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台湾・香港で大人気…1300万人が利用する「観光情報サイト」 日本のソフト・パワーをどう高めるか…起業家が語る信念

まいどなニュース / 2024年7月25日 20時30分

株式会社ジーリーメディアグループ 代表取締役 吉田 皓一(よしだ こういち)様

ジーリーメディアグループは、2013年10月に設立。台湾や香港からの訪日客向け観光情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営しています。「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」の年間ユニークユーザー数は1300万人で、台湾・香港の総人口の約4割以上※が利用しているメディアです。企業や自治体向けにPR事業も展開するほか、日本の特産物を販売するオンラインショップの運営など、日本の魅力を中華圏に発信するビジネスを幅広く手掛けられています。なぜ台湾や香港をターゲットに選んだのか、どんな目的で起業を志したのか、お話を伺いました。

※台湾人口:2326万人(2022年12月)、香港人口:約740万人(2021年) 外務省HPより

起業を決意も…一筋縄ではいかず

―防衛大学校を経て慶應義塾大学に進学。新卒ではテレビ局にご入社されたそうですね

もともと自衛隊に入りたいと思って、防衛大学校に入学しました。僕は父の実家が神戸で、阪神・淡路大震災を経験しています。そこで活躍する自衛隊の方々を見て、憧れていたのです。

しかし、在学中にアメリカの国防次官補などを務めたジョセフ・ナイの言葉に出会ったことで方針を転換することにしたのです。曰く、20世紀は軍事力と経済力の時代であったが、21世紀はその国のもつ魅力やコンテンツ、すなわちソフト・パワーが国力になると言うのです。確かに軍事力だけで世界の覇権をとれる時代ではありません。その言葉に共感し、慶應義塾大学に進むことにしたのです。そして、その当時、最大のコンテンツメーカーであったテレビ局を就職先に選びました。

漫画や和食といった日本の魅力あふれるコンテンツを海外に広め、日本のソフト・パワーを高めていきたい―、そう思っての就職でしたが現実はそううまくいきませんでした。CMのスポンサー枠を販売する法人営業の部門に配属となり、在職していた3年間で海外ビジネスにかかわる機会に巡り合うことはできず、それならと起業する道を選んだのです。

退職を決めた2010年当時、中国の経済発展は目覚ましく、日本のコンテンツを輸出するなら中国だろうと考え半年ほど上海に住みました。周りもみんな「これからは中国だ」と言っていましたね。

しかし、実際に住んでみて分かったことは「このマーケットには進出しない方が良い」ということでした。中国は共産党による一党政治であり、情報統制もなされています。国内ではGoogleもYouTubeもFacebookも使えません。せっかく起業しても、日本と中国が繋がることはできません。

―起業を決意されたあとも、一筋縄ではいかなかったのですね

中国進出に見切りをつけたとはいえ、スマホケースの問屋がたくさんある深圳から仕入れることや、清王朝の古本を日本で売るというようなことも考えましたが、利益が出るイメージは沸きませんでした。シンガポールやタイ、マレーシアでも可能性を探りましたがそれも違うなと思ったんです。

そうこうしているなか、貯金もだんだんなくなってきました。藁にもすがる思いで自分のFacebookアカウントで日本国内の情報を中国語で紹介するページをつくったところ、台湾の方を中心に思わぬ反響があり、フォロワー数が半年で10万人に上り、これをビジネスに発展させられないかと考えたのです。そして生まれたのが「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」でした。

新卒入社したテレビ局での営業経験がメディアの立ち上げに活きた

―Facebookから始まった取り組みは、スムーズにビジネス化したのでしょうか

いまのようにベンチャーキャピタルが積極的に投資してくれる時代ではありませんでしたので、資金調達には苦労しました。ただ、自ら資金を調達することは借入がないということでもあります。苦労した分、その後は安定的な経営に繋げることができました。

そしてメディア運営を事業としている会社ですから、テレビ局での営業職の経験を存分に活かすことができましたね。

―テレビ局での営業経験が活かせたというのはどういうことでしょうか

スポンサー枠の営業をするにあたって、メディアを相手にする広告代理店はどんなポイントを重視しているのかが経験上わかっていました。駆け出しのメディアでしたが、セールスを工夫することで初年度から売上を上げることができました。

