「構想26年」…話題のミステリ、小説をコミカライズ 電子コミック市場で後発の「ハヤコミ」勝算を聞いた
まいどなニュース / 2024年11月28日 7時30分
2025年に創業80周年を迎える出版社「早川書房」(東京都・千代田区)が今夏、新コミックサイト「ハヤコミ」を立ち上げました。SFやミステリの翻訳ものに強い同社は、「国内外の古典や名作をコミカライズする」という方針を固めて電子コミック市場に参入、4ヶ月が過ぎました。
現在「ハヤコミ」では「ミステリの女王」アガサ・クリスティーの孤島ミステリ「そして誰もいなくなった」を二階堂彩氏が、スタニスワフ・レムの傑作SF「ソラリス」を森泉岳土氏が、そして2022年の本屋大賞および高校生直木賞を受賞した小説家・逢坂冬馬氏のデビュー作にして累計50万部突破のベストセラー「同志少女よ、敵を撃て」を鎌谷悠希氏がそれぞれ漫画化するなど、計11作品をサイトにて掲載中です。
また先日、同サイトは「日本電子書籍出版協会(JEPA)」による「電子出版アワード2024」の「エクセレント・サービス賞」に「Amazon Fliptoon (アマゾンジャパン)」。「ジャンプTOON (集英社)」、「コミックシーモア (NTTソルマーレ)」などのそうそうたる顔ぶれとともにノミネートされるなど、広く世間の注目を集めつつあります。
運営後に見えてきた課題や展望、そして「電子コミック業界」という巨大市場に切り込んだ手ごたえはあったのか、詳しい話を「ハヤコミ」吉田智宏編集長(48歳)にお聞きしました。
苦節26年
――なぜコミックのサイトを立ち上げようと?
私はもともと漫画が大好きで、実家の階段下の中二階の小部屋をすべてコミックで埋めた漫画部屋にするような少年でした。ですから、ハヤカワに入社する26年前の面接試験でも「漫画の編集をやりたい」と言ったんですが「うちは漫画をそこまでやっていていない」と返され絶望したものです。しかし苦節26年、あきらめずに機会を待ち続け、プロジェクトとして「ハヤコミ」が立ち上がったことを嬉しく思っています。
――実際にサイトを運営してみていかがですか?課題は見えてきましたか?
狙いも課題も想定していたものでした。現在電子コミック界は空前の活況で、大手のプラットフォームや出版社のサイトが群雄割拠の状態で、それらに対し後発である弊社は一般漫画読者獲得において、量的には競争力でおよばない部分が出てきます。しかし「ハヤコミ」はまた別のターゲットも視野に入れて存在感を確立できたらと思っています。
サイトの「キラーコンテンツ」
――どういうことでしょうか?具体的に教えてください。
版権を購入してくれる海外出版社の獲得が狙いです。特に、翻訳ものに強い弊社としては海外のエージェントとの間に長い実績と信頼関係があり、版権の大商談会でもヨーロッパ系からアジア系まで幅広い取引先を視野に入れて臨みました。各国の取引先がそれぞれのプラットフォームと言語で版権購入した作品を公開してくれれば、結果として世界中の読者に「ハヤコミ」の漫画を届けることができる。それが「ハヤコミ」が生き残るための戦略であり生命線です。
――版権の売れゆきは?手ごたえのあったコンテンツを教えてください。
アガサ・クリスティー作品が好調です。海外でのキラーコンテンツになりつつあります。現在7か国(フランス、イタリア、中国、タイ、ブラジル、トルコ、ハンガリー)に版権が売れていて、さらに2ヶ国交渉中です。なかでもクリスティーの代表作の一つ、クローズド・サークルもので映像化も何度もされている『そして誰もいなくなった』が人気です。
――国内での反響の高い作品は?
「同志少女よ、敵を撃て」です。こちらも人気作品となっておりコミカライズを担当してくださっている鎌谷さんは「隠の王」(なばりのおう)などでとても熱狂的なファンを持つ漫画家さんです。その絵柄と作家性が「第二次世界大戦下、ドイツ軍に母を惨殺され、復讐のため赤軍の狙撃兵になることを決意したヒロインの物語」という「同志少女」の世界観にピタリとマッチしました。こちらは12月11日にコミックス発売も決定しています。
あらゆるベクトルが一致した
――書籍化もするのですね。
発売を知らせた際の書店での感触も良かったです。「鎌谷さんが描くなら一等地に置きます」と言っていただきました。実は、原作者の逢坂さんもコミカライズするなら鎌谷さんで、と以前から思っていたそうで、それが叶いました。あらゆるベクトルが一致した、と感じています。また同時期に新潮社さんの2024年度の本屋大賞受賞作『成瀬は天下を取りにいく』のコミカライズが書籍化されるとも聞いており、いずれも同賞のコミカライズ作品であるということから両作に注目が集まると嬉しいですね。
新たなる企画が進行中
今後の展望について「来年は『ABC殺人事件』や「オリエント急行の殺人」などクリスティーの有名作品をどんどんコミカライズする〝クリスティーイヤー〟にしたい」と意気込みを語る吉田編集長。
さらに続けて「まだ社内でもほとんど知られていない『極秘プロジェクト』が進行中です。これを漫画化するのか!?ときっと多くのみなさまに驚いてもらえるはずです。今後サイトにて発表できたらと思いますので、ぜひ『ハヤコミ』をのぞきに来てくださいね」(吉田編集長)と明かしてくれました。どのような新機軸を打ち出してくれるのか楽しみに待ちたいですね。
(まいどなニュース特約・山本 明)
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