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カフェ半壊から再起、新規開業 豊かな自然の写真と食で復興支える

毎日新聞 / 2024年6月21日 14時0分

新しく開くカフェで出すコーヒーをチェックする小澤弘壮さん(左)と駒井野乃さん=石川県能登町で2024年5月21日午前11時29分、柴山雄太撮影

 「この街が好きだから」。石川県能登町の地域おこし協力隊員、小澤弘壮(ひろたか)さん(25)は、今年度末の任期終了後も町に残ることにした。学生時代に映像制作を学んだ経験を生かし、2月には能登各地の風景を収めたデジタル写真集を発表した。焼けた輪島朝市や雪の積もった水田――。能登半島地震で傷ついた町に人の息吹を取り戻そうと22日、町内でカフェを開業する。

被災後、奥能登を巡り写真集

 大阪府豊中市出身。大阪芸術大で映像制作を専攻した。自然豊かな場所で暮らそうと思い、卒業直後の2022年4月、能登町に移り住んだ。

 町が運営する学習塾「まちなか鳳雛(ほうすう)塾」で中高生に英語や国語、数学などを教えるほか、高校生が将来を考える一助として大学生や社会人の話を聞くワークショップも開いてきた。

 並行してパートナーの駒井野乃さん(24)と共通の夢だったカフェを23年9月にオープンした。町内の山間部で農家民宿に使われていた古い診療所を改装。店名は「御茶西内科(おちゃにしないか)」。写真映えするレトロな内装にひかれて遠方から人が訪れ、地元客にも愛される客足の絶えない店になった。

 今年の元日。2人はそれぞれの実家に帰省していて無事だったが、2月に戻るとカフェは店は壁が崩れるなど半壊しており、営業再開のめどは立たない状況だった。地震直後から小澤さんは、被災地の惨状を伝える情報に接して「能登には自然の恵みや美しさがある。そういう面も発信したい」と強く感じたという。

 2月下旬にかけ、知人宅にも泊まりながら被害が大きかった半島北部の奥能登4市町を車で巡り、各地を撮影してデジタル写真集「畔(あぜ)の揺らぎ」を発表した。タイトルの由来について「田畑の畔や湖畔など、水辺と土地の連続的な境目が、ゆるやかに自然と共存してきた能登を象徴しているようだと思った」と語る。

 撮影を通して気持ちの移ろいがあったという。当初は被災現場と奥能登の美しい風景を対比させようと、壊れた道路と海、といった二面性を意識して撮っていた。だが、各地を回るうち、人や動物が暮らす当たり前の日常が一瞬で破壊されたように、何気ない光景にも陰があると思うようになり、二面性を強調しなくなった。

友人の姿に「ここに残る」

 写真集を発表した後、「ここに残るべきか。被災地を見放すように出て行ってもいいのか」と迷った。その背中を押したのは、町に住む同僚や知人たちだった。カフェの物件を紹介してくれた農家民宿「春蘭(しゅんらん)の里」代表理事、多田真由美さん(24)に説得された。「友人としても、地域社会の一員としても小澤さんたちには残ってほしかった」と。

 民宿を避難所として開放するなど地域を支える多田さんの姿勢に、小澤さんは「同年代で、町を復興させるという強い意志に心を打たれた」と話す。そして、新たにカフェを出店することも決めた。町中心部に物件を見つけ、開店に向け準備を進めている。出店準備に集中できるよう、塾の同僚らは、小澤さんが夜だけ出勤すればいいように取り計らってくれた。

 新たなカフェは、高校生たちが放課後に集える場所を目指す。ギャラリーを設け、芸術作品に触れてもらえる機会も増やしたいという。「自分自身、作品発表の場が少ないと感じていた」。都会の若者にも作品を発表してもらい、「奥能登の若者と交流する場になれば」と願う。

 22日にオープンする店の名は「ZOU」。映像の像という意味を込めている。町内では昼食を食べられる飲食店が少なく「復興工事などの関係者に温かい昼食を出したい」と言う。強い絆が生まれた地で、復興を支える。【柴山雄太】

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