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アフリカゾウの牙を抜く処置、国内で初めて成功 多摩動物公園

毎日新聞 / 2024年7月3日 17時23分

鼻を使って豪快に泥浴びする砥夢=多摩動物公園で2024年6月14日、斉藤三奈子撮影

 多摩動物公園(東京都日野市)は、アフリカゾウの傷ついた牙を抜く抜牙(ばつが)処置に国内で初めて成功した。5月22日に左牙を抜いたアフリカゾウの雄「砥夢(トム)」(15歳)の経過は良好で、木の枝を食べたり、泥浴びしたりして、元気に過ごしている。アフリカゾウ班の班長、藤本卓也さん(49)は「患部が落ち着く半年~1年は感染症などに注意してケアしたい」と話している。

 砥夢は2009年、愛媛県立とべ動物園で生まれた。牙を壁や柵にこすりつける癖があり、医療用のギプスなどで保護した。12年、多摩動物公園にやって来た。やんちゃで遊び盛りの砥夢は丸太や土山を牙で突いて、度々、保護カバーが壊れたり抜けたりした。若者に成長する過程の18年、左牙の先端から約30センチを折り、歯髄や血管が傷ついた。止血や消毒を根気よく行ったが21年、内部組織が壊死(えし)し空洞になった。

 ゾウの牙は人間でいうと、上あごの真ん中から2本目の切歯にあたる。牙の根元は頭骨に埋まり、眼窩(がんか)の下に収まっている。牙は戦いの武器になるほか木の皮をはいだり、地面を掘ったりするのに使う。

 同園は、ゾウの抜牙経験の豊富な米国の専門家グループに処置を依頼し、約1年前から準備した。手術に使う器具はほとんど手作り。処置の進み具合やさまざまな状況を想定して、大量の器具を日本に持ち込む許可を取った。

 砥夢の体重は4320キロ、地面から肩までの高さは約3メートル。抜牙は砥夢と同じ空間に人間が入って処置する。砥夢を適正な位置で横に寝かせるため、四肢とトレーニング用の柵をチェーンでつなぐ係留トレーニングを行った。麻酔中、神経へのダメージの予防や、麻酔から覚める時、体を起こしやすいよう砂を50センチ盛った。

 抜牙当日、コーネル大(米国)や日本獣医生命科学大(武蔵野市)などの専門家や、砥夢のふる里、とべ動物園など他園の飼育員や獣医師が駆けつけ、総勢66人のチームで臨んだ。多摩動物公園動物病院係の獣医師、太田香織さん(38)は「麻酔中は、長時間横になることで受ける内臓と筋肉のダメージを軽減するため、30人の獣医師が呼吸や血圧の管理を行った。麻酔は負担が大きいので、右牙は温存できるように今後もケアしていきたい」と話した。

 アフリカゾウはワシントン条約で商取引が原則禁止されている。日本動物園水族館協会によると、国内では23年末時点で14施設が24頭(雄4、雌20)を飼育している。1986年以降、国内で誕生したのは砥夢を含む9頭(雄5、雌4)。現在も生きているのは雄2頭、雌3頭だけ。藤本さんは「処置後数日で食欲は戻り、夜は横になって寝るようになった。今後は砥夢の将来についても担当者レベルではなく、多摩動物公園としてしっかり考えていきたい」と話した。【斉藤三奈子】

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