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「避難所は100年前から変わっていない」 阪神・淡路大震災30年「餅は餅屋」と主張する気鋭の学者に聞く

まいどなニュース / 2025年1月18日 7時0分

グラウンドに「テント村」の避難所ができていた神戸市立御蔵小学校。「学習する権利の侵害だ」と菅野准教授は指摘する(1995年2月、神戸市長田区)

「避難所に関しては阪神・淡路大震災どころか関東大震災のころから変わっていないのでは」。人と防災未来センター(神戸市)での勤務経験のある大阪公立大の菅野拓准教授(復興政策)はこう話す。最近でも能登半島地震が起きている。当時から変わったこと、そして依然積み残されたままの課題について聞いた。

災害対応「餅は餅屋に」

ー菅野准教授は著書「災害対応ガバナンス-被災者支援の混乱を止める」で「災害対応は餅は餅屋に」と主張する。どういうことだろうか。

「阪神・淡路大震災以降、災害派遣医療チーム(DMAT)が整備されました。彼らは普段から救命救急をやっているプロです。消防、警察、自衛隊など人命救助に関わる部分は大震災後、改善されました。これらは普段からやっている仕事だから改善されたわけです」

「多くの市町村職員にとって災害対応は一生に一回程度のことです。毎回素人を向かわせている。なので、そもそも教訓は引き継がれていません。普段からやっていない組織で、たまにしか起きない災害なので行政ができるわけもないのです」

ー「餅は餅屋」方式を取るべきというのはよく分かる。だが成功例はあるのだろうか。

「一つの成功モデルは(プレハブ建築の業界団体)プレハブ建築協会だと思います。仮設住宅を建てるにも行政にはノウハウがありません。国土交通省と協会が一緒になって、どれくらいの数を、どれくらいの期間でできるか決めて施工していく。彼らができるのは普段から『業』としてやっているからです」

「では例えばセブン&アイ・ホールディングスやイオンと行政が一緒になって、物資の供給はできるはずですよね。あるいは都道府県域なら地域の生協にとりまとめ役をやってもらって調整をしてもらうこともできるはずです」

朝ドラ「おむすび」の主人公の姉と同世代

ー菅野准教授は1982年の大阪府生まれ。小学6年生のときに阪神・淡路大震災を経験した。身の回りで直接の被害はなかったという。

「以前から神戸にはしばしば行っていました。3月ごろ、母親が『見ておけ』と言って神戸に連れていってくれました。よく行っていたところが崩れていたという、印象があります」

ー大学院の在学中に東日本大震災が発生。菅野准教授は被災者支援に関わるようになった。2014年から2019年まで「人と未来防災センター」で研究員や主任研究員を務めた。

「阪神・淡路大震災と東日本大震災の間には実は大きな断絶があります。この間に介護保険制度の導入や障害者自立支援法、生活困窮者自立支援法の成立があり、少子高齢化を見越し、障害、貧困に対して地域社会がどう向き合うかという社会保障の大改革がありました」

ー2000年、社会福祉事業法が改正され社会福祉法となり、福祉サービスの充実や地域福祉の拡充を掲げさまざまな法や制度が改正された。

「例えば現在では高齢者は普段、通所サービスを受けていることが多い。では災害のときはどうするか。能登半島地震では福祉避難所はすぐにいっぱいになりました。平時のケアの仕組みを災害時にどう生かすかが課題です」

学校の避難所「教育受ける権利侵害」

ー放送中のNHK連続テレビ小説「おむすび」では主人公・米田結の8歳上の姉・歩が登場する。14歳で親友を震災で失い、神戸から福岡県へと移った歩は心をふさぎがちになると描かれる。菅野准教授はドラマの中の歩と同世代だ。

「1994年に日本は(子どもの権利を包括的に定めた国連の)『子どもの権利条約』を批准しています。しかし、翌年に起きた阪神・淡路大震災当時でも学校が避難所となり、校庭には仮設住宅が設置されました。学校に避難所があるのはおかしい。子供が教育を受ける権利の侵害です」

ー2023年には「子ども基本法」が施行されたが、昨年発生した能登半島地震でも学校が避難所となる現状は変わっていない。

「災害発生の当座は学校が避難所になるのは仕方ないでしょう。イタリアの場合、72時間を待たずテント村のようなものがつくられる。食堂がつくられ、NGOに任され、ボランティアでプロであるシェフたちが食事を提供する。『餅は餅屋』です」

ー災害復興の在り方は阪神・淡路大震災以降、変わったのか。直近の能登半島地震では改善は見られたのか。

「能登半島地震を受けて分散型水道システムの検討が始まっています。これまでハードの復旧は高度成長期型でした。公営住宅を造る、水道を被災前のように造る、と。しかし人口減少の時代、例えば10年後、その地域に人が住まない可能性がある。将来世代に借金が残るだけです」

子どもの当事者の声も

ー阪神・淡路大震災から30年が経過した。あの頃と変わっていない課題を見つめ直すべきだと語る。

「震災関連死と震災障害者の問題は残ったままです。震災関連死の問題は災害時に、避難所や被災者宅で医療的、福祉的なケアがないことです。防災庁を設置して、防災庁が主導するという議論がありますが、民間と連携してやらないといけない。民間にノウハウがある分野ですから」

「震災障害者もそうです。障害者のケアを普段、誰がやっているかというと、行政はほぼやっていない。NPOや社会福祉法人がやっています。災害時に彼らが動けるようにしないといけません」

ーそういう体制づくりをするにはどうしたらよいのだろうか。

「当事者の声を聞くことです。障害者の声は日本障害フォーラム(JDF、東京都)の参画などで反映されるようになってきました。でも、学校が避難所となる中で例えば子供の当事者の声は反映されているでしょうか。教職側の声はあるでしょう。子供の支援者などを加え、意見を反映させるべきだと思います」

(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)

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