音鉄はオトナのたしなみ? 部屋の灯を落とし目をつぶって…音の世界に浸るぜいたく
まいどなニュース / 2024年4月19日 17時30分
YouTubeなどで国内外の情報を検索すると、ときどき表示される「各地の鉄道の音」を録音した動画。過去に行ったことがある駅、なじみのある列車のアナウンスや音などを聴くと、在りし日の思い出が蘇り、感傷にふけります。またいわゆる「鉄ヲタ」の間では「撮り鉄」「乗り鉄」に加え、「音鉄」も古くから一定数いると言われています。
音鉄という趣味の奥深さや録音技術などを紹介した一冊が登場しました。『鉄道の音を楽しむ 音鉄という名の鉄道趣味』片倉佳史・著(交通新聞社新書)です。
「音を楽しむ」「記録する」という2つの視点を主軸とした本書からその魅力に迫ります。
旅先での音を聴き返せば“もう一つの旅”になる
冒頭で触れた「音を聴いただけで過去の体験が蘇る」というエモい体験。本書では「録った音」の大切さと楽しみ方をこう紹介しています。
録ったデータは単なる音源に過ぎない。しかし、録音をした当人にとっては、自身の体験と密接なつながりをもつ。言い換えれば、録音データは記憶をたどる手がかりである。写真がそうであるように、音源もまた、思い出を手繰りよせるためのアイテムなのである。
(中略)
ぜひやってみてほしいのが、部屋のあかりを消して、眼を閉じ、気を静め、音源を聴きながら、旅の様子を思い描くこと。音を聴くことに集中すると、録音の際に駅ですれ違った人の表情や、線路ぎわで見かけた子犬の姿、車窓に広がる田園風景や駅そば屋から漂ってきた香りなど、一つの音源からいろいろな思い出が蘇ってくる。リラックスしながら、記録した音源に耳を傾け、撮影した写真などを眺めるのもいいだろう。これはもはや、音を用いた“もう一つの旅”とも言える(本書より)
録音時の「風」は最も恐るべき存在
もう一つの視点「記録する」では、「音鉄」ならではの細やかなこだわりやメソッドが紹介されています。
鉄道音を楽しむだけなら、どこにいてもそれなり音は聞こえるように思える。しかし、録音場所をどこにするかを考えた場合、やはり場所選びは重要なテーマとなる。
(中略)
音を記録する際に最も恐れなければならないものが「風」であり、録音成果はこれによって大きく変わる。そよ風のようなものでっても、マイクはしっかりとその音を拾ってしまう。
(中略)
マイク部分に布や家庭用スポンジを当てるとか、スポンジの中身をくり抜いて機材やマイクに被せたり、ストッキングを機材に被せたりしてみるのも手。見た目はかなり怪しくなるが、ある程度の効果は期待できる。(本書より)
「音鉄」の潜在ファンは実は多い?
ほかにも「音鉄趣味の分類学」「訪れてみたい全国の音鉄スポット」「文化に根ざしたご当地メロディの世界」、さらには鉄道メロディ専門作家との対談なども収録。音鉄という趣味を掘り下げた一冊になっています。
担当編集者によれば、近年高まる「音鉄」ファンのニーズに応えるべく編んだとする一方、「本での紹介」に苦戦したところもあると言います。
「紙媒体で『音』を扱うことはやはり難しく、読者の方に『この本を片手に、現地に行って聴いてみたい!』と思っていただくことをコンセプトとしました。『鉄道の音』は誰でも、身一つで楽しめる趣味です。録音機材がなくとも、聴くだけで楽しめますし、列車に乗らずとも、線路のそばから聴いて楽しむことすら可能です」(担当編集者)
本書のあとがきにはこんな言葉も。
現代社会は「眼」でモノを判断することが多い。鉄道趣味においても、視覚なくしてその魅力は語れないだろう。しかし、「眼」で楽しむ趣味があるのなら、「耳」で楽しむ鉄道趣味があってもいいはずである。(本書より)
一見マニアックにも感じる音鉄趣味ですが、実はその潜在ファンは「撮り鉄」「乗り鉄」以上に多いのではないかとも感じました。ぜひ音鉄の魅力に触れてみてはいかがでしょうか。列車に乗って訪れた彼の日の体験が、鮮明に蘇るかもしれませんよ。
(まいどなニュース特約・松田 義人)
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