普通の焼肉店と思ったら…まさかのジオラマ! 「焼肉 山ちゃん」営む一家と制作者のすてきな物語
まいどなニュース / 2024年9月29日 15時0分
金沢市内の名店を精巧に再現したジオラマが話題です。細部にわたる丁寧な作りとリアルなアングルで撮影された写真に「本物にしか見えない」と驚愕する声が殺到。このジオラマは、アーティストとお店の家族との絆が生んだ特別なものでした……!
注目を集めたジオラマを手掛けたのは、石川県で活動するジオラマアーティスト・東雄一さん。自身のX(旧Twitter)アカウント『HGS model(@ModelHgs)』で公開した「焼肉 山ちゃん」(石川県金沢市粟崎町)の旧店舗を再現したジオラマが大きな反響を呼び、9.6万件の“いいね”を集めています。
「写ってる空以外模型です」という注釈とともに投稿された写真には、昭和レトロな雰囲気が漂う「焼肉 山ちゃん」が見事に再現されています。実店舗の写真と見間違えるほどの精巧さに、驚きの声が続出。
「本物レベルですよこれ」「何度見ても模型とは思えない」「これは本当に模型なのか? 本物にしか見えない……」「お店の写真かと思ったら、空以外は模型って凄い」といった感動のコメントが次々と寄せられ、多くの人々の目を釘付けにしています。
東さんが足しげく通った「焼肉 山ちゃん」、店主のおばあちゃんに約束したこととは?
東さんは現在55歳。石川県津幡町に在住し、普段はミニチュアや模型の制作を趣味として楽しんでいます。小学生の頃、プラモデルに触れたことがきっかけで、模型作りに夢中になりました。
2020年には友人の勧めでXを始め、東さん作品は初めて多くの人々の目に触れることに。「それまでは自分の作品をほかの人に見てもらうことがほとんどなかったため、SNSで多くの人から反響をいただいたときはとてもうれしかったです」と振り返ります。これを機に、ジオラマや模型をコンテストにも出品するようになりました。
「焼肉 山ちゃん」は、東さんが20代の頃から通い続けた特別な思いのある日お店です。ある日、店主のおばあちゃんからテレビで東さんのジオラマが取り上げられているのを見たと声をかけられ「今に山ちゃんも作るね〜」という言葉を交わしました。この何気ないやりとりがジオラマ制作のきっかけとなります。
しばらく経った頃、「焼肉 山ちゃん」は店舗の老朽化にともない取り壊され、リニューアルされることに。それを知った東さんは「あのときの約束を果たそう」と決意しました。歴史ある旧店舗をジオラマとして残すことで、おばあちゃんとの約束を形にすることにしたのです。
ジオラマの製作をスタート、50年の歴史を再現ために試行錯誤する日々
制作は、2022年7月に始まりました。店舗を詳細に観察し、開店前の静かな時間に店を訪れて寸法を測定。多数の写真を撮影し、その資料をもとにジオラマの設計を行います。ジオラマには木材やスチレンボードが使われ、窓ガラスは透明プラスチックを使用しました。
特に気を使ったのは、歴史を感じさせる店の風合い。燻された壁の質感や傷、少し錆びた鉄の部分、使い込まれた道具類など忠実に再現することを目指しました。
2023年1月、店舗は改装のため休業となりましたが、その間も東さんは製作を続けます。
東さんは、店内の小物にもこだわりました。ガスロースターや食器、家具までも細かく再現。3DCADで設計したあと、3Dプリンターで立体化して塗装を施すという高度な技術が駆使されました。「ガスロースターにはLEDライトを組み込んで炎を表現し、見て楽しめる工夫もしています」と、語っています。
そうして製作を始めてから約10カ月後の2023年4月、「焼肉 山ちゃん」のジオラマが完成しました。
晴れて「焼肉 山ちゃん」に寄贈されたジオラマ、お店の人たちの反応は?
ジオラマは同年9月に静岡県浜松市で開催された『浜松ジオラマグランプリ』で審査員賞を受賞。さらに和歌山県での『くどやま芸術祭』にも招待され、多くの人にジオラマを披露する機会を得ました。
その後、ジオラマは新装開店した「焼肉 山ちゃん」へ寄贈され、店内に飾られることになりました。当日は、おばあちゃんをはじめ親戚の方々が集まり、ジオラマを囲んで旧店舗の思い出話に花を咲かせたそうです。
「そっくりやわぁ〜」とおばあちゃんはとても驚いた様子。「壁もネチャネチャな感じに汚しといたよ」と伝えると笑っていたそうです。「おばあちゃんは、店の前にあったドアが壊れたプロパンガス庫をとても気に入っているようです」とのこと。こうして東さんとおばあちゃんとの約束は果たされました。
「おばあちゃんはもちろん、親戚のみなさんもよろこんでくださり、本当に作って良かったと思いました。私のジオラマがこれほどまで感動してもらえるのだと思い、私もまた感動しています」と語る東さん。またひとつ、「焼肉 山ちゃん」との思い出が増えたようです。
東さんが語るジオラマの魅力、「ミニチュアになると感動するものに」
東さんの作品には、日常の風景やよく目にする物をモデルにした作品が多く見られますが「そのときに作りたくなったものを自由に作っています」と、特に意識をして選んでいるわけではないといいます。
「日頃、気に留めていないような物でもジオラマになると、なぜか感動するものになる。とても不思議ですね。ミニチュアになった途端にかわいらしく感じるのは、私だけでしょうか?」と、ジオラマの製作意欲は途絶えることはないようです。
東さんのジオラマは単なる作品ではなく、東さん自身の情熱や思い出、人々とのつながりが込められた“記憶の縮図”なのかもしれません。「焼肉 山ちゃん」のジオラマは、東さんの手によってよみがえった歴史の一部。多くの人々に見守られながら、これからもその記憶は語り継がれることでしょう。
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)
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