルスーツ戦のなか、シャアの冷徹さとランバ・ラルの良心が際立つ、アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN IV』DVD(バンダイビジュアル)
『ファースト』に比べて、より悪役としてのテイストが強くなったのがシャア・アズナブルとキシリア・ザビです。ふたりの行動によって『オリジン』の「一年戦争」が始まったと言っても過言でないほどの暗躍をしていました。
シャアが父であるジオン・ズム・ダイクンのかたき討ちのため、ザビ家に復讐しようとする点は『ファースト』も『オリジン』も変わりませんが、そのために周りの人間を利用することはもちろん、無関係の人を殺害することも平然と行います。
『ファースト』では時には失敗をして自嘲気味に笑うようなシーンもありましたが、『オリジン』のシャアは常に冷静沈着、すべて完璧にこなすように描かれていました。アムロに向ける憎しみも『ファースト』以上です。筆者的には将来はクワトロ・バジーナというより、パプテマス・シロッコにでもなりそうな性格の持ち主だと感じました。
同じくキシリアも作品の黒幕を一手に引き受けたような性格で、多くの民間人ごとシャアの暗殺を企てたり、兄であるサスロ・ザビ暗殺が疑われたりするなど、より冷酷なイメージがありました。『ファースト』では父のデギン・ソド・ザビを殺したことでかたき討ちのために兄のギレン・ザビを射殺したようにも見えましたが、『オリジン』では自分の野心からデギンの乗ったグレート・デギンの位置をギレンにリークしています。
このように、『オリジン』ではシャアとキシリアの悪行が、より大きく描かれていました。その逆に、敵ながら人間的魅力を前面に出して演出されたキャラもいます。
そのひとりがドズル・ザビ。『ファースト』でも粗暴に見えながらも人間的な魅力を持った指揮官として描かれていましたが、『オリジン』では情け深い面も多く描かれ、ザビ家の良心とも言える立場がより強く描かれていました。
また、『ファースト』ではわかりづらかった優れた指揮官、武人としての部分が強調されています。自身のいた宇宙要塞ソロモンの陥落も、『ファースト』ではプライドのために救援要請を出さなかったことから、ギレンとキシリアの政治的策動で増援が遅れたという展開に変わっていました。
『オリジン』で出番が増え、より人間的な部分が掘り下げられたキャラクターと言えば、ランバ・ラルもそうです。『ファースト』でもあったホワイトベースとの戦いではそれほど出番は多く増えてはいませんが、一年戦争以前の物語では主役のひとりと言っても過言ではないほどの活躍を見せていました。
ダイクンの死後、ザビ家との政争に敗れて没落していくラル家。その不遇をドズルに救われるも、大量虐殺であるコロニー落としに反対して軍から離れる展開は、『ファースト』で描かれることのなかったパズルのピースのようで秀逸な物語でした。
前述したドズルとともにランバ・ラルはジオン軍の良心とも言える存在だったことで、シャアとキシリアの暗躍がより際立ったのかもしれません。このように『オリジン』では『ファースト』以上にキャラの演出が濃くなっている印象があります。敵役はより悪役に、好感の持てる敵キャラはより人間味あふれる性格に、そういった点ではよりわかりやすいドラマになっているのではないでしょうか。
(加々美利治)
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