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透析患者、仮設住宅で得た通院環境「2年後は…」 能登半島地震

毎日新聞 / 2024年7月1日 16時12分

仮設住宅のスロープから、外を眺める浜野秀次さん=石川県珠洲市で2024年6月26日午後5時43分、安西李姫撮影

 「段ボールを捨てようと、まとめとったところやったんよ。どうぞ」。石川県珠洲(すず)市の仮設住宅「蛸島(たこじま)町第3団地」で、独り暮らしの浜野秀次さん(71)が自室に招いてくれた。家ではほぼベッドに座って過ごし、人工透析で2日に1度、市内の病院に通う。仮設の入居期間は2年。「2年で出られる状況になるんかな、出られんやろうな。それまでにここでぽっくり逝くんかな……」

 玄関を入ると右手に台所、左手に洗面所と浴室がある。奥へ進むと、6畳ほどの居間にベッドやソファ、テレビとテーブル。壁際の収納棚には、約18年前に先立った妻と亡き両親の写真が飾られていた。大工やダンプトラックの運転手だった浜野さんの自宅は、元日の地震で住めないほどに傾いてしまった。

 昨年末、90歳を過ぎた母が亡くなり、12月31日に葬儀を終えた。翌日午後、透析から帰宅してほっと一息ついたころ、どかんと揺れた。「びっくりして声も出なかった」。玄関に飛び出て立ち尽くしていると、道路が波打ち、割れていった。壊れていく家々を尻目に、黙々と逃げた。最初は近所の避難所に行ったが、「人工透析が必要なもんで、居られんかった」。ヘリコプターで金沢市に運ばれ入院したが長く居られず、大阪府にいる姉を頼って避難した。

 仮設住宅の抽選に当たり、珠洲の病院でも透析が受けられることから、戻ることにした。約1カ月前のことだ。「ホッとした。壊れた家より断然良い」。洗濯物を干す縁側に、涼しい風が抜けていく。狭いかと思った間取りも、1人だとちょうどいい。市内にある娘たちの家はいまだ断水したままなので、娘婿が風呂に入りに来る。

 近所の知人と久しぶりに船釣りに行ったり、仮設の入居者と話したり。壁には姉が送ってくれた新しい洋服が掛かっている。「別にさみしくない。誰とも話さない日はないね」。市のスタッフが時々、声掛けにもやってくる。

 順調そうだったが、不安な面も垣間見えた。仮設生活が始まってから10キロ痩せたという。「まともに食べとらんもん」。炊飯が面倒になり、米を食べなくなった。ほぼ毎日スーパーで買い物をするが、好きな物を飽きるまで毎日食べる。「カマボコとゴボウ天を1カ月食べ続けたら、さすがに飽きた。今日はスーパーで買ったハンバーグを焼こうかな」

 好きでもない酒を約20年ぶりに飲むようになった。「コップ2杯飲んで横になるんや」。仮設に入ってから、なぜか眠れなくなったという。梅酒とウイスキーを、ベッド横に常備した。「もう、不安も心配もないんやけど」

 何もない日は家事をしながら、テレビを見てぼーっと座っていることが多い。夏の高校野球が楽しみという。テレビをつけ、酒を飲んで横になる。「悲しいけれど、壊れた家ばっかりの町並みを見てもなんとも思わなくなった。亡くなった母は、こんなになった珠洲を知らなくて良かったよな」

 珠洲市には仮設住宅が約900戸あり、2月ごろから入居が始まっている。市社会福祉協議会が運営する「珠洲ささえ愛センター」は、全仮設住宅を対象に1日30~50戸を見回る。独居や健康状態に問題がある人、困りごとがある人は3日に1回程度に訪問頻度を高めている。担当者は「少し窮屈だとの声はよくある。隣の声が気になり始めたという人もいる」と話す。

 夏を迎えて熱中症の心配があるため、チラシを配るなどしてエアコン使用や水分補給を呼びかける。また、お茶会やマッサージ、花植えなど交流の機会を設けて参加を促している。担当者は「入居者同士のつながりをつくっていけるかが今後の課題だ」と説明する。【安西李姫】

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