「すべての優先順位が金だった」ギャンブル依存症から借金、犯罪に結びつきやすく
まいどなニュース / 2024年7月14日 10時30分
ギャンブル依存症につきものなのが借金だ。しかも多重債務に陥り、額が膨らんでいるケースが多い。債務整理の際に頼れるのは弁護士だが、桜花法律事務所(京都市中京区)の中島俊明弁護士は2022年から、依存症の回復につながる債務整理を目指して活動している。
整理の方法は主に3種類ある。(1)裁判所に申し立てて債務の支払いを全額免除してもらう「自己破産」(2)裁判所に申し立てて債務の一部を免除してもらった上で、残りを分割で支払う「個人再生」(3)債務者と個別交渉して、金利を免除して元本だけ返済するなど支払い金額や期間について新しい返済の合意を締結する「任意整理」―だ。
中島弁護士は「家や預金、保険、退職金など資産の有無を聞き取ったうえで、その人に一番合う方針を決めていく」と話す。
回復のレールに
それぞれメリット・デメリットがある。例えば、自己破産は、債務はなくなるが、99万円以下の資産しか残せない。個人再生は、実際額の5分の1程度を3~5年かけて支払う場合が多いが、持ち家を維持できる。この二つは裁判所に提出する書類が多く、手続きは煩雑という。任意整理は手続きが比較的簡単で、借金額の少ない人や破産に抵抗のある人が選択するが、結局返済しきれず自己破産に切り替えるケースもある。
中島弁護士によると、弁護士費用を分割で支払い終えてから債務整理に入るため、受任してから実際に整理に入るまでは1年から1年半かかることが多い。この期間に、依頼者を回復へのレールに載せることを重要視しているという。
月1回は面談
「『とにかく借金をどうにかしたい』という人もいる。回復の意志なく債務整理だけしてしまうと、借金がなくなったと安心して、また借金を繰り返してしまう」と中島弁護士。整理後は、借りられる先が限られるため、ヤミ金や犯罪に手を染める可能性が高くなり、問題がより深刻化してしまう。
中島弁護士は、内省を深めてもらうため、依頼者に自助グループや病院に通うよう薦めている。月1回は必ず面談し、回復に向けての思いや自助グループや病院に通った日時を書いた報告書と細かな家計簿の提出を求めている。
繰り返し伝えるのが、「回復し続けること」と「正直でいること」。債務整理中に再びギャンブルをしてしまう「スリップ」を起こしても、「正直に言ってくれれば、裁判所に対してもフォローできる」と強調する。
弁護士も知識を
ギャンブル問題と関わるきっかけは、約3年前、依存症者の家族と出会ったこと。「弁護士が依存症のことを何も知らずに債務整理してしまって、かえって状況が悪化した」と苦言を呈され、正しい知識を持つ重要性を痛感した。弁護士の中にも「ギャンブルで作った借金は債務整理できない」と誤解している人も多いという。
中島弁護士は「二度とギャンブルをしないための債務整理を目指している。一度つまずいてもやり直せる社会を実現させたい」と語った。
返済のため闇バイト…犯罪増加
ギャンブル依存症には、犯罪に結びつきやすいという特徴がある。多額の借金を抱えてもなお、ギャンブルするためには資金調達が必要になるからだ。警察庁は、1年間の各種犯罪の認知件数や摘発件数に関する統計「犯罪統計」の中で、2017年から動機の分類に「ぱちんこ依存」と競馬や競輪などの「ギャンブル依存」を加えている。
パチンコとギャンブルへの依存が動機とみられる犯罪は、増加傾向にある。最多は23年の計3494件。「ぱちんこ」が1065件で「ギャンブル」が2429件だった。
犯した罪は、窃盗犯が最も多く2634件で、続いて詐欺や横領、業務上横領などの知能犯が681件、占有離脱物横領や住居侵入などその他の刑法犯が132件だった。強盗や放火などの凶悪犯も18件あった。
「ギャンブルが動機」の逮捕事案は京都でも発生している。
昨年1月、京都市在住の葬儀会社社員の男(60)が、客の口座から現金を無断で引き出したとして、府警に窃盗容疑で逮捕された。12月には、舞鶴市の海上保安学校の学生(20)が、高齢女性からキャッシュカードを盗んだとして大阪府警に逮捕されている。いずれも警察の調べに対し「ギャンブルで借金があった」と答えているという。
かつて、ギャンブルの借金返済のために闇バイトで特殊詐欺グループの「受け子」をして逮捕された経験のある京都府内在住のシュンさん(31)=仮名=は、「SNSで簡単に闇バイトにアクセスできた。犯罪は悪だという感覚は残っていたが、とにかくすぐに金が必要だった。あの頃の自分は、すべての優先順位が金だった」と振り返る。
「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都)が行った調査では、23年に家族から受けた相談479件のうち、3割近くの135件が何らかの犯罪行為と関係していたという。同会は「犯罪にまで手を染めたら重症といっていい。再犯防止のため、回復施設に入寮させてほしい」と強調している。
(まいどなニュース/京都新聞)
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