ソフト価値の任天堂VSハード価値のソニー、ゲームメーカー2強「真逆の戦略」
マグミクス / 2022年6月15日 6時10分
■ともに成功、だが戦略が異なる任天堂とSIE
国内における家庭用ゲーム機の歴史は1970年代に幕を開けましたが、任天堂が1983年に発売したファミリーコンピュータがきっかけで一大ブームが巻き起こりました。
このファミコンと、後継機に当たるスーパーファミコンの躍進ぶりは凄まじく、同時期に登場したライバルたちを圧倒した結果、任天堂ハードによる黄金期が長く続きます。
しかし、この流れを大きく変えたのが、当時のソニー・コンピュータエンタテインメント(現 ソニー・インタラクティブエンタテインメント、以下SIE)が放ったPlayStationです。本機の登場をきっかけに3Dゲームが発展を遂げ、その先駆者となったPlayStationと後継機のPlayStation 2が業界を席巻します。
この2社以外にも家庭用ゲーム機をリリースした会社はいくつもありましたが、現在活躍している現行のゲーム機を扱っているのは、国内では任天堂(Nintendo Switch)とSIE(PlayStation 5/PlayStation 4)の2強状態です。
両社の方針は異なっている点も多く、だからこそ切磋琢磨し合う相手として並び立っていられるのでしょう。今回は、その異なる方針のひとつ、「ゲームとハードに対する価値の置き方」から、任天堂とSIEの違いに迫ります。
●ゲーム機とソフト、いずれも重要なのは当然だが…
どちらの会社も「ハード」──つまりゲーム機を開発・販売していますが、同時にゲームソフトの制作も行っています。両社のゲーム機は世界的に有名ですが、数百万本レベルの大ヒットソフトも多数生み出しており、ゲームソフトメーカーとしても高い知名度を誇ります。
任天堂とSIEにとって、ゲーム機はもちろん、ソフトも重要な存在。面白いソフトがあるからこそゲーム機が売れますし、ゲーム機が普及すればそれだけユーザーの総数が増え、ソフトがより多く売れる可能性に繋がります。この相関関係があるため、ゲーム機とソフト、どちらも疎かにするわけにはいきません。
いずれも手を抜かずに重要視しているという大前提を踏まえたうえでの話となりますが、どちらをより重く見ているのかと聞かれれば、「任天堂はソフト、SIEはハードの価値を高めている」と答えます。
●タイトル発表から発売まで…2社で異なる期間
任天堂がソフトを、SIEがハードをより重視しているような姿勢は、どのような動きから分かるのか。まずは、新作発表から発売までのタイミングから迫りましょう。任天堂は、自社ソフトの発表から発売まで、あまり期間を空けない傾向にあります。
例えば、『スプラトゥーン3』の発売日は2022年9月9日ですが、本作が初めて発表されたのは2021年2月。これほどの話題作でも、発表から発売までわずか約1年半の見込みです。また、人気RPGの最新作『ゼノブレイド3』は、発表から発売日まで半年という驚異的なスピードで発売されます。
一方SIEの場合、発表から発売までの期間は一般的なソフトメーカーと大きく変わらず、それなりの間隔を設ける場合がほとんどです。話題になるソフトが発表されれば、その発売に向けてゲーム機の購入を検討するユーザーも出てきます。しかし安い買い物ではないため、費用の捻出にはある程度の期間がかかりがち。そのため、気になるソフトの発売日までにゲーム機の購入が間に合うよう、ある程度の期間を意図して設けるのも戦略のひとつです。
しかし、発売まで間が空きすぎると、熱が冷めてプレイしなくなる可能性が増えていくのも事実。任天堂の短期間な方針は、その熱を逃さずソフトの購入に繋げる狙いがあるように思われます。ただし、延期などの都合で結果的に発売まで時間がかかる場合もあり、そこは歯がゆいところかもしれません。
■自社ソフトのセールも、はっきり方向性が分かれるー
2022年9月9日には、Nintendo Switch最大級の注目タイトル『スプラトゥーン3』が発売される
●安売りせずソフト価値を保つ任天堂、サブクスや大胆セールでゲーム機価値を高めるSIE
もうひとつ、消費者が使う「お金」の面においても、両社の価値観の違いが見えてきます。
例えば、ダウンロード版ソフトをお得価格で提供するセールを両社ともに行いますが、任天堂の場合、自社ソフトのセール価格は基本的に30%OFF止まり。ゴールデンウィークセールも、『スプラトゥーン2』や『ファイアーエムブレム 風花雪月』などが30%OFFでした。
一方、SIEのセール価格は大胆です。「Days of Play」では、『Detroit: Become Human』47%OFF、『アンチャーテッド コレクション』50%OFF、PS4版『GRAVITY DAZE』75%OFFと、かなりのお得価格で提供。SIEによる自社ソフトの大盤振る舞いは、珍しくありません。
なお、ゲーム機の価格設定はまるで逆転し、任天堂は低価格路線を堅持。スーパーファミコンからWiiまでは2万5000円に押さえ、Wii U プレミアムセットやNintendo Switch(通常モデル)でも3万円程度です。
SIEはハードによってバラつきがありますが、直近だとPlayStation 3から最新の5まで、4万~6万円の範囲でデビューしています(いずれも発売当初)。高性能を求めると価格が上がるのはむしろ必然。そして、この価格に見合う満足度を提供すべく、SIEはサブスクリプション方式の有料サービス「PlayStation Plus」(以下、PS+)を打ち出しています。
定額を払ってPS+に加入すれば、追加料金なしで対象ソフトが遊び放題になるうえ、加入期間に応じて遊べるソフト数が実質的に増加。フルプライスのソフトもたびたび対象となるので、賢く使えばかなりのお得度でしょう。
極端な物言いになりますが、SIEのゲーム機とPS+さえあれば、ソフトを購入せずとも多数のゲームを遊ぶことが可能です。これは、「ハードの価値を高める施策」と捉えることもでき、こうした展開からSIEの方向性を窺うことができます。
任天堂もNintendo Switchでサブスクを導入していますが、期間限定で遊べるものを除けば、クラシックで懐かしいソフトが大半。その分サブスクの価格は低く設定し、最新のゲームは基本的に「購入してください」という姿勢を貫いています。
自社ソフトの安売りをしない一方で、ゲーム機本体やサブスクの価格はかなり抑さえている任天堂。高性能に見合った価格のハードを販売しながら、自社ソフトは大胆にセールし、ボリュームたっぷりのサブスクを提供するSIE。真逆ともいえる方針を見せる両社が並び立つゲーム業界は、今後も新たな発展を見せてくれることでしょう。
(臥待)
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