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「余命はあと1、2カ月かな…」ガリガリに痩せて衰弱した高齢猫 往診を始めると、みるみる回復 元気を取り戻したワケとは?

まいどなニュース / 2025年2月7日 18時30分

野良猫時代のみいちゃん この先、飢えと寒さの試練が待っているとも知らず…

みいちゃんは、今年の春に16歳になる、ちょっと毛が長い黄色い保護猫チャン(女の子)です。Aさんに保護されたのは今から15年前の2009年12月31日でした。それまでにも、Aさんはご自宅の周りの空き地で、やはりちょっと毛が長いシルバーのお兄ちゃんと一緒に遊ぶ姿を何度か見かけていました。でもAさんは犬猫が嫌いだったので、ごはんを与えたりすることはありませんでした。

みいちゃんが生まれたのは初夏と推測されましたので、当時は虫や蝉やネズミなどの食べるものがそれなりにある時期でした。しかし次第に寒くなり食べるものが無くなり、みいちゃんは寒さと飢えに苦しんでいたのではないかと想像します。そしてついに、Aさんがご自宅横のコンクリートで仰向けに倒れているみいちゃんを発見したのが、12月31日大晦日でした。その時のみいちゃんはガリガリで骨と皮、黄色い被毛はドロドロで真っ黒でした。

Aさんはその汚れたみいちゃんをリビングに入れる勇気がなかったので、ひとまず浴室前の脱衣室に入れ、毛布に包んでヒーターを入れました。犬猫が嫌いだったAさんにとっても、目の前の命にかかわる事態はそれとは別、と、2時間おきにミルクや猫用缶詰をスプーンで口に入れました。

翌朝は元旦でしたが、少し遠くの動物病院が開いているのがわかり、Aさん家族は車でみいちゃんを連れて行きました。幸い、低栄養と低体温以外、身体に悪いところは無いという診断となり、引き続き自宅でごはんを与えて看病することとなりました。その時のみいちゃんの体重は700gしかありませんでした。700gといえば、生後2カ月齢程度の体重ですが、おそらくは生後6カ月齢程度のはずでした。いかに食べものが無かったのかがわかりますね。その後の献身的なお世話の甲斐あって、みいちゃんはだんだんと元気になり、そして体も成長していきました。

もちろん、Aさんの家の子になり、穏やかな毎日が過ぎていきました。Aさんは専業主婦でずっと自宅におられる生活でしたので、Aさんの良き相棒にもなりました。ところが2年前の夏、みいちゃんは左の頬から出血をしました。頬にできものがあって、そこから出血したようでした。Aさんは慌てて動物病院に連れて行ったところ、悪性腫瘍という診断がおり、今度は、Aさんは腫瘍専門の動物病院に連れていくことにしました。

できものを摘出する手術となりましたが、それも無事に終わり、抜糸までの1カ月間はエリザベスカラーを付けたままの生活を強いられました。みいちゃんは自分で顔が洗えないかためか、耳周りに耳垢がたまって汚れてしまいました。そこで再診のときにAさんがこのことを獣医師に話すと、耳の中を洗浄液で洗う処置が行われました。

その後、みいちゃんは自宅に帰ってから立てなくなり、目の玉が左右に揺れて何度も嘔吐し、寝込んでしまいました。もちろん、食べられません。翌日は休診日だったので翌々日に動物病院に連れて行くと、食べないのであれば、と連日点滴をすることになり、いろいろ治療をして、2カ月が経った頃ようやく目の玉の揺れはおさまり、なんとか食べ、歩けるようになって治療が終わりました。

しかしその後も食欲不振が続き、およそ1年間、1日おき程度で皮下点滴やいろいろな飲み薬を処方されて通院しましたが、結局みいちゃんの体重は4.3キロから2.4キロにまで落ちてしまいました。以前はあちこちの高いところに飛び乗って、日向ぼっこするのが好きだったみいちゃんですが、床に寝転んだままで全く元気がありませんでした。

こんなに通院しても良くならないので、Aさんは今後のことを獣医師と相談することにしました。獣医師は月1-2回程度、血液検査と腹部エコー検査を続けていましたが、特に悪いこところは見つからないため、「どこかに癌(がん)があるから食べないのかもしれません。抗癌剤を入れてみましょう。」という提案でした。

Aさんは帰ってから家族とも相談しました。みいちゃんはこんなにガリガリに痩せているのに、癌ではないかもしれないのに、抗癌剤を使うのにはどうしても抵抗がありました。そして、緩和ケア・終末期医療の受け皿であり往診もさせていただいている当院にご相談がありました。「通院がストレスのため、セカンドオピニオンで緩和ケアの往診と点滴をお願いしたいのですが。」とのことでした。Aさんのご家族も「緩和」とおっしゃっていて、心が痛みました。

初めて往診にうかがったときは、みいちゃんは毛艶が悪く、目力が無く、極度に痩せていて、肉球は冷蔵ぎょうざを触っているように冷たくなっていました。私の心の中では、点滴してもあと1~2カ月かな…とも思いました。とにかくまずは、食べない原因を探したかったのですが、以前の病院で何度も血液検査とエコー検査をされておられるとのことだったので、頭部を含めてレントゲン検査だけさせていただきました。しかし異常は見つかりませんでした。

そこで、週2回程度、少しだけの点滴と温灸をさせていただきながら、その間に原因を探り、出来る治療があればさせていただくことにしました。

往診が始まると、みいちゃんは毎日少しずつですが食べるようになり、最初の1カ月を過ぎたころから徐々に体重が増えていきました。なによりみいちゃんは機嫌がとっても良くなったそうです。Aさんがみいちゃんを動物病院に連れて行かなくなってからの回復をみると、やはり、みいちゃんにとっては通院がとても苦痛でかなりのストレスになっていたのではないでしょうか。

その当時、みいちゃんは毎朝、いつ病院に連れていかれるのかと周囲を警戒してオドオドビクビクしていました。通院していた病院は予約制でしたが、朝の時間で予約を取って待合で待っていても、全てが終わって帰宅するのはいつもお昼過ぎでした。みいちゃんもAさんも疲れますよね。帰ってからも、手足を縮こまらせてうずくまり、Aさんの側には近づかなかったそうです。でも、今はもう病院に連れて行かれることはないということがわかったので、安堵してヘソ天もするようになり、気分が良さそうだということでした。次第に家の中を走ったり、Aさんに甘えたりじゃれたりするような、昔のような元気を取り戻していきました。

現在、往診して点滴する頻度を週1回に減らしていますが、体重は徐々に増えています。このまま、この週1の往診も卒業できる日が来ると良いなぁと思っております。結局、みいちゃんが食べなかった原因は、耳洗浄液を入れられて耳の奥にある平衡感覚をつかさどる器官が狂ってしまったことに端を発し、その後は通院ストレスが原因だったということになりますね。そして、たくさんの飲み薬もストレスだったのでしょう。

◆小宮 みぎわ 獣医師/滋賀県近江八幡市「キャットクリニック ~犬も診ます~」代表。2003年より動物病院勤務。治療が困難な病気、慢性の病気などに対して、漢方治療や分子栄養学を取り入れた治療が有効な症例を経験し、これらの治療を積極的に行うため2019年4月に開院。慢性病のひとつである循環器病に関して、学会認定医を取得。

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