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日本の「観光GDP」…実は、欧米水準の半分程度 求められる「より稼げる産業」への変革

まいどなニュース / 2024年5月31日 8時30分

東京・渋谷を観光する外国人女性 ※画像はイメージです (maru54/stock.adobe.com)

日本政府観光局(JNTO)の発表によると、2023年の訪日外国人旅行者数は2506万人となり、年間累計としては2019年の3188万人の8割程度まで回復しました。また、2023年12月だけでみると273万人であり、これは2019年同月比で108%となり、最近のインバウンド回復基調を象徴する数字となっています。

このように観光需要の回復が鮮明となる中、注目されているキーワードに「観光GDP」があります。観光GDPというのは、一国のGDP(国内総生産)の中で観光需要によって生み出された付加価値の総額を示しています。観光や旅行が生み出す経済活動の規模を示す指標ですから、経済の観点で観光をみる時、最も重要な指標といってもいいでしょう。

観光GDPは推計方法が複雑で専門性が高いため、頻繁に公表されるものではなく、今まであまりクローズアップされてきませんでした。しかし、2023(令和5)年版観光白書で久しぶりに観光GDPが大きく取り上げられ、再び注目されるようになりました。観光データは正確なデータが整備されるまで時間がかかるため、ここでは詳細なデータが得られるコロナ禍前の2019年を例に観光GDPの仕組みを説明します。

2023(令和5)年版観光白書で観光GDPのことが取り上げられたのは、観光需要の復活が期待される中、日本の観光GDPの水準が欧米諸国よりも低いということです。日本の観光GDP(2019年)は11.2兆円であり、日本全体のGDP(2019年)558兆円の2.0%となります。これはG7平均(日本を除く)の4.0%に比べると半分の水準しかありません。日本の観光分野の付加価値を高め、観光産業を「稼げる産業」へ変革することが求められています。

一方、日本の観光GDPは対GDP比率では低いように見えますが、11.2兆円という規模は世界第4位です(フランスが未公表なので、フランスを入れると第5位かもしれません)。日本は世界の中でGDPの規模が大きく、また産業が多岐にわたるため、観光経済の成長は明らかなものの、相対的な比率ではまだ低いというところがあります。日本の主力産業である自動車産業を含む輸送用機械の総生産が約14兆円ということを考えると、観光GDPの規模は決して小さいものではありません。

観光GDPの詳細を知ることで…観光産業の裾野の広さが明らかに

さて、観光GDPの推計が複雑なのは、観光産業が多くの産業にまたがる「裾野の広い産業」であるためです。観光産業のもつ裾野の広さという特性から、観光や旅行の経済活動は一国の経済活動を体系的にとらえたGDP統計(国民経済計算)の枠組みには長年入っていませんでした。

日本では2009年より観光庁から観光GDPの詳細が公表されるようになっています。まず、特に観光と関わりの深い産業として①宿泊業、②飲食業、③鉄道旅客輸送、④道路旅客輸送、⑤水運、⑥航空輸送、⑦その他の運輸業(旅行業が含まれる)、⑧スポーツ・娯楽業の8産業が観光産業に分類されています。

観光GDPのデータが独特なのは、8つの観光産業においても観光・旅行によって生み出される付加価値とそれ以外の経済活動によって生み出される付加価値に分かれることです。例えば、宿泊業は観光産業の中で中心的なものですが、産業全体としての付加価値は3.0兆円あります。その中で観光・旅行が生み出す付加価値は2.4兆円で、その割合は77.8%となっています。観光産業であるのに観光・旅行が生み出す付加価値は産業全体の77.8%にとどまるというのはどういうことでしょうか。

産業としての宿泊業はホテル、旅館、その他の宿泊所からなりますが、ホテルの場合、ランチや喫茶などは観光客ではない周辺住民による利用が多いものです。また、ホテルにとって結婚式や企業の会議・研修も重要なニーズです。そのため、観光客・旅行者によって生み出された付加価値は8割程度となるわけです。同様に飲食業の場合、観光客がたくさん集まる店もありますが、観光客はあまり来ず、周辺住民が来客のほとんどという店も多いでしょう。飲食業において観光客・旅行者の消費によって生み出された付加価値は産業全体の15.1%(飲食業全体では10.6兆円)になります。

また、観光産業以外の「その他の産業」も2.2兆円の付加価値を生み出しています。日本の観光統計で観光産業に分類されているのは8つの産業ですが、観光や旅行をする時は実に多くの産業がかかわっています。例えば、旅行前にガイドブックを買うことがありますが、これは産業としては出版業にあたります。このように観光GDPの詳細を知ることで改めて、観光産業は裾野の広い産業であることに気づかされます。

インバウンドブームが生じたことで、日本では観光・旅行の重要性が広く知られるようになりました。最近、国内旅行では教育旅行やマイクロツーリズムなど、日常の延長としての観光・旅行体験が注目されるようになっています。私たちが今まで思っていた以上に私たちの経済や産業の観光に関わりが深いといえるでしょう。

【出典】
観光庁/2023(令和5)年版観光白書について(概要版)

   ◇   ◇

◆朝田康禎(あさだ・やすさだ)摂南大学経済学部准教授
京都市出身。摂南大学で観光経済を担当。自身は関西生まれ・育ちであるものの、人生を経る中で北海道から九州までさまざまな地域と縁を持つ。観光経済の観点でさまざまな地域の魅力を伝えていきたい。

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