名指しのトランプ関税…次は「日本」か? 2018年の“自動車関税ちらつかせ”再来の可能性、過去5年間“対米最大投資国”として交渉の行方は
まいどなニュース / 2025年1月30日 6時50分
トランプ政権が1月20日に発足した。タリフマンを自認するトランプ大統領は、中国への追加関税10%やメキシコ・カナダへの関税25%など、”トランプ関税”を武器に諸外国から譲歩を引き出すことで、MAGA(米国を再び偉大な国にする)を追求していくことは間違いない。トランプ政権の発足が確定して以降、筆者は地政学リスクの観点から企業対応に努めているが、トランプ政権の諸外国に対する関税で自社ビジネスがどのような影響を受けるか、どうやってリスク最小化に努めるかという懸念が日本企業の間で広がっている一方、日本に対する直接の関税発動はあるのかという懸念も強く聞かれる。トランプ政権の先行きを読むことは難しいが、日本を名指ししたトランプ関税の可能性、その回避策というものを考えてみたい。
まず、日本を名指ししたトランプ関税の可能性だが、現時点でトランプ大統領はそれについて一言も言及していないものの、1つ懸念されるのが米国の貿易赤字だ。トランプ大統領は政権1期目の時、蓄積する対中貿易赤字を是正するため、2018年以降、計3700億ドル相当の中国製品に最大25%の関税を掛ける貿易規制を発動し、中国との間で貿易戦争と呼ばれる事態となった。また、現在でも中国は米国にとって最大の貿易赤字国であり、その次にメキシコが続いている。要は、トランプ大統領は米国の貿易赤字額を念頭にトランプ関税の対象国を選定していると考えられ、実は日本は中国やメキシコに次ぐ位置にあるのだ。この論理で考えれば、日本が名指しのトランプ関税に直面する可能性は十分にあり得よう。実際、トランプ大統領は1期目の時、日本産の自動車や自動車部品に対して25%の関税をちらつかせたことがあったが、日本側が米国産の牛肉や豚肉など農産物への関税を引き下げることを事前に発表し、25%の関税が見送られることがあった。今後、トランプ大統領が米国の貿易赤字を念頭に日本に脅しの関税をちらつかせ、日本が再びディールを迫られる事態も十分に考えられる。
では、そういったリスクを回避する策はあるのか。これは企業というより石破政権の手腕が問われる問題となるが、段階としては2つある。第1段階としては、石破総理がトランプ大統領と良好な関係を構築できるかだ。トランプ大統領にとって、米国の長年の同盟国が同盟国になるとは限らず、石破総理としては伝統的同盟国日本だからという安心感ではなく、新たに同盟国となるという意識が求められる。安倍・トランプ時代が極めて良好だったのは、日本が米国の伝統的同盟国だったからではなく、安倍氏がトランプ大統領から個人的な信頼を得たことに起因する。2月にも日米首脳会談が開催される予定だが、日本の今後の4年間にとってここは大勝負となろう。
そして、第2段階として、日本がどこまで米国の味方だということをトランプ大統領に認識させることができるかだ。近年、日本企業による米国企業の買収件数は増加傾向にあるなど、日本は米国にとって最大の投資国であり、これはトランプ大統領が掲げるMAGAともフィットする。日本は2019年以降、5年連続で最大の対米投資国となっており、これをトランプ大統領が評価する可能性は極めて高い。トランプ大統領は諸外国に関税をちらつかせる一方、外国企業に対して米国内での生産強化などを推奨しており、日本がMAGA最大の貢献国と訴えることができれば、日本製鉄によるUSスチール買収問題でも何かしら明るい兆しが見える可能性もゼロではない。
トランプ大統領が損得勘定で物事を判断する可能性に照らせば、こういった条件を上手くクリアーすることができれば、それは必然的に日本を名指ししたトランプ関税の可能性を低下させるだろう。
◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。
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