飼い主の前で蹴飛ばされた柴犬 12年間信じた人との別れで心は深く傷ついた 「幸せいっぱいで楽しく暮らそう」スタッフは涙した
まいどなニュース / 2024年5月29日 17時30分
2024年3月、静岡県湖西市の包括支援センターの担当者から、地元の保護団体・アニマルフォスターペアレンツ(以下、アニマルフォスター)に相談が持ちかけられました。
「独り暮らしの高齢者が骨折して入院。12歳ほどになるシニアの柴犬がいるが、仮に退院してもこのまま世話を続けるのは無理なので、引き取ってほしい」というものでした。さらに聞くと、「これまでは近所の人が飼い主に代わって柴犬の世話をしてくれていたが、できなくなったので緊急に引き取って欲しい」とも。スタッフはその事情に気持ちを寄せながらも、なかなか引き取りの決心ができませんでした。
入院中の飼い主本人からも切迫した電話が…
理由はいくつかありました。
柴犬はワンオーナードッグ、つまり一度信じた飼い主にしか懐かない傾向があること。さらに、12年間も信じ続けた飼い主と突然引き離すことに躊躇すること。また、普通の民家から、複数のワンコたちが過ごす保護施設に連れてきて、不安とストレスを抱えるワンコの気持ちを考えれば、すぐに承諾する気持ちになれませんでした。
包括支援センターの担当者と半月以上そんなやり取りを続けていましたが、ある日のこと、突然入院中の飼い主本人からスタッフのもとに電話がありました。
病院の公衆電話からのものでとにかく切迫した様子。「どうか引き取ってほしい」と言います。何度も一方的に話をする飼い主を前に、スタッフは「わかりました。引き取るかどうかはさておき、一度ワンコに会いに行きます」と答えました。
「こうすれば言うことを聞く」と柴犬を蹴飛ばした
後日ワンコのいる山奥の民家に向かうと、一時的に病院から外出した飼い主が、世話をしていた近所の人と一緒に待っていました。確かに「なんとかして立てている状態」といった感じで、ワンコのお世話は確かに難しそうです。
スタッフが「引き取る」と決断していないのに、エサ、シャンプー、寝床などが入った段ボールを渡そうとしてきます。
「いやいやまだ引き取る決断はしていません。もう少し話を聞かせてください」とスタッフが言ったところ、飼い主に代わって世話をしていた人がいきなり柴犬を蹴飛ばしました。そして、「こうすれば言うことを聞きますよ」と。
スタッフは「もういいです。引き取ります」と伝え、そのまま柴犬と段ボールを車に乗せ保護施設に連れて帰ることにしました。
帰り道、スタッフは涙が止まらなくなった
帰り道、スタッフは悔しさで涙が止まりませんでした。
12年もの長い間、飼い主を信頼していたであろうワンコが、いきなり引き離されてしまうこと、最後にも当たり前のように蹴飛ばされたこと。スタッフはあらためて強い思いと願いを胸に刻みました。「辛い思いをしたこの柴犬を、いっさいの不安のない生活につなげてあげたい」「どうか体調を壊さず穏やかに過ごして欲しい」と。
飼い主がつけていた名前「ゴンちゃん」のままで呼び、保護施設で他のワンコたちと世話を続けることにしました。
「ゴンちゃんがここを気にいってくれたら…」
保護から1カ月ほど、ゴンちゃんはずっと悲しい顔をして何かを考え続けている様子で、エサもなかなか口にしてくれませんでした。
「僕の飼い主さんどこに行っちゃったんだろう」「僕は、このままここで過ごしていて良いんだろうか」「飼い主さんのところに戻りたいよ」。ゴンちゃんがそんなふうに考えているようにも見え、その悲しげ表情にスタッフは胸が締めつけられました。
それでも、スタッフや他のワンコたちからのたっぷりの愛情を受け、少しずつゴンちゃんの表情が柔らかくなり、散歩の際には笑顔も見せてくれるようになりました。
12歳のシニア犬であることを考えると、新しい里親さんと出会いは難しいかもしれませんが、その上でスタッフはゴンちゃんにこう話しかけてあげました。
「ゴンちゃんに『ずっとのお家』が見つかれば良いけど、もしゴンちゃんがここを気に入ってくれたらずっと暮らしてくれても良いんだよ。とにかくこれからは幸せいっぱいで楽しく暮らしていこうね」
(まいどなニュース特約・松田 義人)
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