岩手・大槌町に「伝承の館」 震災犠牲者に思いはせ、交流の場にも
毎日新聞 / 2024年6月23日 17時30分
2011年の東日本大震災で被災した岩手県大槌町に、町民ら有志が運営する民間施設「大槌伝承の館(やかた)」が開館した。当時の状況などを伝える写真200点を展示する他、震災や日々の生活を語り合う場を目指す。関係者は「震災と犠牲者に思いをはせると共に、防災学習や来訪者同士の交流に役立てば」と願っている。
施設を発案したのは、震災後に盛岡市から大槌町に通い、遺族が集うサロンなど被災者支援活動を続けてきた麦倉哲・岩手大名誉教授(68)。8年ほど前から拠点施設の必要性を感じており、活動仲間で町中心部にフラダンス練習場を所有する小笠原弘子さん(85)に協力を依頼した。
小笠原さんは元々、練習場がある場所で暮らし、衣料品店を営んでいた。しかし、津波で自宅兼店舗は全壊。震災後は代表を務めるフラダンスグループの仲間と仮設住宅などで踊りを披露し、町民の心を和ませた。
練習場は17年に建てられ、プレハブと木造住宅をつなげた平屋で広さ約90平方メートル。木造住宅は林業が盛んな岩手県住田町が震災後に仮設住宅として建てたものを移築しており、建物自体も震災伝承の一翼を担う。小笠原さんは現在、近くの災害公営住宅に住み「この場所を末永く活用してもらえたら」と考えていた。
麦倉さんは町内在住で活動を共にしてきた震災遺族の倉堀康さん(40)にも相談。24年3月に小笠原さんが練習場と建物を提供することで話がまとまり、3カ月ほどで「伝承の館」開館にこぎ着けた。運営は倉堀さんが代表を務める「大槌語り継ぐ会」が担い、館長は麦倉さんと倉堀さんの2人体制とした。
館内には、町民が撮影した震災前や直後の町並みの写真を展示した。今後予想される新たな巨大地震と津波対応で町が作製した防災マップも掲示した。内装は大工の経験がある倉堀さんが手掛けた。「震災資料の収集にも取り組みたい。震災で亡くなった人、この地で生きる人を伝えることにこだわりたい」と麦倉さんは意気込む。
6月22日のオープニングセレモニーでは、防災士でもある倉堀さんが「震災を伝えないと(次の津波で)犠牲者が増えることになる。人々の交流や学びの場にもしたい」とあいさつ。小笠原さんのフラダンスグループが踊りを披露して開館を祝った。名誉館長に就いた小笠原さんは「みんなの役に立ててうれしい」とほほ笑んだ。
見学は当面、事前予約制で無料。問い合わせは倉堀さん(090・5591・5776)か、麦倉さん(090・6713・5858)。【奥田伸一】
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