失われゆく文化「駄菓子屋アーケードゲーム」の魅力 思わぬ落とし穴も
マグミクス / 2022年7月2日 15時10分
■ゲーム少年にとって駄菓子が「楽園」だった理由
家で遊ぶ家庭用ゲームもいいものですが、アーケードゲームの楽しさはまた別腹です。技術の進化によって、今や家でもアーケードと同レベルのゲームが遊べるようになりましたが、アーケードゲームが並ぶ光景は、現地ならではのワクワク感を味わえます。
アーケードゲームがプレイできる場所は、かつてはゲームセンターが主流でした。しかし近年は、大型ショッピングモールなどに組み込まれたアミューズメント施設系の店舗も増え、ゲームセンターは少しずつ影を潜める傾向にあります。
ですが、アーケードゲームを満喫出来る代表的な場所は、もうひとつありました。特に小中学生に支持される、子供たちの楽園──そう、駄菓子屋です。駄菓子とメダルゲームが所狭しと並ぶ店内の一角や店先などに、様々なアーケードゲームが置かれることが多々あります。
きらびやかな施設やゲーマーが集うゲームセンターとはひと味違うその空間は、子供たちにとってまさに天国のような場所。ただし、ちょっとした罠にハマることもありますが、それもまたひとつの思い出です。そんな、駄菓子屋アーケードゲームならではの魅力とそこに潜む罠について、大人の視点から当時を振り返ります。
●ゲーム業界の価格破壊? 10円玉数枚でプレイできる喜び
アーケードゲームの1プレイは、大型筐体だと200円や300円かかるものもありますが、通常の筐体ならば大体50円~100円に収まります。しかし小中学生にとって、1プレイ100円はちょっと勇気が必要な料金。50円で遊べるゲーセンを求めて通う姿も、かつては珍しくありませんでした。
しかし駄菓子屋に並ぶアーケードゲームは、こうした料金帯に留まらず、1プレイが30円や20円という破格設定もしばしば。駄菓子屋に通う少年たちは、銀色ではなく銅色の効果を握りしめ、ゲームプレイに励んでいました。
ちなみに、1プレイは安いものの、残機設定が少なかったり、難易度が上がっているといった調整を施すお店もありました。ですが当時の子供達にとって「安いは正義」なので、むしろ喜々として遊んだものです。
●おやつ食べながらゲーム…欲望全開で楽しめる子供たちの社交場
施設系の場合、飲食できない場合も少なくありません。またゲームセンターだと、何かを食べるにしてもまず調達しなければならず、小腹を満たすには最寄りの店へ買いに行くひと手間がかかります。
ですが駄菓子屋ならば、空腹への対処は万全。口さみしい時の駄菓子、夕食前のおやつ代わりにカップラーメン、店によってはもんじゃ焼きという豪華な選択肢も。ほぼ移動する必要のない環境は、まさに理想的と言ってもいいでしょう。
しかも、自宅だと親に怒られてしまいそうな、「ゲームしながらお菓子を食べる」なんて贅沢も容易く叶えられます。アイスを口に加えてレバーを動かし、敵を撃破する合間にポテチをつまむ。ゲーム少年の理想ここにあり、です。
●時代の先取り? オープンテラス的な開放感がたまらない
カフェや行楽地ならば、オープンテラスで軽食をいただくのもオツなもの。ですが、ゲームは基本的にインドアな遊び。施設にせよゲーセンにせよ、屋内で楽しむのが一般的です。
しかし、筐体を店の外に置く駄菓子屋ならば、そこはアーケードゲームのオープンテラス。日差しを浴び、そよぐ風を受けながら遊ぶ開放感は唯一無二。ゲーセンなどでは決して味わえない、天然のアミューズメントパークです。
また、駄菓子屋というシチュエーションゆえに、高校生や大学生などがあまり寄り付かず、小中学生が気兼ねなく集まれるのも嬉しいポイント。たむろする遊び場として見ても、優秀さを誇ります。
■「駄菓子屋アーケード」の思わぬ落とし穴とは?
駄菓子屋にあるアーケードゲームは、座って遊ぶ「ミディタイプ筐体」や、立ったまま遊ぶ「アップライト筐体」などが主流だった(画像:写真AC)
●「駄菓子屋アーケード」の天敵とは?も
ゲーム少年の夢が詰まった、駄菓子屋アーケードゲームの世界。しかし、夢の裏側には思わぬ落とし穴が待ち構えていることもあります。例えば、開放的な雰囲気でゲームが楽しめる一方で、その日差しは時にゲームの大敵として立ちはだかります。
日光がゲームの画面に差し込むと、その光の強さが画面を遮り、プレイに著しい悪影響を与えることが。目を凝らしても全く見えず、判断不能の状態のままやられる悲劇がたびたび起こりました。
こうした不幸に抗うには、やはり物理的な手段が一番。筐体と日差しの間に友達を起き、日光を直接遮断して対抗するのが効果的でした。環境の厳しさを、友情の力で打ち勝つ。少年漫画のような展開です。
ちなみに、雨が降っても友達に傘を差してもらう手で乗り越えられますが、砂塵混じりの突風はかなりの強敵。半ズボンを履いていた日には、戦う前から負け確定です。
●どんな難易度のゲームよりも手強く、決して抗えない絶対のルール
楽しいゲームをいつまでも遊んでいたい。そうした願望はゲーム少年共通の誰もが思うことですが、駄菓子屋アーケードゲームの場合、容赦のない現実が突きつけられます。
それは、駄菓子屋の閉店時間。店によって差はありますが、学校帰りの小中学生がメインターゲットなので、夜になると客足は途絶えがち。そのため長々とお店を開けるメリットはほとんどないので、夕方頃に閉めてしまうお店も少なからずありました。
長居がすぎれば親に怒られるものの、出来るだけ長く遊びたいと思うのは人の常。限界ギリギリまで粘りたい……しかし、閉店時間という現実には太刀打ち不可能。プレイしたい未練を抱える帰り道は、少々切ないものがこみ上げてきます。
●メンテの概念はどこへ? 故障したままの筐体と、立ち向かう少年たち
駄菓子屋アーケードゲームは、懐に優しくて気軽にプレイでき、お菓子をつまめるという最高のロケーション。しかし、環境面で万全とはいえない面もあり、その最も大きな罠が「故障した筐体」です。
ゲームセンターや施設系の場合、故障を店員に伝えれば、早ければ即日、遅くてもそれほど時間がかからずに修理されます。しかし駄菓子屋の場合、修理に時間がかかるどころか、そのまま放置というケースもありました。
一瞬の判断遅れが致命傷=リアルマネーを失うアーケードゲームで、筐体の故障は命取り。ボタンが効かない、画面にヒビ、レバーのボール部分が無い……どれも、過酷どころの話では済みません。故障筐体が多く、そしてメンテ率が低い。それは、駄菓子屋アーケードゲームの宿命なのかもしれません。
ちなみに、壊れているから遊ばない……とはならず、「このボタン以外を使って攻略しよう」「ヒビ割れてるところは見にくいから、できるだけこっち側で戦えばいい」「このレバー、握れないけど指でつまめばイケるんじゃね?」と、変な向上心を持ちつつ遊ぶ小中学生たち。勉強では決して発揮しない懸命さもありました。
駄菓子屋アーケードゲームには夢と罠が交錯していましたが、その両方を受け止める柔軟な逞しさこそが、あの頃の日々を輝かせていたのかもしれません。
(臥待)
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