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白血病の小学生娘、16人も適合者がいたのに…ドナー提供者「仕事を休めない」「上司が辞退しろと」骨髄バンクが今、直面する問題とは

まいどなニュース / 2024年8月20日 6時55分

ドナー適合者が見つかったと聞き、娘と喜んでいたのに…写真はイメージです(siro46/stock.adobe.com)

「ドナー適合者が16人見つかった時は主治医の先生が病室に飛んできて知らせてくれました。こんなに見つかる事そんなにないよーって、みんなで拍手して大喜び。これで移植できる!と思いつつ、順調に移植まで進むのかという気持ちも。希望と不安の中で毎日過ごしていました」

小学生のときに娘が白血病に罹患し、骨髄移植による治療を試みた当時のことを振り返るのは娘と一緒に病と闘った母親のゆみさん(@BeniLovemama)。しかし、適合者全員が提供まで進めないというまさかの結果が待っていました。

「適合者がいるのに移植できないとわかった時は、絶望感でいっぱいに。また振り出しに戻ったのかと家族みんなでがっかりしました」。

公益財団法人日本骨髄バンク(以下、骨髄バンク)の調べでは、登録しているものの適合者になった際、「仕事を休めない」「ワンオペ育児中で家を空けられない」など健康理由以外の理由で辞退を申し出る人が多いことが明らかになっています。

ドナー適合者が行うこと、費やす時間、ドナー休暇制度などについて骨髄バンクに取材。また、当事者となった娘さんのその後についてもお母さんに伺いました。

ドナー登録者と患者の白血球一致は奇跡に近い

骨髄移植とは、白血病などの血液の病気を発症した人が、健康な人から骨髄等に含まれる血を造るもとになる細胞(造血幹細胞)を提供してもらうことで、全身の血液を入れ替えるという病気を治癒させる治療方法。骨髄バンクは、移植を必要とする患者さんと健康な造血幹細胞を提供するドナーの方をつなぐ役割を果たしています。

ドナー登録者数は、55万7148人。現在、骨髄バンクでの移植を希望し、ドナーからの提供を待っている患者さんは1656人です(2024年6月末調べ)。登録者数に比べ、患者数は少ないため「すぐに適合者が見つかって移植できるのでは?」と思ってしまいそうですが、白血球の型が一致するのは数百から数万分の一。2023年の適合者は約55万人いるなかで約2万人、そして希望する患者さんの2人に約1人しか移植を受けられないのが現実なのだそうです。

ドナー適合者になっても仕事で休めない…

適合者となった人は、どのような形で関わることになるのでしょうか?

まず、移植を希望する患者さんと白血球の型が一致した登録者(適合者)にはSMS(ショートメッセージ)や郵送で提供への依頼が知らされますが、この時点で提供に至らない人は半数近く。その理由は、健康上の理由以外に、「仕事が休めない」「連絡がとれない」「家族の同意が得られない」「本人の不安や迷いなどによる辞退」。骨髄バンクに「提供したいけど、ドナー休暇制度がないため、提供できない。会社に導入を依頼するので、骨髄バンクからも働きかけをしてほしい」といった相談が寄せられることもあるそうです。

では、実際にドナーが患者に骨髄などを提供する場合、必要な時間はどれほどなのでしょう?

状況によって多少の差はありますが、2〜4ヶ月間で平日に8〜10日間が必要とされ、事前の検査やコーディネーターとの面談、採取準備、そして入院しての採取が行われます。「休日なら動きやすい」という声もありますが、医療機関もボランティアでの協力。またドナーの安全に配慮した体制確保のためには平日に行うことが多い状況です。

辞退という苦渋の決断をした適合者の中には、「そんなに休ませることはできない、辞退しろと言われた」と会社の管理職に言われた人も。「ドナーは1人でできるプロジェクトじゃないのに」「会社に気持ちよく見送って欲しいし、社会に気持ちよく見送って欲しい」など葛藤や後悔を感じさせる言葉もあったそうです。

