本当は怖いウルトラマン…楳図かずお版は「バルタン星人」もトラウマものだった
マグミクス / 2022年6月22日 17時10分
■ホラー色強い! 楳図かずお版「バルタン星人」エピソード
岩手県で確認された謎の赤い雨。まるで血のように禍々しい色彩を放つそれは、実はバルタン星人たちがバクテリア状になったものでした。宇宙を放浪していた彼らは、地球を自分たちの入植地にするべく、今まさに人類に寄生しようとしていたのです……!
TV放送されたオリジナル版と異なる導入で幕を開けた、楳図かずお版『ウルトラマン』の「バルタン星人の巻」。数ある初代『ウルトラマン』のコミカライズの中では人気の楳図かずお版でしたが、その一部エピソードは本家TV版とは異なるホラーテイストで、怪奇マンガではないかと錯覚するほど怖い描写が多く含まれていました。とくに赤い雨ではじまる「バルタン星人の巻」は楳図テイストが色濃く反映されており、開始7ページ目から早くもその片鱗を見せます。
最初の被害者は、赤い雨の調査中にバクテリアに触れてしまった神山博士です。意識を乗っ取られた彼は、深夜にムクリと起き出すと、ガソリンを美味そうにゴクンゴクンと飲み干します。その目は赤く血走り、口からはまるで、血をすすったばかりの吸血鬼のようにガソリンを滴らせています……。不気味に口元を歪めて笑うその姿は、かつての知的な輝きを失い、狂気に染まった目をギラつかせる「怪物」そのものでした。
神山博士から分離したバルタン星人は、それから残りのバクテリアを都市部の貯水池に散布して消息不明に。数日後、友人のホシノくんから、とある公団アパートの異変を知らされたイデ隊員は、ホシノくんの案内で問題のアパートへ向かうことにします。
しかしアパートの住人は、すでに貯水池の汚染で全員がバルタン星人に寄生された後……。薄暗く、静まり返ったアパート内で不気味な住人たちに囲まれたイデ隊員とホシノくんは、そこで監禁されていた「山田くん」を発見します。
正気を保っているようすの山田くんに、ホッと胸をなでおろすホシノくん。しかし山田くんは不気味な笑みを浮かべながら、自分はもうすぐ自由の身になると告げます。
「ケケケ。ぼくはもう、半分バルタン星人なんだよ。ひみつをしった君たちも、今にこうされる(乗っ取られる)よ」
山田くんの両手は小さなハサミ状に変形していました。しかも見る見るうちにツノが生え、目が飛び出し、その身体を醜く変身させていったのです……!
その後も着々と進むバルタン星人の侵略行為。楳図かずお先生の持ち味が奇跡的にマッチした本エピソードは、ここからさらに怪奇度を増すことになります。
さて、ストーリーも影を多用した作画も楳図かずお節炸裂でしたが、ウルトラマンや怪獣の見た目も負けず劣らず個性が際立つデザインです。そこで、ここからはデザイン面を掘り下げます。
●特徴的な顔のウルトラマン、毒毒しい怪獣
楳図かずお版『ウルトラマン』は、ストーリーはもちろん、キャラクターも一部、独自解釈がされています。そのもっとも大きなポイントがウルトラマンの顔でした。
いわゆる「のぞき穴」がないのは他のコミカライズと共通する部分として、口の上にあるラインは楳図版ならではです。これは本家『ウルトラマン』の、いわゆる「Aタイプ」の顔を意識したものでした。
ウルトラマンはシリーズを通し、3つの「顔」が存在します。初期の顔は口を可動させる予定があったため、可動の関係で口の上部にわずかなシワができています。楳図版の初期エピソードはこのAタイプをもとに作画しているため、シワを実線で描き、口元が露出したようなデザインになりました。
本家『ウルトラマン』の顔は、その後再度のリニューアルを経て、現在の凛々しいデザインに至ります。そのため、第13話までの顔を「Aタイプ」。第29話までの顔を「Bタイプ」。第30話以降、現在に至る顔を「Cタイプ」と便宜的に呼んでいます。
楳図版のウルトラマンも初期はAタイプをベースにしていましたが、「高原龍ヒドラの巻」でBタイプを意識したデザインに変更されました。
一方、本稿で取り上げたバルタン星人も独特な描き方がされていました。
まずは「ハサミ」の部分です。オリジナルの特撮版では綺麗なタマゴ形ですが、楳図版では血管が浮き出ているうえに、鋭いキバが飛び出すギミックが備わっています。また飛行時は蛾のような巨大な翼が生えるのも特徴的でした。
■なぜ自由な作風でウルトラマンを描けた?
1967年に刊行された、楳図かずおによるホラーマンガのひとつ。おどろおどろしいタッチは若干ソフトになっているものの、『ウルトラマン』でもこの陰影を効果的に用いて独特の世界観を構築した。なお『ミイラ先生』は電子書籍でも発売中。(小学館)
オリジナルの『ウルトラマン』では、第2話「侵略者を撃て」で登場したバルタン星人。作風は楳図版と違ってコメディ色強めです。
それに対してコミカライズのバルタン星人登場エピソードは、シリーズの第1話にしてホラーテイスト。全10話構成という、やはりホラーテイストが色濃く反映された「ミイラ怪人ドドンゴの巻」と同じ最長エピソードでした。
それではなぜ、これほどまでに自由な作風で描けたのでしょうか?
楳図先生の連載がスタートしたのは、実は本家『ウルトラマン』が放送される前のこと。先行連載として、放送がスタートした時点では4話分が掲載済みでした。つまり番組制作と同時進行だったためオリジナル色が強くなったのです。
また「ウルトラマンを最初から登場させたい」という編集部の意向を受け、本家のシナリオに増築する形でエピソードを追加したのもその要因です。終盤は本家と同様の展開が繰り広げられるものの、大部分がオリジナル展開となりました。
なお楳図かずお版『ウルトラマン』は「バルタン星人の巻」が第1エピソードなので、ウルトラマンとハヤタ隊員の出逢いは描かれていません。バルタン星人と対峙する初登場の時点で、すでに人々に認知されていました。
本家特撮『ウルトラマン』と比較をすると、明らかに異色で作家性が強く出ている本作。しかしホラーテイスト効果でバルタン星人をはじめとする宇宙人や怪獣の存在感が増したり、メリハリのある整った作画も手伝ったりして、当時のファンの間では1、2を争うコミカライズ作品として人気を博したのでした。
(気賀沢昌志)
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