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原点は大阪球場で見た「江夏の21球」…女子野球の発展支える元日本代表投手・八木久仁子さん 30歳で挑んだ“もうひとつの夢”の到達点

まいどなニュース / 2024年6月28日 16時32分

現在の八木久仁子さん

2024年2月22日(ニャンニャンニャンの日)に、大阪市平野区にある大正2年築の古民家をリノベーションし開設された「平野郷にゃんこ堂」。動物診療所とミニ博物館、ミニ雑貨店、多目的スペースが併設された空間だ。

そこで獣医師として働きながら、日々、地域猫を救うために、平野区を中心にかけずり回っているのが院長で代表の八木久仁子さん。かつて女子野球全日本代表の投手として活躍した経歴を持つ彼女がなぜ地域猫のために奔走するようになったのだろうか。

ーー八木さんの野球の原点は?

八木:小学4年生の時に父親が野球観戦に連れっていってくれました。今はない大阪球場で、広島東洋カープと近鉄バファローズの日本シリーズ。その時、江夏豊さんが出てきた時に、「ブタ、ブタ、江夏」ってヤジが飛び、それがすごく印象に残ってたんです。後に知りましたが、山際淳司さんの短編ノンフィクション『江夏の21球』で書かれてた試合。これ以降、野球にハマって、休み時間になったら同級生と校庭で野球して、子ども同士で試合を見に行くようになりました。

ーープレーヤーとしては?

八木:中学・高校は陸上を、上智大学の法学部に入学してからは体育会スキー部に入りました。で、3年生の時のある朝、新聞に目を通すと「女子野球大会が開催中」という小さな記事が。心臓止まるかと思うほど震えました。「女子野球ってあるんや!」ってなって新聞社に大会事務局の連絡先を教えてもらい、「女子も野球に出られるなら出たいんですが」って聞くと「個人では無理なのでチームがあれば」ということでした。その時は諦めてしまったんですが、居ても立ってもいられず、試合だけでも見に行こうと、上野駅から乗り継いで、大会球場のある魚津(富山県)まで行きました。

ーー行動力が半端ない

八木:着いたらもう夕方で試合は終わってたんですけど、事務局の人にあいさつに行ったら、「まさか朝に電話した子が来るとは」と歓迎してくれて、「必ず来年は出てください」と言われて帰路に着きました。そこから周りの友だちに「富山県に行くぞ~ちょっと野球しなあかんけど」って声かけたら、「富山県?行く行く~!」と旅行目的で8人集まって(笑)。「マミューズ」という女子野球サークルが発足しました。もちろんみんな素人です。

ーー大会は?

八木:有名大学ということもあり無事に出ることができました。でも試合は27対5で一回戦負け。みんな思い出作りに満足して辞めてゆき、私だけが残りました。なんとか存続させようと必死に部員を勧誘しまくり、翌年にはなんとか15人になり、また大会に出場できました。

ーー八木さんは4年になってますよね。

八木:ええ。まだ野球やりたくて、単位は大丈夫やったんですけど、親に「司法試験落ちてしまったので、もう少し勉強させて」ってウソをついて…。5年で卒業してからはアルバイトをしながら監督を続け、発足7年目でやっと部に昇格することができました。その間、男子野球部から目の敵にされ、彼らの練習が始まるまでの早朝の時間しかグラウンドを貸してもらえず、学校からのお金も出ないんで自分たちで全てまかなってました。節約のために私は安いボロアパートに住んでたんですけど、そこにチームメイトたちも徐々に引っ越してきて、寝る部屋、食事する部屋、洗濯部屋みたいにそれぞれ部屋を分けて使い、最終的には合宿所みたいになってましたね。グランドの端の草むらに男子野球部の打ったボールが落ちてたりするのでそれを拾って使ったり、ゴミ捨て場からちょっと欠けたバットやヘルメットを拾ってきて修理して使ったりしていました。

