「ギャンブル依存症に特効薬はない」でも「必ず好転の道はある」 依存症クリニック医師に聞く
まいどなニュース / 2024年7月15日 8時0分
ギャンブル依存症は、周囲から「意志が弱い」と思われがちだが、国際的な診断基準で精神疾患の一つとして認定されている。どんな症状や治療法があるのか。京都で初めての依存症専門クリニックとして1995年に開院した「安東医院」(京都市下京区)の安東毅医師に尋ねた。
―どんな病気ですか。
「ギャンブルをやめたい」と思ってもコントロールできなくなり、借金が増え人間関係が壊れていくのが大きな症状。アルコールや薬物と違い、仕事や日常生活に支障が出にくいので周囲が気付かず、発覚した時には借金が多額にふくれあがっているケースが多い。
突然の失踪や自殺、犯罪につながりやすいのも特徴だ。本人は、家族に隠して大きな借金に悩んでいるが、発覚を恐れて普通では考えられない回避行動を取ってしまい、結果的に家族を大きく苦しめる。
―否認の病とも言われます。
依存症ではなく、趣味だと言い張る人が多い。病気かどうかの判断材料の一つが、借金があるかどうか。依存症は実は特殊な病ではなく、ランニングや釣りなど趣味に没頭することと脳のメカニズムが似ており、誰でもなりうる。ただ趣味とは周囲が被るリスクがはるかに違う。
―うそに悩まされたと、家族から聞きます。
うそは借金と同様、二大症状の一つ。本当のうそと、結果的にうそになってしまううそがある。金の無心のために、葬式がある、財布を落とした、と言うのは前者。借金がばれて「二度としない」という言葉は後者。その時は本気で思っているが、結局やってしまうので周囲は失望する。
―治療法は。
特効薬はなく、シンプルにやめ続けるだけ。この病は回復はできるが、完治はしない。例えると、大根が一度たくあんになれば、大根には戻れない。でも、たくあんの良さはある。依存症者でありつつ、やめ続けて幸せな生活を送ることは可能だ。
―クリニックではどんな治療を行いますか。
診察と集団ミーティングをセットで行う。特効薬はないと言ったが、うつや統合失調症などの精神障害や、発達障害と合併している場合も少なくない。その際は、薬を処方したり発達検査をしたりして適切な治療ができる。生きづらさが背景にある人も多く、問題の根本を探っていく。
―ミーティングでは何をしますか。
安心して本音を語り合える場であることが基本。時には、心理士や精神保健福祉士が、独自テキストを使って認知行動療法を行う。ギャンブルをやめることの利点・欠点を書き出して、自らの行動のゆがみを省みることなどだ。
民間の自助グループとも連携しており、患者には月1回の診察と週1回以上の民間を含めたミーティングの参加を勧めている。
―治療にはどれくらいの期間がかかりますか。
簡単に治る病気ではなく、一生付き合わないといけない。「スリップ」と言って、またやってしまう再発率も高い。ただ、スリップしても正直に打ち明けることが肝心。がんが再発して患者を責める医者はおらず、がんを放置すると悪化する。それと同じで、スリップを放置すると借金が膨れ上がる。私は「よく言ってくれた」と受け止める。
―患者は増えていますか。
開院当初はアルコール専門外来だったため、長年、アルコール患者の比率が圧倒的に高かった。だが、新規患者に占めるギャンブルの割合は2016年は7%だったが、22年は20%と大きく増えた。依存症という病の認知が広がっていることが要因の一つ。オンラインでできる手軽さによって短期間で悪化する人が増えたことも大きい。
―回復にとって大切なことは何でしょうか。
依存症(アディクション)の反対語は「コネクション(つながり)」と言われている。依存症患者は、借金とうそで家族からも社会からも孤立している。正直に話せる仲間をできるだけ増やしていくことが大切。家族も孤立しているケースが多い。当院では家族相談も実施しており、民間の家族会もある。必ず好転の道はあるので抱え込まないでほしい。
ドーパミン敏感に「回復できる病」
「ギャンブル依存症の人は、脳機能が変化してしまって自らの意志ではどうにもできなくなってしまっている」と指摘するのは、ギャンブル依存症の神経メカニズムなどの研究がある京都大医学部付属病院の鶴身孝介医師だ。
鶴身医師によると、脳には報酬系と衝動抑制系がある。研究によると、依存症の人の場合、脳の報酬系といわれるドーパミンが、ギャンブルに関連する刺激には敏感になっている一方、他のものに対しては鈍くなっているという。
鶴身医師は「ギャンブル以外の楽しみを見つけたらいいと周囲は助言するが、脳がそもそもギャンブルに対してしか刺激を感じなくなってしまっている」と明かす。
リターンに対してリスクをどれだけ取るかを調べる前頭葉の実験では、ギャンブルをやめてからまだ日が浅い人は、ハイリスクハイリターンの選択をしがちだった。一方で、半年以上やめている人は、ギャンブルを全くしない人と同様、リスクを見極める選択ができていた。
「やめ続けているうちに、他への興味も出てくるし、リスクの取り方も通常に戻る。回復できる病だ」と強調する。
(まいどなニュース/京都新聞)
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