猫が「猫草」を食べる意外な理由←獣医学博士の研究結果「ねこ医学会」も注目
まいどなニュース / 2024年12月29日 18時0分
なぜ猫は「猫草」を食べるのか? 諸説あるなかでもよく知られているのが、毛づくろいで飲み込んだ「毛玉」を吐くためという理由だ。
獣医学博士である和猫研究所所長、岩崎永治(@Jpn_Cat_Lab)さんは、「旨みや塩味があり、ちょっとおいしいから」という理由で、猫が猫草を食べている可能性の研究を発表。2024年7月に「ペット栄養学会」で優秀賞を受賞した。
さらに、2024年11月に開催された「ねこ医学会」(JSFM)の猫の集会(年次大会)にて、さらなる研究を発表。和猫研究所所長 岩崎永治さんにお話を聞いた。
猫は「肉」だけで生きていけるが…
ーー今回発表された研究の概要について教えてください。
「簡単にご説明すると、猫が好むといわれるイネ科やマメ科の草の多くは苦味や渋味がなく、旨みやコクがある。逆に、食べない草には苦味や渋味があった、というものです。なかでも、カラスノエンドウはこの味覚パターンにぴったりでした。驚いたのは、イネ科でもマメ科でもないスギナも、なぜかカラスノエンドウの味覚パターンにぴったりだったこと。
確かに、スギナも猫が食べるという話をよく聞きます。ネズミムギは猫草に数えられますが、成熟したものは苦味があるようで、猫は好まないかもしれません…。ちなみに、カラスノエンドウについては、猫にとって安全かはっきりと調べられているわけではないため、積極的に与えることを推奨しているわけではありません」
ーー旨みやコクを求めて猫草を食べている可能性がある、と?
「巷では、猫が猫草を食べるのは、毛玉や寄生虫を吐き出すため、足りない栄養を補おうとしているなど、様々な説がまことしやかに言われていますが、実のところハッキリとした理由はわかっていません。今、私が目標とする大きな研究テーマのひとつがこの、『猫が猫草を食べる理由を明らかにすること』です。
肉だけを食べて生きていけるはずの猫ですが、なぜかイネ科やマメ科の植物を好んで食べるという謎の習性があります。そこで、ウサギの百倍も苦味を感じやすく、苦味が大嫌いなはずの猫が口にするからには、猫草は苦くないだろうという仮説を立て、この仮説を調べるため、猫が庭で出合いそうな野草の味を調べました。使用した味覚センサーは、インテリジェントセンサーテクノロジー社の『TS-5000z』で、株式会社ベジテックさんに分析を依頼しました」
「非常食」や「おやつ」の可能性
ーー苦くないことが条件なんですね。
「イネ科やマメ科の植物は植物の中でもタンパク質が多く、比較的栄養が豊富な植物とも考えられます。猫草の代表である『エンバク』や『オオムギ』は旨味成分も豊富なようで、植物にしてはおいしいのかもしれません。やはり猫が食べる草は苦味と渋味が少なく、旨味がある…つまり、ちょっとおいしいことが条件みたいです。しかし、予想に反してスギナも同じ傾向でした。スギナ、お前もちょっとうまいんか……なんで?などと、夜な夜な研究中にひとりで突っ込んでいたのは内緒です」
鍵を握るのは「ネズミ」!?
ーー「猫草」は猫にとってサプリ的なものなんでしょうか?
「仮にそうだとしても、肉食動物としては肉を食べたほうが効率的です。ただ、野生では常に獲物を捕えられるわけではありません。イネ科やマメ科の雑草はそこかしこに生えているので、もしかしたら、猫のお腹が減った時の非常食(あるいはおやつ)として、猫の体が受け付けるようになっているのかもしれません。
あるいは、野生猫の主食であったネズミやウサギが好んで食べるのがイネ科やマメ科の牧草であることも理由のひとつかもしれません。特に猫はネズミを丸呑みにしますから、ネズミの消化管内に含まれる植物が、猫にとって毒であればひとたまりもありません。猫は進化の過程で、ネズミやウサギが主食とする植物に適応していった可能性も十分考えられます。これは一般的な臨床獣医師にはない発想で、野生動物の調査経験のある私ならではの意見かもしれません」
猫が喜ぶアレの謎も
岩崎さんは猫が庭先で出合いそうな野草……カラスノエンドウ(マメ科)、ネズミムギ(イネ科)、猫がまれに食べるというスギナ(トクサ科)の他、猫が食べたと報告されていないヘラオオバコ(オオバコ科)やハルジオン(キク科)、セイヨウタンポポ(キク科)の6種の植物の味覚分析を実施。
その結果、「やはりカラスノエンドウは苦味や渋味が少なく、旨味もあることがわかりました。 これは予想通りで、過去に報告した猫草の代表『エンバク』と同じ結果でした。ただし、繰り返しになりますが、カラスノエンドウを猫に積極的に与えることを推奨しているわけではありません」と、岩崎さん。
すでに40種ほどの植物の味覚データを集め終わり、現在、論文を執筆中だという。
「猫じゃらしとして名高いあの草や、猫が喜ぶアレなんかもデータを取得しています。論文発表を楽しみにしていてください」(和猫研究所所長 岩崎永治さん)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)
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