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てんかんを理由に強制不妊手術をされた弟 専門医の兄が初証言

毎日新聞 / 2024年6月29日 6時30分

開示された行政資料を手に、当時の記憶を思い起こす曽我孝志さん=宮城県岩沼市で2024年6月24日午後1時52分、遠藤大志撮影

 障害者へ不妊手術を強制してきた旧優生保護法(1948~96年)の問題を巡り、てんかん専門医の曽我孝志さん(75)が毎日新聞の取材に応じ、弟がてんかんを理由に手術を受けていたとメディアに初めて証言した。国内で人口の約1%が発症するとされる、てんかんは旧法では手術対象疾患の一つだった。弟の障害がきっかけで医師を目指し、民間では国内初のてんかん専門病院を設立したという曽我さんは「手術は『国家犯罪』だった」と訴える。

 「今日、(弟が)手術を受けてきた」。今からおよそ60年前のことだ。当時暮らしていた宮城県多賀城市の自宅で、母親(故人)から唐突に言われた。

 弟は、てんかん症状と知的障害がある「レノックス・ガストー症候群」を幼児期に発症した。意思疎通が難しく、日ごろから発作を起こして支援が必要な状態だった。

 難病に苦しむ弟の存在は、曽我さんを医学の道に進ませた。74年に東北大医学部を卒業後、国立療養所山形病院南東北てんかんセンター長などを経て、92年に専門病院「ベーテル」(宮城県岩沼市)を開設。現在は病院を運営する医療法人の理事長を務めている。

 医師として強制手術の被害実態についてはよく分かっていなかったが、母親の言葉がずっと頭に残っていたという。「母は障害児の親の会の活動にも積極的だった。どのような心持ちで私に手術を明かしたのかは分からない」と振り返る。

 おぼろげな記憶が強制不妊手術と明確に結びついたのは、旧法被害を伝える新聞記事を見たことがきっかけだ。知的障害を理由に手術された県内の女性が初の国賠訴訟を起こした2018年、曽我さんも背中を押されるように、県に対して弟の「手術記録」の開示を請求した。

 手術記録は廃棄されていたのか出てこなかったが、「相談記録」は見つかり、殴り書きで「優生保護手術」とみられる記載があった。第三者の医師に弟を診てもらったところ、生殖器に切開跡があることも分かった。

 国の統計によると、宮城県内で行われた強制手術件数は全国で2番目に多い1406件。県は記録の一部を廃棄しており、手術の実施が確認できるのは900人分で、てんかんを理由に手術されたのは約4%に当たる39人だった。

 現在、ベーテルに入院する弟は車椅子の生活を送っている。いつも笑顔で穏やかな性格だという。

 「僕がベーテルを建てたのは弟のためと言ってもいい」と曽我さん。当事者の親族が被害を明かすケースは極めて珍しく、「てんかんの人が声を上げられないのは、弟のように知的障害もあるケースが多いからではないか。社会が被害者の代弁機能を確保しない限り、問題として認識されることは難しい」と説明する。

 旧法の問題は、最近になってようやく社会問題として認識されるようになった。各地で起こされた国賠訴訟は地裁、高裁を経て、7月3日に最高裁判決を控える。司法が国の責任を認めるかに注目が集まるが、障害者に対する差別意識はなお残っていると感じる。

 生殖関連技術の進展で、妊娠中に胎児の疾患を調べる出生前診断が利用されるようになってきた。国民の意識に「内なる優生思想」が潜んでいないか、気がかりだという。

 旧法下の手術について国が真摯(しんし)に向き合い、謝罪する。曽我さんはそれが問題解決の第一歩になると考えている。【遠藤大志】

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