ペットの最期、その治療は飼い主の「自己満足」かも… その子の目を見て、その子と話して、決めようね
まいどなニュース / 2024年4月21日 19時55分
日々、診療をさせていただいていて、いろいろ思うことがあります。最近は、身近な人間や動物の逝く様に出会ったことがない方が多く、人生で最初のそれが飼っているペットだったりすることがあります。そうすると、どうしたらいいのか非常に思い悩まれるようなのです。
猫が腎不全になり、自宅で皮下点滴をされておられる方もいらっしゃいます。ある日にうかがったお宅では、腎不全でだんだんやせ細っていく猫チャンに、出来るだけのことをしてあげたいと言われました。
「毎日皮下点滴と腎不全のお薬〇〇は飲んでいますが、他に出来ることはありますか?」
その猫チャンには連日大量の点滴をされておられたようなのですが、それが猫チャン自身の処理能力を超えている量だったため、全身がむくんでしまっていました。そのことをお話しすると、少し前には胸の中にも水が溜まってしまい、胸に管を入れてその水を抜いてもらっていたことが分かりました。そうなることは分かっているのに、皮下点滴が止められない理由は何なのでしょうか?
腎臓は、体内に溜まった身体にとって毒である老廃物を、オシッコで体外に出すお仕事をしています。腎不全はそのお仕事が出来なくなった状態です。そうなると体内に老廃物が溜まってしまい、気持ち悪くなったり、食欲が出なくなって痩せてしまいます。
そんなとき点滴は、その弱ってしまった腎臓に鞭打って働かせて、少しでも老廃物を外に出してもらおうという治療です。ですから、基本的には腎臓を治す治療ではありません。そして、点滴で人工的に体内に入った大量の水分は、その猫チャン自身の体が処理しなければならず、それは腎不全で弱った体には負担になる場合もあるのです。
老廃物が減って楽になるか、点滴のし過ぎで体がむくむか…その判断は非常に難しいと思います。しかし、食べてもいないにもかかわらず、点滴する前の体重が昨日よりも増えていたら、それは負担がかかっていることを疑いましょう。負担になっている点滴を続ければ、体がむくむだけではありません。胸の中に水が溜まったり、細かな血栓がたくさんできて血栓症になったりすれば、それが原因で命を落とす可能性もあります。
腎不全でだんだんやせ細っていく、もうすぐお別れ…というときに何かしてあげたい気持ちは痛いほどわかるのですが、その猫チャンにとってそれは楽になるのかどうなのか? 猫チャンはそうして欲しいと思っているのか? 猫チャン自身に聞いてほしいのです。何か治療をしてあげなくては?とこちら側で考えるのでは、ただの自己満足になってしまうかも知れません。
残念ながら、生き物には必ず死がやってきます。そのときにネットでいわれているような治療をあれこれするのではなく、「そのお別れのときを最高な時間にするように準備する」というのも大切だと思うのです。
残された時間を静かに見守る、大切に過ごす、そしてこれまで一緒に暮らしてきてくれたお礼を伝える方が、大事ではないでしょうか? 申し訳ない言い方になりますが、もっと肩の力を抜いて犬や猫を飼って欲しいなぁと思います。
昨年、21歳の猫を看取り、いまなお20歳の姉妹猫を飼っておられるAさんにそのお話をすると、こうおっしゃいました。
「点滴するかしないか?その猫チャンに聞いてみてね。猫は法律上はモノ扱いだけど、生きているし、感情も痛みも喜びも悲しみも、全部あるよー!その気になればお話もできますよ!
点滴は その子の目を見て 決めようね その子と話して ネットじゃなくて(字余りだけど俳句?)」
私も同感でした。
ヒトでも、体調の悪い人は自身の体にいろいろ訊くのではなく、自分以外の何か、例えば親だとか職場のヒトだとかにセンサーを立てすぎていて、自分自身の体に訊くのが下手な人が多いということです。ネットで仕入れた情報に右往左往するのではなく、今の自身の体調は自分自身に訊いてみることが大切です。お薬やサプリメントを飲んだときもその体の反応を自分自身に訊いてみることです。また、自身の体センサーの感度をあげることも大切です。
飼っておられるペットにも、同じように訊いてみてあげて欲しいです。とはいえ、ペットに話しても何を言っているか、何を言おうとしているのかわからないというのが多くの方だとは思います。顔や目を見てどうしたいのか、どうして欲しいのか心で訊いてみると、きっと何かそのペットの反応を感知できると、私は信じたいです。
(獣医師・小宮 みぎわ)
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