特に、私がテレビ局に在職していた当時はテレビの持つメディアパワーは圧倒的で、国を代表するような大手企業は何十億、何百億円というお金を使ってスポンサー枠を買っていました。それだけにテレビ局はそうした大手企業にベテラン社員を担当させ大事にし、私のような若手社員には中堅・中小企業のクライアントを担当させていたんです。

立ち上げたばかりのメディアへの広告出稿ですから営業先は大手企業ではありません。そこでテレビ局での営業経験が活かせたのです。

―当時のテレビCMの広告・宣伝効果はとても大きかったわけですね

そうです。だからこそ、テレビ局に広告出稿をするということは、その会社やサービスの認知度を大きく上げられるかもしれないと期待するわけですし、仲介する広告代理店もその期待を一身に受けているわけです。ですが、広告枠は取り合いです。特に、多くの企業の決算時期である3月は、年度内に予算を消化するために多数のお引き合いを受けていました。

―そうすると、中堅・中小企業がその時期にCMを流すのは難しそうですね

ある日、担当している代理店がその3月に広告を打ちたいと言ってきたことがありました。すでに大手企業のCMでパンパンに枠も埋まっていましたし、一般的にはCMの尺は15秒であることが多いというのに、90秒ものCMを流したいというのです。普通は絶対に無理です(笑)。

でも、その代理店の期待になんとか応えたいと思い、策を考えました。結果的に自分のクライアントのCMを流すことに成功し、その代理店には大きな恩を売ることができましたので「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を立ち上げたときには、その代理店にも営業を協力してもらいました。一緒に飛び込み営業もしましたね。

―ある意味、そこまで顧客思いであることで結果がついてきたと言えるかもしれません

おかげさまで、今では新規開拓営業を積極的にやらずともメディア効果が高いので継続的に案件に恵まれています。訪日台湾人・香港人向けのメディアなだけで効果性が高まるのかと疑問に思われるかもしれませんが、昨年、訪日外国人観光客の中でもっともお金を使ったのは台湾人です。そしてそのほとんどが僕らのメディアを使ってくれています。

訪日外国人客をターゲットにする量販店が僕らのメディアにクーポン付きの広告を出したら、どんどん買い物客が増えていくわけです。ちなみに、「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を使う訪日台湾人の90%が半年以内に再び来日するというアンケート結果もあるので、広告出稿先としてはとても効率が良いのです。

ユーザーとスポンサーの両得になるメディアであること

―そんな台湾人・香港人の利用者数1位の「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営する際に意識していることを教えてください

メディアには「視聴者や読者」と「スポンサー」の2人のお客さんがいて、両者を喜ばせなければいけません。テレビ局に勤務していた時代に口酸っぱく言われました。視聴者にばかり気を遣うとスポンサーからの支持を失ってしまうかもしれませんし、スポンサーだけを見ていては、視聴者は離れていきます。視聴者の関心を引きつつ、スポンサーの要望も応えられるようなバランスが必要です。

たとえば、「京都」の特集を組むとすると、寺社仏閣や和服の着付け体験などといった内容になりがちです。確かに日本文化の魅力を伝える内容にはなるかもしれませんが、それだけでは台湾人にとって面白い内容とは言えません。そこで当社の編集部は京都市内から少し外れたお菓子の卸問屋を特集しました。実は台湾人はたくさんお土産を買うんです。日本から帰国した際に、個包装のお菓子を配り歩く習慣があるので、そのニーズに応える内容にしました。そうすれば記事を読んでもらえる回数も増え、結果としてたくさんのスポンサーがついてくるのです。

トップたるもの、偉ぶるな

―中国古典の「貞観政要(じょうがんせいよう)※」が愛読書と伺いました。経営者としてどのポイントを参考にされていますか

この本の中で太宗は「君主というのは船であり、浮いていられるのは部下という水のおかげである」といった趣旨の発言をしています。すなわち、どんな組織もトップは部下があってこそということです。また、中国では皇帝に忠告し、政治の意思決定を補佐する諫官(かんかん)という職務がありましたが、諫官の忠言を真面目に聞く皇帝はほとんどおらず、耳の痛い直言があれば左遷したり、殺してしまったりすることもあったと言います。しかし、太宗はその言葉に耳を傾け、自身の判断に間違いがあれば素直に認めていました。部下の権限を奪うこと、提案に耳を傾けないことは間違いだと説いているのです。

