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劇場版『イデオン』40周年 救いがない悲劇的アニメの「今ならありえない」イベントとは?

マグミクス / 2022年7月10日 6時10分

劇場版『イデオン』40周年 救いがない悲劇的アニメの「今ならありえない」イベントとは?

■『イデオン』に立ちふさがった意外な障害とは?

 7月10日は、1982年にTVアニメ『伝説巨神イデオン』の劇場版である『THE IDEON 接触篇』と『THE IDEON 発動篇』が公開された日。2022年は40周年となります。富野喜幸監督の最高傑作と位置付ける人もいる本作について振り返ってみましょう。

 TV版『イデオン』は、アニメファンから「傑作」と思われながらも打ち切られてしまった名作『機動戦士ガンダム』の次に富野監督が制作した作品です。当時のアニメファンの期待度は高く、各アニメ雑誌も毎号、誌面を割いていました。

 しかし『ガンダム』以上に重くて暗く、救いのないシリアスな展開は万人向けとは言いづらく、期待された「ポストガンダム」と呼べるほどの支持は集められなかったのです。作品的な人気は高かったのですが、アニメファンには『ガンダム』の方が好きという人も多くいました。さらに『ガンダム』の劇場版が決まると、やはり『ガンダム』だという風潮が加速します。

 このように『イデオン』の最大の壁は、同門である『ガンダム』という皮肉な事態になりました。そして、スポンサーの販売したオモチャの売り上げが伸びなかったことから、皮肉にも『イデオン』もまた打ち切りということになります。奇しくも『ガンダム』と同じ1月末の終了でした。

 しかし『ガンダム』がそうであったように、『イデオン』も劇場版で観たいという熱心な声がファンからあがります。それは『ガンダム』と違って、TV版『イデオン』の最終回があまりに唐突に見えたこと。そして、最終回以降の作画が進んでいたことがアニメ雑誌で明らかになったことが理由で、それらがファンの期待に火をつける要因になりました。

『ガンダム』という前例があり、その『ガンダム』の三部作終了後に劇場版が見られるという期待もあって、劇場版『イデオン』への注目はアニメファンの間では高まっていきます。しかし、スタッフのなかには一抹の不安もありました。それは『ガンダム』ほど一般層の熱気を感じられなかったことです。

 そこで劇場版『イデオン』は、劇場版『ガンダム』と同様に複数に分けての公開を検討されながらも、興行不振で最終作を制作できない事態になる恐れを考慮して、TV版の総集編である『THE IDEON 接触篇』と、TV版最終回以降がメインとなる新作映画『THE IDEON 発動篇』の2本同時上映という形をとることになりました。2本合わせて3時間以上にも及ぶ上映は異例のことだったのです。

 しかし、これでもなお製作サイドは、『ガンダム』と比べて盛り上がっていないことを不安視していました。そこで前代未聞のイベントで、一般層も巻き込んだ盛り上がりを計ります。それが伝説の一大イベント「明るいイデオン」でした。

■製作サイドとファンが一体となった「明るいイデオン」

富野監督による『戦闘メカ ザブングル』 画像は『ザブングル グラフィティ』 DVD(バンダイビジュアル)

「明るいイデオン」とは少し自虐的な名前ですが、ファンやスタッフに至るまで誰もが『イデオン』は暗い作品と認識していたので、それを逆手に取った戦略でした。

 当初は「現在日本で最高水準のアニメ作品」というキャッチコピーでイベントを行う予定だったそうです。おそらく劇場版『ガンダム』公開直前に行ったイベント「アニメ新世紀宣言大会」の成功体験から企画が進んだのでしょう。

 ところが、映画公開の年の2月から放送を開始した富野監督の新作TVアニメ『戦闘メカ ザブングル』を見て、その完成度の高さを知ったことから、そのコピーは使えないという話になりました。またしても皮肉なことに、同門の作品が『イデオン』の前に壁として立ちふさがったわけです。

 そこで方向転換して、『イデオン』とは無縁だった「明るさ」をキーワードにして、意図的にブームを盛り上げようとしました。この背景には、当時、流行りだした「アニパロ」というアニメ作品のパロディマンガや小説が、アニメファンの間でブームになっていたことも理由です。

 このイベントを盛り上げようとしたのは製作サイドだけでなく、関連企業とも言える当時のアニメ雑誌の執筆陣や編集者たちもスタッフと同じ扱いで協力していました。そのなかにはアニメ雑誌「月刊OUT」を中心に活躍していた漫画家のゆうきまさみ先生もいたそうです。しかも後述するTV特番ではナレーターまで担当していました。

 この「明るいイデオン」は、最終的に一般公募したアニパロ作品を『イデオン』の製作スタッフがイラストにしたり、アニメ作品にしてTV特番で放送したりという今では考えられない展開になります。『無敵鋼人ダイターン3』のオープニングパロディである『アジバ3』や、巨大特撮風に仕上げた『イデオンマン』など、本来の作品ではありえないパロディ作品のインパクトは絶大でした。

 また、「現在ではあり得ない」と言えば、劇場版の宣伝用に放送された映像のなかにはTVでは見られなかったキャラの死亡シーンや、本編のラストシーンに相当する場面もありました。これは事前にアニメ雑誌でも扱っていたので普通だと当時は感じていましたが、昨今のネタバレ禁止という風潮では考えられないことでしょう。

 筆者の個人的な感想では「明るいイデオン」は盛り上がったと感じていたのですが、後年の評価では辛らつな意見の方が多いようです。その理由として、この劇場版『イデオン』の興行収入がその年のアニメーション部門でもベスト5に入れなかったからでした。イベントとしてはすべったということかもしれません。

 しかし、単純な興行収入という数字はともかく、前述したように劇場版『イデオン』に高い評価を与えている人はアニメ関係者のなかにも多くいました。筆者も『イデオン』の持つテーマや演出は今現在でも高いものだと思いますし、劇場版はそれが結実した名作だと考えています。

 劇場版『イデオン』の評価とは別に、あの時代だからできた再現不能なイベント「明るいイデオン」。製作サイドとファンが一体となった一種のお祭りだったと思います。

(加々美利治)

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