トランプ関税で日本企業はどう動く 米国内生産や輸出先の多様化を迫られる製造業
まいどなニュース / 2025年1月28日 6時45分
1月20日、第2次トランプ政権が正式に発足した。就任演説でも分かるように、トランプ大統領はアメリカファーストを前面に打ち出し、米国の政治的安定と経済的繁栄のみに尽力しそうだ。MAGA(米国を再び偉大な国にする)を達成するため、トランプ大統領は高関税をちらつかせるなどして諸外国から譲歩や妥協を引き出し、外国の紛争には極力関与せず、最強国米国を堅持、強化しようとするだろう。
そして、米国の地位を脅かすような国家、特に中国に対する優位性を維持するため、厳しい姿勢で臨むことは間違いない。トランプ政権で外交・安全保障政策を司る国務長官にはマルコ・ルビオ氏が、安全保障担当の大統領補佐官にはマイク・ウォルツ氏がそれぞれ起用されたが、両氏とも対中強硬派だ。また、通商・製造業担当の大統領上級顧問にピーター・ナバロ氏が起用されたが、同氏はトランプ政権1期目で通商政策担当の大統領補佐官を務め、トランプ政権の貿易保護主義を主導した人物だ。
トランプ大統領は戦争回避主義者であるが、その分、経済や貿易など企業が主たるアクターである領域を主戦場と捉え、得意とする関税を積極的に活用してくることは間違いないだろう。既に、中国製品に対する10%の追加関税、カナダとメキシコからの全輸入品に対する25%の関税などが発表され、日本企業の間でも懸念が広がっている。これまでのところ、日本を直接標的とするような関税は発表されていないが、中国やメキシコなどで製品を作り、それを米国へ輸出している日本企業は10%の追加関税、関税25%の影響を受けることから、様々な動きが見られる。
例えば、大手空調メーカーのダイキン工業は昨年11月、主に米国向けの製品を作っていたメキシコ工場について、今後は生産ラインを南米向けの仕様の変えていく可能性を示唆し、大手自動車メーカーのホンダも、トランプ関税が恒久的なものになるのであれば、米国内での生産強化、関税対象外の国々からの輸出に切り替えていく考えを示している。
似たような考えは、筆者周辺からも聞かれる。筆者は最近、東京都内で開催されたある経済会合(水産業からIT業など業種は多岐に渡るが、製造業が多かった)に参加した。主催団体幹部による挨拶後の親睦会で製造業関係者20人近くと情報交換をしたのだが、多くの方々はトランプ関税による自社への影響を懸念し、「中国で生産したものを米国へ輸出してきたが、今後は輸出量を削減し、インドやASEAN向けの輸出を強化する」、「カナダやメキシコ、中国以外にも高関税の対象が拡大していく可能性があるので、米国内での生産強化をするしかないのでは」など様々な意見が聞かれた。
では、今後、日本企業はどういったことを想定しておくべきなのか。まず、これは中国関連の話になるが、10%の追加関税はプロローグに過ぎないということだ。政権1期目と異なり、今回のトランプ政権内にはトランプ大統領に異議を唱えるような人物はおらず、議会上院下院でも共和党が多数派を握っていることから、1期目以上に関税を武器に中国に対して強い姿勢で臨むことが考えられる。今後の米中対立の行方にもよるが、第2弾、第3弾の関税発動は現実的問題と位置付けておく必要があろう。
また、トランプ大統領はメキシコやカナダに25%の関税を発表しているが、これは両国で自動車などを製造し、それを米国へ輸出する中国企業が念頭にあると考えられる。無論、統計上、米国にとっての貿易赤字国を見ると、トップの中国の次にカナダやメキシコがランクインしており、トランプ大統領がそれを意識して両国をトランプ関税の対象にしたことが想像できるが、今後は中国企業を積極的に誘致し、中国企業が製造したモノを多く米国へ輸出しているような国々にも注意する必要があろう。すなわち、マレーシアやインドネシア、タイやベトナムなどが考えられ、日本企業としてはトランプ関税の対象範囲が広がっていく可能性を念頭に入れておくべきだろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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