長野・飯綱町:住民会議の経験者から議員続々 町政活発に

毎日新聞 / 2017年12月7日 19時40分

高台から見た長野県飯綱町=2017年11月30日午後0時1分、和田浩幸撮影

 全国の市町村が議員のなり手不足に悩むなか、長野県北部の飯綱町では10月の町議選(定数15)で新人5人が当選した。このうち4人は、町議会が町民を巻き込んで政策を話し合う「議会政策サポーター会議」などの出身者で、活発な政治参加に注目が集まっている。実情を探るため、リンゴの収穫が最盛期を迎えた町を訪ねた。【和田浩幸】

「政策サポーター会議」で延長保育を無料化

 「お世話さまでした。さようなら」。3カ所ある町立保育園。午後5時過ぎから父母が続々と「お迎え」にやってきた。午後4時半以降の延長保育は有料だったが、町は2014年度から午後6時半まで無料とした。月平均の利用者は13年度の30人から16年度は45人に増え、仕事と子育てのインフラとして重要性が高まっている。

 町議会は10年、町政への住民参加を拡大するため、町議と住民が議論するサポーター会議を設けた。15年まで「行財政改革」「集落機能の強化」など六つのテーマごとに設置し、公募や、議会の要請を受けて参加した住民計43人が議論を重ねた。延長保育の無料化は13年の「人口増対策」の会議で、天野奈津美さん(37)=農業=が「子育て世代の流出を防ぐべきだ」と提案。14年度に必要経費420万円が予算化された。

男性町議や町幹部「知らなかった」

 天野さんが指摘したのは、車で30分の長野市は無料なのに、飯綱町では有料のままという「自治体格差」だ。男性町議や役場幹部は「我々にはなかった発想で、これまで民意をくみ取れていなかったと思い知った」と口をそろえる。長女(3)を保育園に預けながらリンゴ農家として働く天野さんは「これまで町政に無関心だった。『ママ友』や近所の人から集めた意見がサポーター会議で政策に反映され、興味が湧いた」と手応えを語る。

 サポーター会議はまた、14年6月に町内で50ある集落の活性化を提言した。議会はこれを受け、3カ月後に「集落振興支援基本条例」を成立させた。町長に「集落支援プログラム」の策定と、実施結果を町議会に報告するよう義務づけるもので、今年度は「空き家活用」など19事業に計約3億5000万円を割り当てた。

 議会の取り組みは他にもある。年4回発行する「議会だより」の誌面への注文と町政に対して意見を寄せてもらう「議会広報モニター」制度だ。13年にスタートし、現在は町民50人に委嘱している。アンケート用紙は町議が直接配布・回収するため、回収率は毎回ほぼ100%だ。あの手この手で、住民を町政論議に巻き込んでいる。

女性サポーターが町議選でトップ当選

 飯綱町は05年、旧牟礼(むれ)・三水(さみず)両村が合併して誕生した。リンゴ栽培や観光業などが盛んで、1万1000人あまりが暮らす。

 両村議会の定数は計32だったが、合併後に18となり、09年以降は15に減った。このため町議を出し続ける集落は現在10カ所にとどまる。町議の顔ぶれも高齢の男性が中心で、職業も農業や年金生活者が多い。「これで民意をくみ取れるのか」という問題意識から、町議を出していない集落を中心に、会社員や公務員、自営業など多様な住民にサポーターやモニターを依頼してきた。その結果、13年には参加者から初めて、町議選の当選者1人が出た。

 今回の町議選でトップ当選した滝野良枝さん(42)。13年から知り合いの町議の誘いでサポーターとモニターの両方を経験した。同県山ノ内町出身で、結婚を機に04年から夫の実家がある飯綱町に住み、子ども3人の育児中だ。サポーター会議などで知り合った人々から「女性の声を反映させてほしい」と背中を押されて立候補を決意した。

 マナー講師や結婚式の司会など仕事は忙しかったが、現在は仕事を中断して議員活動に専念している。「選挙を通じ、町政に対する住民のエネルギーを感じた。今は勉強のために議員活動に集中するが、いずれは仕事を再開して兼業でも議員ができることを次の世代に示したい」と語る。

三セクの巨額赤字で高まった議会不信

 飯綱町で議会改革が進んだのは、合併直後、旧牟礼村から引き継いだ第三セクターのスキー場の経営危機がきっかけだ。町は損失補償契約に基づき、地元銀行などに計約8億円の負債を返済した。議会は住民から「首長の追認機関に過ぎない」「監視や批判する機能が失われている」と強い非難を浴びた。

 こうした事態に、旧牟礼村議から議員を務めてきた前議長の寺島渉さん(68)は危機感を深め、サポーターやモニター制度などを導入し、直接町民の意見を聞く改革に踏み切った。「住民は決して政治に無関心ではないということが分かった」と言い切る。「これまでは住民が町政を知ったり、意見を言ったりする場がなかっただけだ」

 議員のなり手不足に苦しみ、議会に代わる「村民総会」の調査を一時表明した高知県大川村。その後に実施した村民アンケートでは、「課題があるが、解決すれば立候補も検討したい」と答えた村民が20人いた。このうち、課題として「村の政策や議員活動について知る機会の増加」を挙げた人は最多の10人だった。議員のなり手不足の解消には、自治体・議会と住民の距離をどれだけ埋められるかが鍵を握りそうだ。

前議長「議会は自治の根幹」

 飯綱町議会は町議選の前、「地域の民主主義の弱体化につながる」として定数を削減しないことを決めた。同規模の自治体の定数は平均13人で、飯綱町はこれを2人上回る。月額報酬も同規模町村の平均額が約21万円となっていることなどを根拠に、改選後は16万円から17万4000円にアップさせた。

 ただ、今後も安泰というわけではない。改選後の町議の平均年齢は65・8歳で、4年後の町議選では「半数近くが引退するのではないか」と心配する住民もいる。

 通算7期務めた寺島さんは10月、世代交代のために引退した。ただ、議会改革への意欲は衰えていない。11月下旬に「地域政策塾」を設立。来年から年5回程度、有識者を招いた勉強会を開き、町政の担い手の育成を進める考えだ。「議会の衰退は自治の根幹を揺るがす。住民に危機感を持ってもらい、裾野を広げたい」と意気込む。

 寺島さんの後任を務める清水満議長(70)も「今回はたまたま、サポーターなどから4人が出てくれたと思わないといけない。これまでの取り組みを継続し、さらに充実させたい」と話した。

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