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成田空港の第三滑走路で消えゆく風景 集落の営み、カメラに収め続け

毎日新聞 / 2024年6月23日 11時0分

集落の日常の風景をカメラに収める中島誠二さん(左)と芝山町教育委員会の山崎一矢さん=千葉県芝山町で2024年5月27日午後3時、合田月美撮影

 成田空港C滑走路の建設予定地に入り、移転することになった千葉県芝山町の約130戸が暮らしていた4集落で、消えゆく風景と人々の営みを映像に残そうと、郷土芸能カメラマンの中島誠二さん(71)=印西市=が町の委託を受け、カメラを回し続けている。中島さんは「ここで、こんな暮らしがあったということを子や孫の世代に伝えたい。用地がフェンスで囲われ、入れなくなるまで撮り続けたい」と話す。

 同空港では機能強化のため、C滑走路(3500メートル)の新設と、2500メートルのB滑走路の1000メートル延伸が計画され、2029年3月末をめどに完成予定。敷地面積は1198ヘクタールから2297ヘクタールに拡張されてほぼ倍になり、同町の加茂、菱田東、中郷、中谷津と多古町の一鍬田(約55戸)の集落がなくなる。

 国が新滑走路建設を許可した20年、中島さんが芝山町に撮影を持ちかけた。「1978年に同空港が開港した際、集落の民俗を中立的な立場から記録した映像はほとんどない。今回はきちんと残すべきではないかと考えた」。町は収録の事業化を決め、21年4月から撮影が始まった。

 中島さんは毎日のように集落に入ったが、住民に歓迎されなかった。「(成田国際空港会社の前身・空港)公団か」と追い返されたり、警察に通報されたりしたこともあった。

 「まず住民と関係を作らないといい映像は撮れない。何年もかかるのは承知の上だった」と振り返る。だが、撮影を続けるうちに「茶でも飲んでいくか」などと声をかけられるようになったという。

 集落に入り込めるようになり、四季折々の風景や習俗を収めていった。谷あいに広がる谷津田の田起こし、稲刈り、神社の境内の草刈り、なおらい、正月の準備……。ちょうちんをともして墓地に出向く「迎え盆」や鶏頭を供える彼岸参りの様子など、地域独自のプライベートな家族の行事も詳細に収録した。

 21年度に撮影した映像を30分にまとめた「ムラの暮らし~成田空港第三滑走路用地移転地区~」を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開している。奉納相撲など新型コロナ禍で実施されなかった行事を追加するなど内容を充実させようと、今も撮影を続けている。

 撮影開始から3年余、中島さんは集落の景色は変わったと感じている。「この時期なら田んぼに水が張られていたのに今は草ぼうぼう。そこで米を作っていた人たちは、どんな気持ちでいるのかと思う」と思いやる。一方で「やがて僕らの世代がいなくなれば、同空港を巡って繰り広げられてきた反対闘争のことも誰も分からなくなる。ここにどんな集落があり、どんな人たちが住んでいたのか、人々の声も残していけたら」と力を込める。

 担当する町教育委員会教育課の山崎一矢係長は、実家が新滑走路の騒音による移転対象地域にある。「子どもの頃から見てきた風景が集落ごとなくなってしまうのはさみしい。せめて映像で残し、そういう思いを抱えている人たちに見てもらたい」と話す。【合田月美】

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