「ゲームの説明書」はナゼ消えた?ワクワク詰まった小冊子が去りゆく4つの背景
マグミクス / 2022年6月21日 18時30分
■プレイ前に、気持ちを高揚させてくれた「ゲームの説明書」
「唯一生き残れるものは、変化できる者である」と唱えたダーウィン。変化と無縁でいられる業界はまず存在しませんが、日進月歩で進化し続けるゲーム業界は最たる例のひとつと言えます。
ゲーム業界において、目に見えて分かる大きな変化のひとつは、小冊子形式の「説明書」の衰退です。保護ケースのなかに必ず封入されていた説明書は、今や絶滅の危機に瀕しています。
「ゲームの説明遺書」はどこへ消えたのか。なぜ衰退していったのか。変わりゆくゲーム文化の一端を、消えゆく小冊子の視点から眺めてみましょう。
●ただの操作案内ではなかった「ゲームの説明書」
今日のような通販やDL販売がなかった時代、ゲームはお店に行って購入するものでした。徒歩圏内にゲーム屋がない場合も多く、電車で大きな町へ行き、そこで買った方も多いでしょう。
帰り道。買ったばかりのゲームに期待を寄せつつ、車内で「ゲームの説明書」を読むひとときは、ワクワクが何倍にも膨れ上がる至福の時間でした。操作方法の把握はもちろん、世界観やあらすじを読んで想像を広げ、登場キャラクターをチェックしては新たな出会いに想いを馳せる──それは、冒険の入り口を覗き込むようなトキメキです。
こうした「ゲームの説明書」文化は、ファミコン時代から連綿と受け継がれてきましたが、任天堂ハードならWiiからWii U、PlayStation系列だとPS3からPS4の辺りで、小冊子としての説明書が急速に衰退し、次第に見かけなくなります。
胸を高鳴らせた説明書が、不要の存在へと移り変わったゲーム業界。一体何があって、「ゲームの説明書」は姿を消そうとしているのでしょうか。
●説明書の役目を奪っていく、親切丁寧なチュートリアル
「ゲームの説明書」の役割として最も大きいのは、操作方法の説明。くだけた言い方をすると、「このゲームをどうやって遊ぶのか」のレクチャーです。ほぼ全ての家電に説明書があるように、ゲームにとっても説明書は不可欠な存在でした。
しかし、小冊子による事前の操作説明を不要とする進歩が、ゲーム内に訪れました。それは、「チュートリアルの充実と定番化」です。ゲームをどうやって遊べばいいのか、紙媒体で紹介するのではなく、実際にゲームを遊びながら伝える方法が取り入れられ、今やすっかり定番と化しました。
遊び方をゲーム内で伝えるチュートリアルの発想は、古くはファミコン時代からありました。例えば、初代『ドラゴンクエスト』が当てはまります。キャラに話しかけ、アイテムを取得し、そのアイテムを適切に使わなければ、冒険が始まりません。こうした実際の手順を通すことで、プレイヤーは「遊び方」を自然と身につけていきます。
チュートリアルの片鱗はファミコン時代からあったものの、まだまだ一般的とは言えず、操作説明などを説明書で済ますゲームが大半でした。しかし時間が経つにつれ、チュートリアルの価値と認知度が高まり、今では多くのゲームが何らかのチュートリアルをゲーム内に用意しています。
説明書だと流し読みも可能ですが、ゲーム内のチュートリアルだと実際に入力しないと先に進めない場合が多いので、半ば強制的に操作を学ぶことになります。その賛否はともあれ、より確実にゲームを理解する手段としてチュートリアルが活用されており、相対的に「説明書」の重要性が下がっていきました。
■時代の変化に伴い、消えていく紙媒体の「説明書」
現行ハードのソフトには、ほぼ紙の説明書がつかない
●説明書にも押し寄せる「電子化の波」
物理的な「ゲームの説明書」の立場が弱くなった理由はもうひとつあり、それはDL版の普及です。時代的にはWiiやPS3の頃から広まっていき、今では「DL版しか買わない」というユーザーもかなり増加しています。
DL版は全てデジタルなので、紙の小冊子としての「ゲームの説明書」は当然ついてきません。その代わり電子版の説明書が用意されており、その内容は小冊子と同様。本来の役割を十分果たしています。
DL版には電子の、パッケージ版には小冊子の説明書を付属させる。この手法は、見方を変えれば二度手間とも言えるでしょう。しかし、パッケージ版でも電子の説明書を読めるようにすれば、用意するのは電子版だけで済みます。そうした背景から、電子化への1本化が進みました。
