『ガンダム』ジムとボールは本当に弱かった? 劇中で語られない戦略上の強さ
マグミクス / 2022年7月3日 19時50分
■コンビだと強かったジム&ボール
一年戦争の初期は、モビルスーツを主力兵器に据えたジオン軍に対して劣勢に立たされていた地球連邦軍。しかし、最終的には立場を逆転し、地球連邦軍は一年戦争に勝利しました。そんな地球連邦軍を勝利に導いたのは、RX-78-2ガンダムをベースにした量産型モビルスーツ、RGM-79ジムと同時運用された戦闘用ポッドRB-79ボールの存在があったからとも言われています。劇中ではあまり強さを見せつけることができなかったジムとボールの組み合わせですが、本当に弱かったのでしょうか? ミリタリー的な発想も交えて検証していきましょう。
「量産型のガンダム」として、その後の作品にも大きな影響を与えたモビルスーツ ジム。画像は「MG1/100 RGM-79ジム Ver.2.0(機動戦士ガンダム)」(BANDAI SPIRITS)
●ザクIIよりは強かった? ジムの性能
一年戦争において、モビルスーツの量産化でジオン公国軍に遅れをとっていた地球連邦軍が、試作型モビルスーツ RX-78 ガンダムをもとに開発し、主力兵器として量産化したのが、RGM-79 ジムです。
高精度かつハイスペックなパーツを使い、生産性を度外視していたガンダムに比べてしまうと、ジムは性能面では大きく劣ってしまいます。しかし、決して開発時期を考えてみても、ジムは決して弱いモビルスーツでは無かったはずです。
地球連邦軍のモビルスーツ開発は、ジオン軍の主力機であるMS-06ザクIIを基準に行われています。ジムを新たな主力モビルスーツにすることを考えるならば、基本性能に関しては最低でもザクIIを越えることが求められます。プロトタイプであるガンダムの性能がザクIIを大きく凌駕できていたわけですから、いくら生産性や整備性を重視してスペックを下げるにしても、ザクII以上のジェネレーター出力を持ち、装備を変化させる機体の拡張性は視野に入れていたはずです。
事実、ジムはガンダムほど高出力ではありませんが、ビーム兵器の運用が可能なジェネレーターを持ち、大幅な改造をせずとも、一部のパーツを変更することで多くのバリエーション機に発展させるだけの拡張性の高さも持っていました。
つまり、ジムはザクIIを越える基本性能や発展性を持っており、さらにザクIIと並んで主力機として活躍することになるリック・ドムにも劣らない機体であったことは間違い無いでしょう。
●戦力の不足を補うために登場したボール
地球からジオン公国軍の主力部隊を撤退させることに成功した、反攻作戦「オデッサ作戦」に続いて、地球連邦軍は宇宙での本格的な攻勢に出ます。それが、再編した宇宙艦隊と量産された主力モビルスーツ・ジムを主戦力に据えることで、ジオン公国の要衝のひとつである宇宙要塞ソロモンを攻略する「チェンバロ作戦」です。この作戦にジムと一緒に運用することを前提に支援用として配備されたのが、宇宙用の作業ポッドを戦闘用に改良したモビルポッドRB-79ボールでした。
ジムは地球連邦軍の持つ工業力によって、短期間に大量の量産が行われました。しかし、生産を急いだがゆえに、ジムは想定していたよりも基本性能が低くなってしまい、さらにパイロットの操縦練度の低さも抱えることになります。そこで、宇宙空間での戦闘には、モビルスーツの小隊単位での個別戦闘を行うのではなく、複数の部隊を集めて行動する集団戦闘に重きを置くという戦略が取り入れられました。近距離での攻撃は前面に展開するジムの部隊が担い、後方から砲撃支援を行いながら侵攻するこの戦い方によって、数的な有利を活かしつつ、練度の低さを補うことができます。
そして、そうした戦術を実行するために、ジムを後方から砲撃支援を行う機体として急造されたのがボールでした。艦船には不可能なモビルスーツ部隊に追従し、作戦行動に合わせて柔軟に運用できる移動能力、高い砲撃能力を持ちつつ、低コストで大量生産できるボールは、ジムをサポートするという意味では大きな戦力になりました。
■ジムとボールが「弱くなかった」と言えるワケ
火力支援のための最小限の装備で作られたボール。画像は「MG1/100 RB-79ボールVer.Ka(機動戦士ガンダム)」(BANDAI SPIRITS)
こうしてソロモン攻略戦に投入されたジムとボールの組み合わせは、総合的に見れば「弱くなかった」と言うことができます。個別の対モビルスーツ戦闘においては、パイロットの練度の低さなどもあり、ジオン公国軍のザクIIやリック・ドムに数多く撃破されたに違いありません。特に、ボール単体で言えば対モビルスーツ戦に向いた機体ではないため、なす術なく撃墜された機体も多かったことでしょう。しかし、戦闘の結論から言えば、ジムとボールの連携は大きな戦渦を挙げていたのは間違いありません。
ジオン公国軍のモビルスーツによる個別撃破を念頭に置いた戦い方に対し、ジムの部隊はシールドで防御しながら集団で前進する戦法を採っています。これでは、個別の性能は低くても迂闊に近づけば袋だたきに遭う可能性があるため、ジオン側は攻めあぐねる状況にあったと思われます。
さらに、後方からは通常のモビルスーツの携行武器よりも大型の火砲で臨機応戦に援護射撃を行うボールがいれば、なおさら近づきづらいはずです。もちろん、技量の高いモビルスーツパイロットならばある程度対応できたかもしれませんが、一般的なモビルスーツパイロットならば、数の有利を理解したシステマチックな戦法に圧倒され、追い詰められてしまったのはほぼ間違いないと思われます。
ソロモンが陥落したという結果からも、ジムとボールを組み合わせた戦法が功を奏したことがわかります。ソロモン侵攻における状況の不利を打破するために果敢に戦ったものの、ジオン公国軍は多くのベテランパイロットが失われ、続くア・バオア・クー戦においては、高性能な次期主力モビルスーツであるMS-14ゲルググが配備されるも、パイロット不足に悩まされ、訓練不足の少年兵までも投入されたと言われています。
一方、ジムはジム・スナイパーカスタムやジム・キャノンといったバリエーション機やジム改などの改良機も配備されていたことを考えると、その後、戦力としてはどんどん強化していったことがうかがわれます。
機体の性能面において、ジムとボールの組み合わせは決して強くなかったかもしれません。しかし、モビルスーツを使った戦いを有利に展開させるのは機体の性能差だけではなく、戦術や戦略が重要であるということが、ジムとボールの組み合わせから改めて証明したと言えるでしょう。
(石井誠)
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