「隣で寝ていた母のうめき声」中学3年、生き埋めになった少女の人生は一変した…「遠回りでもいい」立ち直るまで【阪神・淡路30年】
まいどなニュース / 2025年1月16日 6時50分
大きな麦わら帽子が印象的だった。中学3年の時、阪神・淡路大震災で生き埋めになり、隣で寝ていた母の中島彰子さん=当時(47)=を亡くした女性。45歳となった今は、奈良県で鍼灸師をしながら、農業に取り組んでいる。待ち待ち合わせ場所から15分ほど車を走らせ、管理する段々畑を案内してくれた。「母も山が好きだったんですよ。自然派で」。そう言って、地震の時のことを教えてくれた。
息をギリギリまで止めて…
1995年1月17日朝、意識が戻った時、目の前は真っ暗だった。横向きになっていて、体全体が圧迫されて身動きが取れない。音も聞こえない。何より息苦しい。線香と土ぼこりが混じったにおい。息をギリギリまで止めては、大きく呼吸することを繰り返した。
「苦しくて、死にたいと思うようになって、何回も息を止めるんですけど、死ねないんです。隣で寝ていた母のうめき声がして…」。思い起こす女性の声はか細く震えていた。「すみません、やっぱりこの話は…」。取材は中断した。
どれくらい時間が経過しただろう。暗闇の中で、ヘリコプターの音が聞こえるようになった。その後、「足が見えます。女性の足です」と男性の声が聞こえた。外に出してもらった時、「ありがとうございます」と繰り返した。運ばれた病院で、母が亡くなったと知らされた。
恐怖がそばにある感覚
震災後は、恐怖がすぐそばにあるような感覚だった。一人になると、ガタガタと音が突然聞こえてくる気がした。家では、常に布団を背中にかぶった。いつまた地震が起きるのか、物が落ちてこないか、不安が頭を離れなかった。
得意だった勉強も、集中が途切れた。教科書を読もうとすると、数行でしんどくなる。電気を付けないと眠れなくなり、昼と夜が逆転して学校を遅刻した。父親にもよく叱られ、けんかになった。「ダメって言われると、自分がダメな人間だとすり替えてしまうんです。自分って生き残って、何なんやろうって」
大学入学後は、親を亡くした子供を支える「あしなが育英会」の集いに参加した。ボランティアに目覚め、街頭に立って募金を呼びかけた。半年ほどたった頃、ふと立ち止まってしまった。私は、悲惨な話を積極的に語っている―。そんな自分に傷つき、体が動かなくなった。診断された病名は、うつ病だった。一人ぼっちになり、「お母さんに会いたい」と泣いた。震災後、悲しさの感覚がまひしてきた4年余りで初めてだった。
休学後、アメリカにある心のケア施設で休養。帰国してからは、ハンセン病施設で精神科医をしていた神谷美恵子さんの著書「生きがいについて」を読みふけった。自由の少ない隔離施設で過ごす状況でも、喜々として生きがいを見つける人たちの姿が響いた。「とりあえず大学を卒業して、したいことをやってみよう」と復学した。
やりたいことの一つが母も親しんだ音楽だ。ジャズ歌手の見習いとして、大阪のバーで働きそのまま社会人へ。障害児支援の事務職を並行するなど、さまざまな職業を経験した。2012年、32歳の時にはNPO法人が運営するミュージカル「ア・コモン・ビート」に参加し、東日本大震災の被災地の夏祭りでステージに立った。一緒に踊り、涙を流す被災者もおり、背中を押されている気がした。今は興味のあった鍼灸師をしながら、農業にも取り組む。
「遠回りでもいいや」
生き埋めの経験が尾を引いているのだろうか、詰めて乗車するなど圧迫感を感じるようなことは今もできない。それでも、気持ちの乱れはほとんどなくなった。「苦しむ母を意識し続けることは、母を二重に苦しめる感じがしたんですよね。手放してあげなきゃ、って」。そう言って、母とのある思い出を披露してくれた。
地震が起きる数週間前、数学好きの母と、塾の宿題を解いていた。灘高校の受験で出された証明問題を1週間で解けるか―。
食後に「あーでもない」「こーでもない」と言いながら向き合うのが楽しく、ようやく女性が答えを導き出し、塾に持って行くと、答えは正解。ただ正攻法ではなく、遠回りした解き方だった。「あの成功体験は、思い出した時にほっこりするんですよね。遠回りでもいいやって」
◇
阪神・淡路大震災で救出活動に当たった神戸大学アメリカンフットボール部員への取材から、記者は生き埋めになった女性にたどり着きました。連載では、それぞれの思いと30年ぶりの再会を掲載しています。
(まいどなニュース・山脇 未菜美)
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