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なぜ働いていると本が読めないか 話題書と「母娘問題」本の深い関係

毎日新聞 / 2024年6月30日 13時0分

『娘が母を殺すには?』と『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を刊行した文芸評論家の三宅香帆さん=京都市南区で2024年6月12日、山崎一輝撮影

 映画「スター・ウォーズ」しかり、息子が父を乗り越えて成長する「父殺し」の物語は数多い。では「母殺し」は――。

 文芸評論家の三宅香帆さん(30)が、少女漫画や小説から「母娘問題」を読み解く『娘が母を殺すには?』(PLANETS)を刊行した。三宅さんは同時期に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)も出し、15万部超のヒットとなっている。この2冊は一見、無関係のようだが、実は「裏表の関係」にあるという。

 「母娘問題」は2000年代後半以降、過干渉な母と、その「愛」で縛られる娘の問題として社会で注目されてきた。しかし、三宅さんはその前から、フィクションの中で繰り返し題材にされてきたと話す。

 『娘が母を~』でいう「母殺し」は、母から与えられる「こうあるべきだ」という規範を娘が手放すこと、つまり「母からの自立」を意味する。本書では、山岸凉子さんの『日出処(ひいづるところ)の天子』や萩尾望都さんの『ポーの一族』、川上未映子さんの『乳と卵』といった少女漫画や小説など20作品以上を取り上げ、「母殺し」の可能性を追う。

 三宅さんが強調するのは、「父殺し」と違う「母殺し」の本質的な難しさだ。父は「強さ」で子を支配するのに対し、母は「愛情」によって規範を与える。その安心感ゆえ、娘は規範を手放せなくなるのだ。さらに戦後日本の「男性が家の外で働き、女性が家の中でケアする」という社会構造が娘の経済的自立を困難にし、母娘の結びつきを強くしてきた。

 一方、『なぜ働いていると~』は労働と読書の歴史をひもとき、「仕事と趣味が両立できない」という現代社会の問題に迫る内容。いわば戦後のサラリーマン史だ。戦後の母娘家庭史をたどる『娘が母を~』と「裏表の関係」という理由はここにある。

 仕事に追われて趣味が楽しめないのも、母娘が密着しやすいのも、共通して「長時間労働の問題が背景にある」と三宅さん。「この国は長時間労働によって発展してきたけれど、そういう働き方が読書などの文化的な営み、そして家庭をどれだけ犠牲にしてきたかを考える時期に今、きているのではないでしょうか」と問いかける。

 「母殺し」はどうすれば達成できるのか。本書に出てくる作品には、そのヒントがちりばめられている。【清水有香】

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