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インバウンド不動産投資で新たな問題 日本人が知らずに税金を肩代わり!?…制度の不条理「国にとっても損失」豊田真由子が解説

まいどなニュース / 2024年6月8日 18時30分

豊田真由子

近年、円安の影響等もあり、外国の方が、日本国内の不動産を投資目的で購入することが増えています。外国人の不動産購入は、防衛上重要な拠点の近くなどでは、安全保障上のリスクが生じたり、投資マネーの流入で価格が高騰し、本来必要とする日本人が購入できなくなってしまったり、といった問題があることは、以前から指摘されてきたところですが、実は「その物件を賃借した日本人が、所有者の多額の所得税を肩代わりさせられる」という、あまり知られていない深刻な問題も、制度上生じてしまっており、訴訟になるようなケースも出てきています。

今年に入って、知人から相談を受け、「なぜ、そんな不条理なことが!?」と驚き、広く社会に影響もあり得る問題と考え、関係省庁に問題提起した結果、一定の対応(HPでの注意喚起)をしていただくには至ったところなのですが、おそらく今後も、同様の被害に遭われる方がいらっしゃると思いますので、本連載で注意喚起させていただこうと思いました。

(※)できるだけ分かりやすいご説明とするため、税法等の詳細や正確性については、簡略化しています。

なぜ、賃借人が所得税を肩代わり?

税法上、日本国内の不動産の所有者(賃貸人)が、海外居住者や外国法人である場合、賃借人は、「所有者が日本政府に支払うべき所得税(+復興特別所得税)を、賃料から源泉徴収(20.42%)して納付する」とされています(所得税法161、212条等)。(ただし、自己居住用の住宅等は除きます)

賃借人は、①賃料の20.42%を差し引いた額を所有者に支払い、②その20.42%を、所有者の代わりに税務当局に納める、という流れになります。なお、この納付手続きは毎月行わなければならず、その作業自体が煩瑣だとも言われています。

この制度が一般に広く知られているとは言い難く、不動産事業者が賃借人に説明することにもなっておらず、結果として、賃借人が多大な不利益を被る事態が生じています。具体的には、

①賃借人は、源泉徴収義務を知らず、賃料を全額、賃貸人に支払ってしまう。
②事後に、税務当局から督促状が来る。税務調査で追徴課税されるといった場合もある。(この段階で、制度について初めて知る)
③本来、源泉徴収して支払うべきだった金額を、税務署に納付する。(場合によっては、さらに不納付加算税等が加わる)
④所有者に、過大に支払った賃料(源泉徴収分)の返還を求めることになるわけだが、応じてもらえない場合も多い。訴訟を起こして対応せざるを得ないような場合もある。
⑤返還してもらえなかった場合には、結果として、本来賃貸人が支払うべき所得税分を、賃借人が負担することになる。

なお、賃借人が源泉徴収して納付する額は、例えば、賃料が月30万円の物件を、オフィスや店舗として借りている場合、1年間で約74万円、月100万円だと約245万円にもなり、これを肩代わりすることになったら、特に個人や中小企業の方にとっては、大きな負担です。

日本国にとっても損失

自分(個人・法人)が借りている不動産の所有者が、どこに居住する人・会社であるか、といったことは、賃借人がコントロールできることではありません。不動産が売買され、所有者が変わることも頻繁に起こっています。こうした自己と関係のない事由により、結果として他人(賃貸人)の分の多額の税負担をせねばならないことになるということは、心情的には、どう考えても不条理なことだと思います。

そして、納得のいかない賃借人がスムーズに支払うとは思えない中で、結果として、日本政府が「多額の所得税を取りっぱぐれてしまう」事態が頻発するとすれば、それは日本国と日本国民にとっても、大きな損失です。海外居住者や外国法人が、投資目的で、日本国内の不動産を買い漁ることで、そうしたリスク自体が増える、ともいえるのかもしれません。

不動産事業者が説明すればよい?

不動産業者(当該不動産の仲介・管理を行う業者)がきちんと賃借人に説明さえすれば、こうした問題は起こらないのではないか、とも思いますが、事はそう簡単ではありません。

なぜなら、不動産事業者自体がこの制度を知らない、という場合もあれば、さらに、知っていたとしても、説明する義務がない、すなわち、不動産事業者が取引で説明義務のある「重要事項説明」(宅地建物取引業法35条)は、当該物件に直接関係する法令上の制限や、解約要件などの取引条件が対象であり、税の納付方法については対象とされていないため、「法律の要件に該当しないことを、不動産事業者に義務付けるのは難しい」ということになるからです。

また、所有者変更の場合は、賃貸借契約は当然に引き継がれることになるので、そもそも不動産事業者が賃借人に対して重要事項等を説明する機会も生じません(借地借家法31条、民法605条)。

国交省HPでの注意喚起

こうした状況について、国土交通省に問題提起申し上げ、本年4月に、消費者向け情報提供として、国交省HPで注意喚起していただくに至りました。

※「契約前に知っておきたい・トラブル未然防止に役立つお知らせ」の中に、「日本に居住していない方や外国法人が売主・貸主である不動産について、買主・借主が注意すべきこと」として掲載。

しかしながら、一般の方が、わざわざ国交省のHPを確認するということは、通常あまりないと思われ、残念ながら、根本的な解決になっているとはいえません。また、本件に係る税法を改正することは、制度趣旨にかんがみれば、現実的ではないだろうと思います。

解決策は?

「国外居住者(賃貸人)から所得税を徴収するよりも、国内居住者(賃借人)に源泉徴収して納付してもらう方が、取りやすく、取りっぱぐれのリスクも減る」という税法の発想には確かに合理性があると思いますし、源泉徴収の制度自体は、国内でも広く行われているものです。しかし、今回のケースは、賃貸人が海外居住者であるために、賃借人が被る不利益が格段に大きくなってしまっています。

『法の不知はこれを許さず』というのは、確かにそうなのですが、本件が、当然知っていて然るべき、といえる状況であるかは、疑問があります。また、外国人が日本国内の不動産を購入する動きも、当面続くでしょうから、同様の問題に直面する方が増える一方ということになります。

であるならば、できるだけ日本国民に不利益が生じないように、今回のような仕組みについて、実効的な周知徹底を図るところまでを、国はしっかりとやるべきなのではないかと思います。

そしてやはり、賃借人と直接接する機会のある不動産事業者が、賃借人にきちんと説明してくれることが、最も直接的で効果が高いと思いますので、できれば国のガイドラインのような形で、現場で実行してもらえるようにするとともに、不動産事業者の方々にも、ぜひ積極的なご協力をお願いしたいところです。

オフィスや店舗として物件を借りている方は、国内に多くいらっしゃると思いますので、ぜひこの機会に、「物件の現在の所有者が、海外居住者や外国法人でないか」をご確認いただくとよいのではないか、と思います。

――――――――――――――――――――――――

海外からのインバウンドの活況や不動産投資の増加は、日本の経済活性化や日本への理解の促進といった点からは、大変望ましいことです。その一方で、オーバーツーリズムや価格の高騰、今回ご説明した税法上の不利益リスクといった問題も生じています。

それぞれに対して、状況の変化に応じた、臨機応変かつ有効な対策を、官民あわせて、柔軟に考え実行していくことで、ひとつひとつ問題を乗り切っていくことが、今後の日本と日本国民のために、必要かつ大切なことなのではないかと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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