ーー野球一色ですね

八木:そんな時に頻繁に目にしたのが野良猫でした。みんなでお金を出し合って避妊手術をしていたんですが、値段が高いじゃないですか。そんな時に住んでた千代田区で、地域猫(特定の飼い主がいない猫を地域住民が管理し、避妊など適切に世話をしている猫のこと)の活動が盛んだということを知り、参加するようになったんです。バイトしながら野球部の監督をして、上智大OGチーム「オールソフィア」も立ち上げて投手として活動して、地域猫活動もしてたんですけど、30歳になる頃、「そうや、私が獣医になった方が早いやん!」って気付いたんです。

――凄い決心!しかも30歳から!!

八木:遅くないと思ったんですね。さらに大阪の大学を目指して帰阪を決めた時、第一回「日米女子野球大会」のセレクションがあるということを知りました。どうしても選手としての爪痕を残したかったので、猛練習、猛勉強して身体もボロボロでしたが、年末のセレクション試験、年明けのセンター試験どちらも合格することができました。

――第1回女子野球世界大会では勝ち投手にもなったんですね!

八木:先発ではなかったですけど、二番手で。出られなかった選手もいたので、爪痕は残せたことは正直うれしかったです、でも、それが終わるとすぐ学生生活に戻りました。とにかく想像していた以上に勉強が大変で、あのもてはやされてた選抜時期はなんやったんやろうと(笑)。

卒業後は大阪の大きな病院に勤めたんですが、最初の2年間はボロ雑巾のように働きましたね。その中でも新たに「大阪ワイルドキャッツ」という女子軟式野球チームを立ち上げ、5年後に独立し、大阪市平野区に診療所を構えました。そこで地域猫活動を始め、今年2月22日に現在の場所に移転しました。

――これまで何匹くらい地域猫の避妊を?

八木:7000匹以上は施術してます。年間で言えば600匹はくだらないです。午前中に診療し、だいたい午後からは保護した猫の避妊手術をしています。地域ごとに猫に餌をやってらっしゃるおばあちゃんとか必ずいてるんですけど、それが野良猫を増やす原因になってます。そういう方って見つかると怒られるので、常にコソコソと与えてるんです。でも、そういう方を味方に付けると猫たちを保護しやすい。餌をくれる人にバーッて寄ってきますから。まず、そういう方たちの心を開くことが私たちの仕事でもあるんです。大学で野球をしてた頃、チームメンバーとあらゆるシミュレーションを考えて分析してた経験が生きてたかなと(笑)。

ーー平野郷にゃんこ堂ではどんなことをされているんですか?

八木:診療所の隣に30人ほど入れる多目的スペースがあるんですが、そこでは保護したけれど貰い手の見つからなかった猫たちが暮らしたり、「平野町ぐるみ博物館」の19番目の施設として猫の博物館、女子野球ミュージアムといった展示コーナー、猫好きな作家さんの雑貨などを売るスペースが設けられています。そして定期的にイベントも行っています。例えば毎月第1・3土曜日は「昭和のうた会」「健康麻雀」。これが好評で、猫好きな近所のご老人たちが集まってくれて、皆さんの安否確認も兼ねてます(笑)。

そして6月30日には初めての試みとして、猫がいるスペースで、猫好きで知られる月亭遊方さん、桂おとめさんを迎えての、猫をテーマにした「にゃんこ寄席」という落語会も開催します。もちろん、保護した猫の里親を譲渡会も行っています。イベントを通して地域猫のことをもっと知ってもらおうと思っているので、猫や野球が好きな方は、ぜひ足を運んでほしいです。

【第一回「にゃんこ寄席」】
6月30日(土)
開演/14:00(開場は30分前、終了は15時過ぎ)
入場料/1500円
出演/月亭遊方、桂おとめ
会場/平野郷にゃんこ堂 大阪市平野区平野東2-8-8
参加予約・問い合わせ/06・7171・5812(月~土 9:00~12:00)

(まいどなニュース特約・仲谷 暢之)

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