私に置き換えると、「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」のYouTubeに出演する際に、現場のメンバーが作った台本に「本当にこの内容で良いのか?」と思うこともありますが、台本をつくるという現場が持っている権限を取り上げてはならず、従うようにしています。また、マイクロマネジメントをしないことも意識しています。役員からのアドバイスには必ず耳を傾けるようにしています。

※「貞観政要」とは中国唐代に編纂された第二代皇帝・太宗とその臣下の言行録のこと。「貞観」とは当時の元号のことで、長い中国の歴史の中で4回しかなかったとされる盛世(=国内が平和に治まり繁栄した時代)の一つとされており、「政要」は政治の要諦を意味している。すなわち、平和で栄えた時代の政治のポイントがまとまっており、その時代のリーダーやサポートをした人物の行動が鮮明に記録された書物とされている。

ビジネスで解決できる課題がある

―世の中のビジネスは何らかの課題を解決するためにあります。起業した際の課題感は何でしたか

まず、日本と台湾の間には国交がないということです。台湾の大使館は日本にはないし、逆もまた然りです。そのために、普通の国ならできる政治的なやり取りができません。今、東アジアにおいて日本と台湾の関係は非常に大事ですが、政治家ができることは限られている。だったら、もう民間でやるしかないという課題感がありました。

また、起業して3年後ぐらいに実感したのは、衰退する日本の地方への課題感でした。都市圏にお住まいの方が想像する以上に地方経済は疲弊しています。ですが、台湾人に人気なのは日本の田舎です。多くの台湾人はすでに東京に行ったことがあるし、京都は観光客で混雑している。実際にデータを見ると東北を訪れる訪日外国人客の50%程度が台湾人です。

東北地方に台湾人が訪れ、そこでたくさんの買い物をし、地元の特産品を食べ、旅館に泊まり、東北を好きになってくれたら台湾に帰った後も東北の特産品を買ってくれる。そんな循環が生まれれば日本のさまざまな地域の活性化にも貢献することができます。

―起業3年目に地方への課題感に気付かれたとのことですが、何があったのでしょうか

2012年に日本と台湾の間で「オープンスカイ協定」が締結されました。つまり、日台間で航空便数や運賃、乗り入れ企業の自由化が進み、人や物の流通が促進されるようになりました。

そこからLCCが開通し、地方都市への乗り入れも多くなりました。創業当時は1年で80万人程度の訪日台湾人が、今や約500万人になっています。だから台湾人が日本全国に関心を持つようになり、東京や京都だけではなく地方にも訪れるようになったのが、創業後3年目の変化でした。

―今後解決したい課題はあるのでしょうか

日本のソフト・パワーが韓国に負けかけているなと感じています。日本の皆さんは台湾と聞くと「台湾って親日ですよね」とおっしゃいます。それは間違っていないのですが、台湾の10代、20代に関しては韓国の方が好きなんです。みんな、韓国ドラマ、コスメ、ファッション、音楽に夢中。ですから、もうあと10年、20年したら台湾はおそらく親韓になってしまいます。それはもちろんいいのですが、どんどん日本の存在感が薄まってきているのを感じます。我々のメディアを通じて、日本にもっと関心を向けてもらいたいなと思いますね。

―2023年3月には書籍も出版してさらに魅力を発信されていますが、次は歌を出されるそうですね

まさにいま、プランニングを進めていますが、台湾の女優さんを起用したミュージックビデオの制作を進めています。実は多くの台湾人YouTuberが日本各地を紹介する動画を上げることで、飽和状態になってきていて私たちの動画も再生数が伸び悩んでいます。また、一部の人々が、本来は撮影許可が必要な場所でも、許可を取らずに勝手にアップロードしてしまうということもあります。そこで、私たちは台湾でも知名度の高い方を起用しつつ、日本の魅力が伝わる耳に残るフレーズの曲をつくり、きちんと撮影許可を取った高品質なミュージックビデオをリリースすることで再生数を伸ばしていきたいと思っています。

