1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

「明日をヒロシマにしないために」 70歳詩人が伝える「平和」

毎日新聞 / 2024年6月30日 10時30分

原爆ドームの前に立つ詩人の高木いさおさん=広島市中区で2024年5月28日午後5時12分、宇城昇撮影

 創作の原点であるヒロシマは、自らのルーツにつながる地なのだという。愛や平和、命をテーマに書き続ける詩人の高木いさおさん(70)=大阪府枚方市=は5月末、原爆ドーム(広島市中区)の前に4日間立ち続け、自作の詩4編を印刷した紙を来訪者らに配った。「世界のどこかで、明日が『ヒロシマ』になるかもしれない。そんな状況にいても立ってもいられなかった」。焦燥感に駆られつつ、詩の持つ力を信じて被爆地に向かった。

 世界遺産の原爆ドーム前では、外国人や修学旅行生ら大勢が足を留めて説明板に見入っていた。「どこから来ましたか?」。高木さんはスマートフォンの翻訳アプリを活用して話しかけ、自身を紹介するサイトをタブレット端末で見せながら、ヒロシマとナガサキをテーマにした4編の詩を印刷した紙や写真をセットにして手渡した。用意した約130セットは滞在中になくなった。

 戦後70年だった2015年にも、原爆ドーム前で自作の詩を配った。「私は詩を書けることに感謝しています。この詩を平和のために、社会を良くするために活用してほしい」。高木さんの願いを踏みにじるかのように、世界で戦火はやまない。ウクライナでも、ガザでも、核兵器による脅しが繰り返される。「戦争とは、誰かに愛されている人が誰かを愛している人を殺すこと。悲しみと怒りは、戦争絶対拒否を言わない日本の今にも向いています」

 配布した詩の1編「8月6日」は、原爆詩人・峠三吉の作品「八月六日」を意識している。広島で原爆の惨状を見た峠の詩は「あの閃光(せんこう)が忘れえようか」と始まる。高木さんは書き出しを「忘れてはいけないことは/決して忘れてはいけない」とつづった。別の1編「明日、8月6日」には「何もしないでいたら/明日また、ヒロシマの日がやって来ます」と書いた。

 この20年間で11冊の詩集を出した高木さんは、少年時代からヒロシマを意識していたという。生まれたのは京都市。両親とも広島にゆかりがあり、軍人だった父は原爆投下直後に救援活動に入ったと聞かされた。その体験を詳しく知る前に両親とも亡くなり、「父は何を見たのだろうか」という思いを抱いている。高木さんは今回の広島訪問で、重要文化財に登録された被爆建物の「旧広島陸軍被服支廠(しょう)倉庫」にも足を伸ばした。赤れんが倉庫の前に立ち「父は陸軍の軍人でした。ここにも来たのだろうか」と想像した。

 初めて広島の平和記念公園を訪ねたのは19歳の時で、既に詩作を始めていた。その後も何度か被爆地を訪れ、作品を紡いできた。作品「8月6日」は11年の原爆の日、マツダスタジアムで開催されたプロ野球「ピースナイター」のセレモニーで俳優の斉藤とも子さんが朗読し、3万人もの来場者に紙が配布された。

 いじめや児童虐待、東日本大震災……。命に関わるさまざまな題材を作品にしてきた。「10歳で詩を書き始めて60年。ヒロシマを原点にして人間の善意と悪意、愛と暴力について考えてきた。平和こそが幸せの第一歩であることを考えてほしいのです」

 70歳の節目を迎えての行動は、広島から発信する意義を考えてのことだった。これまで「目立ちたくないので」と控えていた地元メディアへの取材にも応じた。詩人のメッセージに共鳴した人たちの行動が、共感の輪を広げていくはずだ。【宇城昇】

「明日、8月6日」

明日は8月6日です

ヒロシマの日です

広島に原子爆弾が落とされた日です

その原爆の爆風で熱線で放射線で

沢山沢山の人が亡くなりました

沢山沢山の人が苦しみ抜きました

そんなヒロシマの悲しみと苦しみを忘れてしまったら

2度目のヒロシマの日がやって来ます

ヒロシマの3日後にナガサキがやって来た時のように

何もしないでいたら

明日また、ヒロシマの日がやって来ます

ヒロシマを

そしてナガサキを

忘れないこと

忘れないで何かすること

忘れないで平和のために何かし続けること

戦争を肯定するごまかしを

暴力を肯定するごまかしを

うのみにしたり見過ごしたりしないこと

明日を8月6日にしないために!

明日をヒロシマにしないために!

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください