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『SPY×FAMILY』舞台のモデル「東ドイツ」とは? ヨルが偽装結婚を申し出たのもおかしくない

マグミクス / 2022年6月6日 17時10分

『SPY×FAMILY』舞台のモデル「東ドイツ」とは? ヨルが偽装結婚を申し出たのもおかしくない

■現実世界での「西側」と「東側」の歴史

 現在TVアニメが絶賛放送中の『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』。赤の他人のスパイの男、殺し屋の女、超能力者の少女がかりそめの家族として共にちょっと激しい日常を送る物語です。作品舞台のモデルとなっているのは、どのような世界なのでしょうか。

『SPY×FAMILY』の舞台のモデルとされている東ドイツことドイツ民主共和国は、1949年10月に建国されました。第二次世界大戦で敗戦したドイツ国は1945年に滅亡しており、残された国土と国民は戦勝国であるアメリカ、イギリス、フランス、ソ連の四か国による占領下に置かれました。

 なお、ソ連はソビエト社会主義共和国連邦という1922年から1991年まで存在していた社会主義国家の略称です。1950年代から80年代まではアメリカをはじめとする資本主義陣営との間で「冷戦」と呼ばれる対立関係にあり、日本もソ連を仮想敵国としていました。以後、ソ連を中心とした社会主義陣営を「東側」。アメリカを中心とした勢力を「西側」と呼称します。

 西側と東側は第二次世界大戦時には協力関係にあり、特にアメリカはソ連に対し大量の物資を供給し、勝利に大きく貢献しています。しかしながら戦後は関係が悪化して協調が困難となり、共同統治を行なっていたドイツの分断を招いたのです。

 1948年には西側主導で行われた通貨改革をきっかけに急速に分割統治の動きが加速し、どの国がどこを支配するのかを巡って対立が起こります。ソ連の占領地内に存在していた首都ベルリンは4か国で分割占領されており、東ベルリンはソ連、あとの3か国で西ベルリンを確保している状況でしたが関係が悪化したことによりソ連はベルリンを封鎖。対立は決定的なものとなり、1949年にはベルリンを首都とする東ドイツ、ボンを首都とする西ドイツ(ドイツ連邦共和国)が成立しました。

 なお、ベルリンについてはしばらくの間は東西の往来は自由でしたが、無計画な計画経済により東ドイツの経済が麻痺していくなかで西側への人口流出が続いたため、1961年に東側と西側の境目に「ベルリンの壁」が作られ、西側へと脱出を図った人々が数多く殺害される悲劇を生むこととなりました。

■密告による監視社会となった東ドイツ

TVアニメ『SPY×FAMILY』第9話より、「秘密警察」と呼ばれる国家保安局に所属するヨルの弟・ユーリ (C)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会

『SPY×FAMILY』ではかつてはひとつだった国が、戦争により西国(ウェスタリス)と東国(オスタニア)に分裂していることが明かされています。主人公のロイド・フォージャーは西国から東国に送り込まれたスパイで、妻のヨルは東国の殺し屋という設定です。東西ドイツも冷戦下では互いに諜報員を放ちあっており、水面下では激しい争いを行なっていました。スパイや殺し屋という設定は決して荒唐無稽な存在ではないのです。

 東ドイツは当時の東側諸国と同様に、政府が国を掌握するために厳しい統治を行なっていました。統治の最前線で活動したのが国内治安機関「シュタージ」であり、全国民のありとあらゆることを把握するためには一切の手段を選ばず、国民のなかにも自分の仲間や友人のことをシュタージに報告している人間が数多く存在していました。

 表面上は仲良く振る舞いながらも、いつ誰に「あいつが怪しい」と密告されるのかわからない恐怖におびえながらの生活が日常だったのです。ヨルは27歳で独身だと素性を怪しまれ殺し屋であることがバレると考え、偽装結婚を申し出ていますが、適齢期を超えて独身というだけで危険を感じるのも決しておかしな話ではありませんでした。そのヨルの弟であるユーリがシュタージをモデルとした国家保安局に在籍しているのは皮肉と言えるでしょう。

 経済面や工業面については、当初はさほどの差はなかったものの、時代が進むにつれ西側諸国に後れを取るようになります。その象徴ともいえるのが1958年に登場した軽自動車「トラバント」です。登場時点ではさほど遅れた自動車ではなかったものの、東側の計画経済化においては進歩とは無縁の状態で時代遅れの車両として生産が続けられました。監視社会において政府は国民が性能のいい自動車を保有することを嫌ったこともあり、結果として西側に比べ非常に性能が劣る車両を手に入れるのに、かなりの苦労をする状況となりました。『SPY×FAMILY』コミックス3巻の中扉絵ではアーニャたち3人が乗っている様子が描かれているだけでなく、作中のさまざまな場所にトラバントが登場しています。

 ただし、『SPY×FAMILY』のモデルとなったのはおそらく東ドイツだけではありません。アーニャが通う「イーデン校」のモデルはおそらくイギリスの「イートン校」であり、登場する街並みもおそらくイギリスがモチーフとなっています。『SPY×FAMILY』はあくまでも東西冷戦時代をベースにした作品でしかなく、当時の状況や世界を完全にトレースした作品ではないのです。

 しかしながら、単行本7巻でダミアンが取り巻きや先生と共に野外学習に行くシーンのラストでは、東国からピクニックと称して第三国経由で西に亡命している人間が増えていることが明かされています。これは1989年にハンガリーで行われ、1000人ほどの東ドイツ市民がオーストリア国境を越えて西ドイツへの亡命を果たした汎ヨーロッパ・ピクニックをモチーフとしたと思われます。

『SPY×FAMILY』の世界が今後どのような展開を迎えるのかは分かりませんが、少なくとも東国の崩壊の音が聞こえ始めたのは確かなようです。果たしてフォージャー家の3人はどのように生き抜いていくのか、楽しみにさせてもらおうと思います。

■参考文献
・著:アナ・ファンダー、訳:伊達淳 解説:船橋洋一『監視国家 東ドイツ秘密警察に引き裂かれた絆』(白水社)
・著:ウルリヒ・メーラート、訳:伊豆田俊輔『東ドイツ史』 (白水社)

(早川清一朗)

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