生後4日で判明した「難治てんかん」…着替えに手こずり、あふれた涙が転機に シングルマザーが気付いた“親も笑顔でいられる障害との向き合い方”
まいどなニュース / 2025年1月22日 7時20分
我が子に思わぬ障害が発覚すると、親は受け止め方に悩んでしまうことも多い。原村綾さん(@ayaharamura)も、そのひとりだった。シングルマザーとして難治てんかんの息子・奨(しょう)くんを育てる中では様々な葛藤があったという。
だが、ひょんなことから障害との向き合い方が変化。前向きな気持ちになれた原村さんは介助が必要な障害児とその親のためのキッズ服ブランド「medel me(メデルミー)」を立ち上げた。
生後4日の息子が難治てんかんであると分かって…
奨くんは生後4日目に、難治てんかんである「大田原症候群」と診断された。指定難病であるこの病気は、四肢や頭部がピクっと動く短いけいれん発作が起きる。発症率は低く、日本の患者数は500人程度と言われている。
奨くんは生後、「モロー反射」(※乳幼児が外部からの刺激に対してビクッと動く生まれつきの正常な反応)のような動きの後に不快そうな顔をすることが多かった。心配した原村さんは、医師に相談。県外の国立病院に救急車で運ばれ、診断が下った。
「夫は病気を受け入れられませんでした。もちろん、私も受け入れられなかった。でも、心がついて行かなくても育てていかなきゃいかない」
出産後、原村さんは離婚。シングルマザーになった。当時、奨くんは1日に何百回もてんかん発作が起きている状態。このままだと情緒の成長は難しく、表情もなくなる。医師はそう言い、てんかん発作を止める手術を勧めた。
ただ、術後は後遺症で右麻痺になるとの厳しい現実も告げられたそう。悩んだが、リスクを取ってでも辛いてんかん発作を止めたい、情緒の成長を見守りたいとの思いから手術を承諾した。
2歳になった息子の着替えに手間取って感情が溢れた
術後は1年間、てんかん発作が起きなかった。だが1歳半くらいの頃、小さな発作が起きるようになる。検査の結果、左脳に溜まった髄液が原因だと判明し、手術を受けた。
現在は、てんかん発作が多い時期と起きない時期が3~4ヶ月ほどのサイクルでやってくるため、服薬しながら体調を管理している。
キッズブランド「medel me」を立ち上げたのは2歳になった奨くんの着替え時、無意識に溜め込んでいた感情が爆発したことがきっかけだった。
身長が伸び、体重も増えてきた寝たきりの子どもを着替えさせるには体力が必要だ。ある冬のお風呂上り、奨くんに洋服を着せようとしたところ、麻痺している右腕に服が引っかかった。寒いから早く着せてあげたい。今からご飯も食べさせないと…。焦るほど、着替えは難航した。
「時間としては多分、ほんの数秒だった。でも、その瞬間にこれまで張りつめていたものが切れて号泣してしまいました」
なぜ、ひとりでこんなにも頑張ってるんだろう。こんな小さなことにイラついて、子どもに申し訳ない。色々な感情が溢れて止まらなかった。
同時に原村さんは、ふと思う。こういう細かなストレスを解消して明るい日々を送りたい、と。実は原村さん、独身の頃にはアパレル関係の仕事に就いており、かわいいものが大好きだった。
「でも、息子を出産してからは育てることが第一でワクワク感は二の次になっていました。だから、自分の気持ちが明るくなり、息子にとって使い心地がいい洋服を作りたいと思ったんです」
未経験で障害児のキッズ服作りにチャレンジ
そうはいっても、洋服作りは未経験。そこで、アパレル業界にいた頃のつてを辿って協力してくれるアパレルメーカーを探したり、生産を請け負ってくれる工場をブログで募ったりした。
連絡をくれたのは、偶然にも実家近くにある工場。すぐ話をしに行ったが、言葉だけでは障害児を着替えさせる大変さが上手く伝わらなかった。そこで後日、息子さんと共に再度、訪問。実際に着替えの様子を見てもらった。
すると、工場の社長は「これは手伝わんといかんね」と納得。製作に協力してくれた。
「medel me」のキッズ服は、おしゃれなだけではない。寝たきりの子にも優しい使い心地であるよう、生地はオーガニックコットン。点滴時にも着せ替えやすく、ボタン代わりのマジックテープは柔らかい。
「病気のお孫さんにプレゼントとして贈る祖父母の方も多くいらっしゃり、嬉しくなります」
自分を意識的に労わって「我が子の障害」との向き合い方を変えた
「medel me」というブランド名には、お母さんたちに自分を大事にしてほしいとの想いを込めた。それは、原村さん自身が一番葛藤したことであったからだ。
「息子を授かるまで私は障害を持つ方と関わったことがなく、どこかで可哀想と思っていました。だから、息子に障害があることは分かった時も可哀想と思ったし、そういう子どもを持っている私も可哀想だと思っていました」
心のベースがそうであったからこそ、「息子を愛そう」「この子を守り、生きていく」という気持ちが強くなった。その結果、原村さんはどんな時でも息子さんのケアを最優先。自分を蔑ろにしていった。
「食べたいものを考えることがなかったし、トイレも息子のケアを優先して我慢。膀胱炎にもなりました。完全に感覚が麻痺していた。でも、息子の着替えに手こずって泣けたことで、ずっと自分を置き去りにしていたことに気づけたんです」
息子は大切にしようと思わなくても、大事だと思える存在だった。だから、まず私は自分を大事にして息子の障害と向き合う姿勢を変えよう。そう思い、必要なケアは継続しながら、喉が乾いた時やトイレに行きたい時には自分の欲求を優先させた。
「ダメな母親なんじゃないかと葛藤しながら、1年ほど意識的に続けました。ひとりで頑張らず、ヘルパーや施設に頼り、人に相談するようにもなりました。そうしたら噓偽りなく、心の底から息子を愛せるようになったんです」
誰かに我が子のお世話を任せる時、原村さんが意識しているのは心配せず、自分の時間を大切にすることだ。
「物理的な距離を作り、適切な心の距離を取る。それは我が子を信じることにも繋がる」
弱さはもっと吐いていいし、親側は自分がどんな未来を生きていきたいか想像することも大事。そう伝えたくて、原村さんはこれまで感じてきたリアルな気持ちをSNSなどで発信。障害児を持つ親が「誰にも言えない」と心に秘めてしまいやすい気持ちに寄り添っている。
「心の声をキャッチして、無理している自分に気づけるようになるだけでも人生は変わっていく。自分を置いてけぼりにしない人生を歩んでほしい」
障害児の親に向けた社会的な支援は多くあるが、行政のサポートだけでは心の孤立を解消することは難しい。原村さんの経験は責任感が強い障害児の親たちに深く刺さることだろう。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)
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