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俳優・モデルの杏さんも子育て中…少子化対策の「優等生」フランス 経済支援や産休・育休制度…その具体的な施策と近年の“苦戦”の背景

まいどなニュース / 2024年11月6日 19時45分

少子化対策の「優等生」として知られるフランス(Max Topchii/stock.adobe.com)

俳優でモデルの杏さんも子育てに奮闘していることでおなじみのフランスは、ヨーロッパでは少子化対策の「優等生」として知られてきた国です。

日本での少子化対策を考える上でも、フランスでの政策は参考にされてきました。フランスではどのような取り組みがされてきたか、フランスと日本の制度にどのような違いがあるのかについて紹介します。

「優等生」として少子化対策に取り組んできたフランスですが、ここ十数年ほどは少子化の進行に苦しめられています。教育の高度化に伴う晩婚化や、将来への不安が影響しているといった議論もあります。粘り強く少子化対策を続けるだけでなく、子育てに対する社会全体の理解や、支援する雰囲気をつくり出す取り組みが必要です。

フランスが取り組んできた少子化対策

フランスが取り組んできた少子化対策を、(1)経済支援と税制優遇(2)育児・教育サービス(3)出産・育児休暇と職場復帰支援、の3つのジャンルごとに見ていきましょう。

(1)経済支援と税制優遇

フランスでは、20歳未満の子どもが2人以上いると家族手当が支給されます。特に3人以上の子どもを持つ家庭に対しては、手当はより手厚いです。所得制限はなく、子どもがいれば手当を受け取れます。

日本で子どもがいる家庭には、児童手当が支給されます。2024年10月から児童手当制度が見直され、

・所得制限が撤廃
・子が高校卒業まで手当を支給
・第3子以降には手当を増額する

など大きく仕組みが変わっています。たとえば第3子以降には、今まで月に1万〜1万5千円支給されていたのが、改正後は月3万円となりました。日本の児童手当は、フランスの家族手当により近い仕組みになったと言えます。

税制面を見るとフランスでは、子どもが増えると税負担が小さくなるように所得税が計算されます。簡単に言えば、子どもが増えるほど課税の対象とならない所得を大きくできるようになっています。3人以上子どもがいると、課税対象から外れる所得がさらに増える制度です。

日本ではこうした制度の代わりに、扶養控除または特定扶養控除という形で、子どもがいる家庭の所得税負担を減らしています。ただし、フランスと異なり、控除は16歳以上23歳未満の子どものみが対象です。16歳未満の子どもがいても、所得税は減りません。また、フランスの税制度と比べると、控除される効果は小さい傾向にあります。たとえば、両親と大学生3人からなる世帯を考えると、家庭全体の所得がおよそ250万円以上あれば、フランスの制度の方が税の対象から外れる所得額が大きくなります。

(2)育児・教育サービス

フランスでは2019年から、3〜6歳の幼児教育が義務化されました。そのため、3歳以降の子は公立幼稚園には無償(給食費は除く)で入園できます。また入園後の活動は、アルファベットを学ぶなど、教育に重きをおいた内容になっています。

日本では、幼稚園・保育園や、これらの中間的な役割となる認定子ども園といった施設を利用するものの、義務ではありません。2019年から日本でも利用料が一定の範囲で無償化されましたが、給食費や通園送迎費、行事費などの負担が原則必要です。保育園や認定子ども園では、教育だけでなく子どもを保護・養育する意味合いも強くなります。

(3)出産・育児休暇と職場復帰支援

フランスでは、条件を満たせば両親共に、出産休暇や育児休暇を取ることが可能です。母親は産前6週間・産後10週間の休暇を取得できます。また産休の間、休暇を取る前の給与に応じた産休手当が給付されます。

さらに、母親は出産後3年間にわたり育児休暇をとることもでき、その間に手当を受け取ることが可能です。しかし、手当の額が少ないために、実際には育児休暇制度があまり活用されていない点が問題視されています。ちなみに出産時には父親も、28日間の育児休暇を使えます。

日本においても、出産・育児休業制度があり、母親は産前6週間・産後8週間にわたり休みをとることができます。その後、子が1歳(場合によっては2歳)になるまで育児休業も取得可能です。父親についても、産後期間を含めて、育児休業を取れる制度が整ってきました。

日本の出産・育児休業はまだ拡充できる余地が大きいものの、フランスの制度に近づける形で着実に仕組みが変わりつつあります。また、育児休業中の手当については日本の方が金額は多く、子育てをサポートできる仕組みになっていると言えるでしょう。

ここ十数年は少子化対策に苦戦するフランス

ヨーロッパの出生率低下に歯止めをかけた「優等生」として知られるフランスですが、近年は苦戦が続いています。女性1人が一生の間に生む子どもの数を考える上で合計特殊出生率を見ることが多いです。合計特殊出生率は、2010年の2.03をピークに落ち始め、2023年には1.68まで落ち込みました。

なぜフランスの出生率が低下したかについては、さまざまな可能性が考えられています。高等教育を受ける若者が増加し、それに伴って晩婚化が進んでいることが大きな要因のひとつです。ロシア・ウクライナ戦争の長期化や気候変動問題による将来不安などが、出産をあきらめさせる一因となっているとの議論もあります。

少子化をできる限り食い止めるために、子育てを支援する政策を続けることは欠かせません。しかし、それと同時に重要なのが、子どもを産み育てやすい社会環境の整備です。経済的支援はもちろん、子育て世帯に対する社会全体の理解や、支援する雰囲気をどのように広めていくかが求められています。

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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