7時間生き埋め「息を吸いたかった」、中学3年で被災した少女、後遺症に悩まされ…阪神・淡路から30年、命救った大学生と再会
まいどなニュース / 2025年1月13日 6時50分
「あの時は、本当にありがとうございました」。昨年10月14日、神戸市灘区の高羽交差点に現れた中島喜一さん(77)が頭を下げた。目の前には、神戸大アメリカンフットボール部出身の50代の男性6人。阪神・淡路大震災で、自宅アパートが全壊して1階で7時間、生き埋めになった妻と次女を引き出した。
母子を病院に運んだ後、部員たちは一家のその後を知ることはなかった。ただ、亡くなった妻の足を何度もさする中島さんの姿が脳裏に刻まれ、助け出した次女のその後が気がかりだった。30年ぶりの再会。一行は地域を歩き、記憶をたどった。次女は今、45歳。当時は多感な中学3年生だった。
仏壇に守られた女の子
交差点周辺には住宅街が広がっていた。1995年1月17日午前、ぼうぜんと立ち尽くす男性に通りかかったアメフト部員が声をかけた。「家族が生き埋めになっているんです」。2階建てアパートは全壊。上空ではヘリコプターがごう音を響かせ、パトカーや救急車のサイレンがあちこちから聞こえていた。名前を呼んでも、返事がなかった。
「ここらへんで寝ていたと思うんです」。男性の証言を基に、小柄なアメフト部員が2階から隙間に入った。頭には、原付バイクのヘルメット。余震が続く中、畳をめくって床板を外し、奥へ。他の部員も続き、竹で編まれた土壁などを解体していった。
地震から7時間後の午後1時ごろ、「女性の足です」と部員が叫んだ。がれきをよけていくと、倒れた仏壇の隙間で、女の子が生きていた。なぜだろう。幸せそうに笑っていた。
父親「30年間、お礼を言えなかった心残り」
神戸新聞社記者の私がこの話を知ったのは2023年12月。当時アメフト部員で、現在は僚紙のデイリースポーツで記者として働く足利渉さん(52)から聞いた。
震災時、神戸大アメフト部「RAVENS」の部員5人が、近くのアパート「大日荘」に暮らしていた。築50年超の2階建て。地震直後、大日荘の学生を心配した周辺の下宿生が原付バイクで駆け付け、十数人が周辺で救助活動を担った。その中に、中島さん一家がいた。女の子の生存が分かった瞬間、男性が漏らした言葉を足利さんは覚えていた。「妻とご先祖様が、娘を守ってくれた」
手掛かりは当時の記憶だけ。もちろん、名前も年齢も分からない。記者は過去の住宅地図を調べ地元で聞き込みを重ねた。女の子の父親が中島喜一さんの可能性が高いと分かり、2023年2月27日に意を決して電話した。
淡路島に暮らす中島さんは、かすれる声で喜んだ。「30年間、学生さんにお礼をできなかったことだけが心残りでした。何度も探そうとしたけど、名前も学校も分からないから。涙が出てきました」。偶然にも、翌日は77歳の誕生日だった。
「生き残らなければよかったのに、と何度も思った」
震災時、中学3年だった次女はどのような30年だったのだろう。
暗闇や狭い場所が怖くなり、夜に眠れなくなった。進学した高校でも遅刻しがちになった。「自分はダメな人間」と劣等感にあふれ、パニック障害とうつ病に苦しんだ。元アメフト部員たちと再会し、こう伝えた。「生き残らなければよかったのに、と何度も思ったんです。でも、助けてくれた人に対して、助けてくれなくてよかったとは30年間、一度も思わなかったんです」
そして、救出時に笑顔だった理由に触れた。「生き埋めが本当に苦しくて、苦しみから解放してくれたことが、今でもうれしいんです。陰で誰かが亡くなっていたとしても。助かりたかった。息を吸いたかったんです」
うなずいて話を聞いていた元部員の小笠原秀治さん(55)が言った。「目の前に生き埋めの人がいたから、僕らも懸命に助けました。今考えると、当たり前のことをしただけです」
◇
阪神・淡路大震災で救助に当たった神戸大アメフト部員に深く刻まれたある家族の記憶。それぞれの思いと30年ぶりの再会を5回の連載で伝えます。
(まいどなニュース・山脇 未菜美)
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