犬による咬傷事故…年間5000件近く 自分のペットが“加害者”になった時の賠償責任は?…弁護士が解説する「保険の選び方」
まいどなニュース / 2024年6月11日 16時10分
「うちの犬が近所の方に噛みついて、怪我をさせてしまいました。その方は入院しましたが、後遺症が残るかもしれないとの話です。どうすればよいでしょうか」
「高額な熱帯魚が猫にかじられて死んだそうなのですが、どうもうちの猫の仕業のようなのです。弁償しろと言われて困っています」
「犬を散歩させていたら、近所の猛犬に飛びつかれて、犬も私も怪我をしました。相手に賠償を求められるのでしょうか。そういう話をするのはどうも億劫なのですが…」
私のところに寄せられる相談の一部です。
ペットと暮らしていると、ペットが他人や他のペット、他人の物を壊してしまうケースや、逆にペットが誰かから傷つけられるケースに遭遇することもあります。
今回は、このような場合に対応するための保険について解説したいと思います。
▽1 加害事件
環境省の統計資料「動物愛護管理行政事務提要(令和5年度版)」によると、2022年度の犬による咬傷事故は報告されているだけで年間4923件も生じているそうです。このうち人間の死亡事故が3件、動物の死亡事故も23件報告されています。また、リード等をつけて運動中の事故が1931件と全体の約4割を占めており、リードを付けていても安全というわけではないことがわかります。
もちろん、犬だけが加害に及ぶわけではありません。猫も引っ掻いたり噛みついたりもしますし、誰かのペットである鳥や魚を襲うこともあります。
このように自分のペットが加害者となってしまった場合、飼主は、相手方に発生した損害を賠償しなければなりません。他人や他人のペットにケガをさせてしまえばその治療費や慰謝料など、物品を壊せばその時価相当額の賠償責任を負うことになります。
これに対応できる保険としては、自動車保険や火災保険などの付帯保険商品である「個人賠償責任特約」があります。これは、日常生活において加入者が負担することとなった賠償を補償するものです。ペットの治療費を補償する保険会社が、専門のペット賠償責任特約を販売しているケースもあります。
賠償金を補償してくれるだけではなく、自分たちに代わって被害者に連絡、交渉してくれる示談代行サービスがついた保険商品もあります。
いくらペットのしつけに気をつけていても、すべての行動をコントロールできるわけではなく、加害事故を起こしてしまう可能性をゼロにすることはできません。個人賠償責任特約は保険料も割安であることが多いので、加入しておくことを強くおすすめします。
保険料や保険の内容については、各保険商品をよく比較検討してみてください。
▽2 被害事件
逆に、自分のペットが被害者となり、ケガの治療などを負担しなければならなくなった場合、治療費はペット医療保険で対応することが考えられます。もっとも、ペット医療保険のほとんどは補償額に限度があり、ペットの治療費の全額を補償するものにはなっていません。補償されなかった部分は飼主の自己負担となります。
このように保険では補償しきれなかった部分や、そもそもペット保険に加入していなかった場合は、自分から加害者に対して賠償を請求していく必要があります。ケガの治療費、通院費、休まざるを得なくなった仕事の休業補償、それに慰謝料など、「あなたのせいでこれだけの被害が出たのだから弁償してください」という請求を、自分から加害者に持ちかけないといけません。
このような場合に対応するための保険商品には「弁護士費用特約」があります。
交渉の際に必要となる証拠としてどのようなものを取り揃えて、どのように交渉していけばいいのか、どのような解決が妥当なのか、こういった交渉の専門家が弁護士です。弁護士費用特約は、その弁護士にかかる各種の費用を補償してくれる保険商品です。
自動車保険の特約として販売されているものが有名ですが、生命保険や傷害保険、火災保険に付帯していることもあります。
ですので、自分や自分のペットが被害者になり、加害者と賠償金の交渉をしなければならなくなった場合は、ご家族含めて加入中の保険契約を調べてください。もし弁護士費用特約の加入があれば、問題の事件に使えるかどうかも確認してみてください。
特約が使用できるということであれば、弁護士に相談する際に「〇〇保険会社の弁護士費用特約が使える」と伝えれば、相談・依頼費用の問題がスムーズに進む事が多いでしょう。ただし、必ずしもすべての弁護士・法律事務所がすべての弁護士費用特約に対応しているとは限りませんので、その点はご留意ください。
◆石井 一旭(いしい・かずあき)京都市内に事務所を構えるあさひ法律事務所代表弁護士。近畿一円においてペットに関する法律相談を受け付けている。京都大学法学部卒業・京都大学法科大学院修了。「動物の法と政策研究会」「ペット法学会」会員。
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