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「着られる服がない」障害者の悩みに応えた、ユニクロ元社員の挑戦 洋服お直しサービスが目指す未来「全ての人に平等な服の選択肢を」

まいどなニュース / 2024年5月19日 12時10分

代表の前田さん

福祉とおしゃれは、切り離されて考えられることも多い。だが、持病があったり、身体が不自由になったりしても、着たい服を楽しみたいという想いは誰しもの心にある。

株式会社コワードローブが運営するオンラインサービス「キヤスク」は、そんな当事者の気持ちに寄り添い、身体の不自由な人へ服のお直しを行う。

代表の前田哲平さんはユニクロで働く中で、ひとりの聴覚障害者と出会い、多くの重度身体障害者が直面している“服の悩み”を知り、キヤスクを立ち上げた。

身体障害者が抱える「服の悩み」を解決するために起業

ユニクロで働いていた前田さんは2018年の春、身体障害者の友人を多く持つ聴覚障害者と交流。そして、その方から重度の身体障害者が「着られる服がない」と困っていることを聞き、衝撃を受けた。

「あらゆる人に服を届けるというユニクロのコンセプトが自分にとって誇りだったので、まだ届けられていない人がいることに驚きました」

それまで目を向けたことがなかった世界の洋服事情を聞かされ、前田さんは最初、半信半疑だったそう。だからこそ、「知りたい、理解したい」と思い、実際に聴覚障害者の方の友人や障害者支援団体に話を聞き、現状を調査。

その結果、重度の身体障害を持つ人の中には、着たい服ではない洋服を我慢して着ている方や不自由を抱えながら洋服を選んでいる方が多くいることを知った。

当事者にとって「着やすい」と感じる洋服は、病気の症状によって様々。好きなデザインも人それぞれであることから、この問題は既製品を提供することでは解決しないと前田さんは痛感。

何かサービスを始めたほうがいいのではないか。そう考え、20年間勤めたユニクロを2020年の年末に辞め、起業準備。クラウドファンディングを行い、集まった寄付金と自身の貯金を活用して、2022年3月、「キヤスク」を立ち上げた。

当事者が求めるお直しは、生の声をもとに研究。知り合いの車椅子ユーザーの方に、着たいけれど諦めている服を実際に街のお直し屋さんへ持って行ってもらい、どんな不自由点があったのかをヒアリングしたこともある。

サービスを始めて約2年経った現在、キヤスクを利用した人の数はリピーターも含め、計300人にも及ぶ。

「3人に2人はリピートしてくださっていますね。毎月、お直しを依頼してくださるリピーターさんもいらっしゃいます。」

洋服のお直しを手がけるのは障害児と暮らす親御さん

キヤスクを利用する方の事情は、様々だ。車椅子ユーザーや寝たきりの方だけでなく、がん治療後や術後に身体が不自由になった方や我が子の介護がしやすいように洋服をゆったりサイズに直されることを希望する親御さんなど、十人十色な理由がある。

「ダウン症の方は手足が短いという身体的特徴によって冬に長袖をジャストサイズで着ることがなかなか叶わなくて困ってらっしゃるケースが多いので、袖だけを短くお直ししています」

キヤスクで洋服のお直しをするキヤスト(スタッフ)の多くは障害児を持つ母親。介護経験があるからこそ、依頼者は要望が分かってもらえやすく、納得がいくお直しを受けられる。依頼時にはキヤストと専用のコミュニケーションルームで詳細な打ち合わせができるので、安心だ。

「お子さんが障害を持っていると、フルタイムで働くのが難しいこともある。キヤストさんには開いた時間で社会参加できると、喜んでいただけています」

もちろん依頼内容によっても差はあるが、洋服1着のお直しは1週間から10日ほどで完了。

「新品の洋服を直してほしいという依頼が多いのかと思っていましたが、学生服や思い入れのある洋服のお直しを依頼されることが多いです。過去には、若い時に買ってずっと大切に着てきた服をお直しして障害のある娘に受け継がせたいというご依頼を受けたこともあります」

大企業も巻き込んで「誰もが同じだけ洋服の選択肢がある社会」にしたい

不安もありながら立ち上げた自身のサービスを求めてくれる人がいることに、嬉しさを感じている前田さん。しかし、その一方で、あらゆる人が「着たい服」を着て心豊かに日常生活を送るためには、他企業との連携も必要だと考えている。

「必要とする人は永久にいるから、キヤスクは絶対に失くしてはいけないもの。でも、キヤスクだけで背負うのではなく、ノウハウを提供するなどして大企業も巻き込み、誰もが着やすい服がたくさんある状況を世の中のみんなで作っていきたいです」

本来なら、どんな人でも服の選択肢が同じくらい溢れているのは当たり前なこと。それが叶っていない現状に問題があるからこそ、キヤスクを起点に、誰もが時間をかけずに着たい服と出会え、洋服の選択肢に差が出ないような社会にしていきたい。

そう話す前田さんは現在、とある大企業と連携して、より多くの当事者に洋服を届けられる事業を立ち上げる計画を進めている。また、いずれ障害や病気を持つ方向けのファッションメディアも作りたいと意欲を燃やす。前田さんの挑戦は、当事者の「生きる楽しみ」を増やすのだ。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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