ちなみに、DL版に小冊子をつけるという手も物理的には可能ですが、送料が発生して余分な出費が増えますし、住所登録などの手続きも煩わしいため、ユーザー側のデメリットが大きく現実的ではありません。
DL版という新たな選択肢が、説明書の電子化を促進。手間の軽減から電子化に統一されつつあるのも、紙媒体の説明書が衰退した主な理由のひとつです。
●生産費用や在庫リスクを踏まえたコストカットの影響も
説明書の電子化は、手間の軽減も含みますが、もうひとつの理由に「費用の削減」があります。データ上の存在であるDL版は、何本生産しても物理的なリソースは必要ありません。生産そのものにはコストがかからず、製造時間も不要です。
しかしパッケージ版は、ゲームディスクやゲームカードを物理的に生産し、それらを守る保護ケースも用意し、そこに封入しなければなりません。いずれも生産に費用がかかり、また相応の製造時間もかかります。
作り過ぎれば、余った分はそのまま損失になります。しかし売り切れれば、再生産には時間を要し、その空白期間が機会損失に繋がります。どれだけ生産するのがベストなのか、事前にその正解にたどり着くのは困難です。
そこに「紙の説明書」が加わると、1本辺りの生産コストはさらに増します。また余った時は、説明書の分の損失が上乗せされるのも悩ましい点です。
パッケージ版の場合、ゲームソフトそのものや保護ケースを省くことはできません。しかし、説明書は電子化が可能。その分の生産コストや在庫リスクを回避できるとなれば、費用削減の観点から見ても、紙の説明書が消えゆくのは無理のない話かもしれません。
●「説明書」の需要は、ユーザー側でも意見が分かれる
定番化したチュートリアルの存在、DL版の普及に伴う説明書の電子化と一本化、生産時における費用の削減など、様々な理由で「紙の説明書」が廃れていきましたが、大きな理由はもうひとつあります。しかもそれは、ゲームを作る側ではなく、それを遊ぶプレイヤー側の事情が関わる話です。
最初に触れた通り、小冊子の説明書をワクワクしながら読むゲームファンは間違いなく存在します。ですが、それは全員ではありません。楽しく読む方がいるのと同様に、説明書を全く読まない人たちもいるのです。
チュートリアルの発達により、そうしたユーザーが増えた面はありますが、ゲーム内の説明がまだ不十分だったファミコン・スーファミ時代にも、説明書を読まない派が一定数いました。これは良し悪しではなく、タイプの違いと言うほかありません。
楽しみにしている方もいれば、全く読まない人もいる。それは、「必ずしも全員が必要とはしていない」と受け取ることもできます。人を選ぶ楽しみだとすれば、優先順位を下げようと考えるのも無理のない話でしょう。そこに、電子化での代替やコスト面のリスク低下などが加われば、小冊子の廃止も止むなし。こうした複数の背景が絡み合った結果、パッケージの簡素化が進み、「紙の説明書」が消えようとしているのです。
●「紙の説明書」をかろうじて継続するメーカーもあるが…
小冊子としての「ゲームの説明書」を好んできた方にとっては、この状況は残念のひと言に尽きます。一部のメーカーでは、薄めながら小冊子を付属させているケースもあり、例えば『イースIX -Monstrum NOX-』(日本ファルコム)や『地球防衛軍5』(ディースリー・パブリッシャー)などのパッケージ版に、12ページほどの「ゲームの説明書」が封入されています。
なかには、往年のボリュームに負けない30ページ超えの説明書を用意した『閃乱カグラ Burst Re:Newal』(マーベラス)などもありましたが、全体的な傾向はペーパーレスに傾いており、何らかのブレイクスルーでもなければ、紙の説明書はこのまま消え行くのみです。
ダーウィン曰く、変化できない存在は生き残れない。だとするなら、紙の説明書が途絶える流れも、恐れずに受け入れるべき変化なのかもしれません。その結論が出る時期は、もう目の前まで来ているのでしょう。
ゲームの説明書は、どこに消えていくのか。せめて、その最後の姿を見届けたいものです。
(臥待)
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