―ほかにはどんな挑戦を考えていますか

台湾の方向けに、北海道の食材を使ったスイーツを作っています。北海道には毎月、ラジオ収録に行っていますが、行くたびに知らなかった現地のおいしい食材を見つけることができます。こんなにおいしいものがあり、素敵な生産者さんがいる。そういったことは現地に足を運ばなければ分からないことですが、こうした発見を台湾はもちろん、将来的にはアジア全域に発信していきたいですね。

―「日本のために」という強い思いが軸としてあるのですね

しかし、忘れてはならないのが、我々は事業会社であること。「日本のために」と思ってやるのは簡単ですが、そこに利益がついてこなかったらただの絵空事であって、継続性がありません。しっかり利益を上げることに一番心を砕いているところです。

また、「日本だけ」ではなくて、日本と台湾、両方の健全な発展に事業を通じて貢献したいという思いでいます。

自分に正直に、必要以上に恐れないこと

―ありがとうございました。最後に、読者に向けたメッセージをお願いします

41歳にもなると背負うものが多くなってきます。僕がテレビ局を辞めたのは27歳で、向こう見ずで背負うものもなかったから勢いで起業できましたが、結婚して子どももできて、家や車のローンもとなると、若いころの様に思い切ったことはなかなかできません。大企業に勤めている友人はそれなりに出世コースに乗る人もいます。そこまで来たらそれなりに権限を持っているでしょうからわざわざ起業なんかしなくても世の中を変えられることは多いと思います。それはそれでいいですが、もし、起業したいな、どうしようかな、と迷っているなら、年齢を重ねると挑戦しづらくなってしまうので、自分で責任をとる覚悟をもってのことですが、20代のうちに会社を辞めるのは良い選択だと思います。

また、振り返ってみると、27歳の自分の挑戦は恐れるに足らないことでした。たとえば会社を辞めたとしても、日本はセーフティーネットが充実しているし、金利も低いからいくらでもお金を引っ張ってこられるし、コロナ禍でも中小企業を保護する仕組みが本当に手厚かったんです。

―思い立ったらすぐに起業するべきでしょうか

起業をためらうな、と言っているように聞こえるかもしれませんが、ずっと会社で勤め続けることもすごいことです。私にはできなかったことですから。一番不幸なことは、挑戦するかどうか迷い続けた結果、40代、50代を迎えてしまうことかもしれません。

また、仮に学生のうちから起業したいと考えていたとしても、一度は会社に入って職務経験を積むことも良い経験になると思います。例えば、大手企業を相手にビジネスをするのであれば、一度は大手企業に勤め、どのようなフローで意思決定をしているのかを体感していれば、起業してからもスムーズです。大企業でなくても、各社がどのようにビジネスを行っているのかを知って損はありません。

新卒至上主義的な慣習は徐々になくなりつつあるものの、それでもなお、新卒カードは貴重ですから、学生の方は使ってみることを考えても良いと思いますし、20代の方であればせっかく入ったその会社でできることが他にないか、すぐに起業する覚悟があるか、考えてみても良いのではないでしょうか。

【株式会社ジーリーメディアグループ】
2013年10月に設立。台湾や香港からの訪日客向け観光情報サイト「樂吃購!(ラーチーゴー)日本」を運営しています。「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」は、すべての記事を台湾などの現地出身の記者が作成し、訪日客の視点で記事化できることが特長です。2024年5月時点の月間ユニークユーザー数(利用者数)は290万人で、台湾人・香港人向けの日本の観光情報サイトとしては首位を誇ります。また、年間のユニークユーザー数は1300万人となり、台湾・香港の総人口の約4割以上が利用していることになります。ジーリーでは、訪日客にアピールをしたい企業や自治体向けに「樂吃購(ラーチーゴ-)!日本」を活用したPR事業も展開するほか、日本の特産物を台湾人向けに販売するオンラインショップを運営するなど、日本の魅力を中華圏に発信するビジネスを手掛けています。

(まいどなニュース・20代の働き方研究所/Re就活)

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