適合者がいたことを機に、変化する企業も

骨髄バンクでは安心して提供できる環境整備として、検査、面談、入院などのための休暇を勤務先が特別休暇として認める『ドナー休暇制度』の導入を推進。「社内に適合者がいたことをきっかけに、導入に結びついた企業もあります」と骨髄バンク担当者。

制度の整っている大企業での導入もありますが、導入が増加しているのは中小企業。上司や人事部などに相談しやすい、制度を知った企業が導入しやすいという環境からではないかという見立てもあります。

都道府県別の導入企業は、東京に次ぎ、香川県が第2位。「ドナー休暇という名称にこだわる必要はありません。ボランティア休暇やリフレッシュ休暇を代替適用することも可能です。現在800社ほどは導入していますが、制度そのものが認知されていないこともありえます」。今後、もっと多くの企業への導入を後押しするために、広く周知される必要があると考えています。

10年以内に登録者数が4割もいなくなる!? 

適合者の仕事都合による辞退の解消に加え、現在の課題としているのが登録者数の増加と骨髄バンクの認知度の向上。現在、ドナーに登録しているのは40代、50代が多く、58%を占めていますが、ドナーは55歳で登録取り消し。この10年で全体の41%が登録者ではなくなってしまいます。

「そもそも、若年層には骨髄バンクそのものを知らない人もいます。知ってもらうことは急務。新プロジェクトとして、2023年秋より「#つなげプロジェクトオレンジ」を開始して、専用の特設サイトに加え、XやYouTubeなど若い人たちに親しみのあるSNSでの発信に力を入れるようにしています」。

Xでは、ドナー登録の方法や、若い世代のドナー登録者の声、登録会場などをこまめに発信。「全国の献血会場・献血ルームではいつでも登録を受け付けています。また、お買い物途中などに気軽に行えるよう、大型商業施設などで登録会を実施することもあります。検査キットでドナー登録できる仕組み『スワブ&オンラインドナー登録』の規定人数に達したためトライアル受付を終了しましたが、最速2026年度の本格導入を目指しています」と登録への協力を呼びかけます。

望みがあったのに…諦めなければいけないなんて

適合者が見つかったものの、相次ぐ辞退で骨髄移植による治療が危ぶまれた小学生の女の子はどうなったのでしょうか。

「もともと、母親である私がドナーとして立候補していましたが、医師からフルマッチの適合者が出た場合はそちらを優先した方が良いと言われ、適合する方を探していたんです」。

親子間では、父と母から半分ずつ受け継がれるものなのでフルマッチではない半合致になります。フルマッチの白血球型の方が移植後の拒否反応が出にくく、患者の負担が少ないため、フルマッチの適合者に望みを託していましたが、候補に浮上した適合者からの提供が望めなくなった時点で治療方針を変更。フルマッチではないものの白血球の型が適合していた母親のゆみさんが、ドナー提供者となることを決意したそうです。

1度めの骨髄移植は失敗に終わりましたが、2度めの末梢血幹細胞移植に成功。「娘と私の白血球の相性が良かったみたいで、こればっかりは移植をやってみないとわからないと先生はおっしゃっていました」。移植後の拒否反応は出ましたが、それも最小限に抑えられ、現在の経過はすこぶる良好。月に一度の外来での経過観察による通院を行って今は中学生に。大好きなダンスを続けつつ、小児がんについて知ってもらうために講演会や学会などにも参加しています。

「ドナー適合者がいても断られることは命を繋ぐことが出来なくなるということです。助かる望みがあるのに諦めなければならない。それを受け入れるのは難しいことです。でもドナーさんにも家族がいて生活もある。仕事を休むことも難しいでしょうし、家族の理解を得ることも難しいかもしれません」とゆみさんは話します。

それでも、「骨髄移植のこと、血液を入れ替えて命を繋いで生きていくことの尋常じゃない大変さを世の中の人にもっと知ってもらいたい。もしも我が子だったなら…と思いを持ってもらえたら。見ず知らずの人に骨髄を提供してくださるドナーさんは命の恩人です」。 

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・宮前 晶子)

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