裁判長、涙浮かべ「教訓のために生まれたわけでは」 バス置き去り死
毎日新聞 / 2024年7月4日 21時30分
静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん(当時3歳)を送迎バスに取り残し熱中症で死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた前園長の増田立義被告(74)に対し、静岡地裁は4日、禁錮1年4月(求刑・禁錮2年6月)の判決を言い渡した。同罪に問われた元クラス担任の西原亜子被告(48)については禁錮1年、執行猶予3年(求刑・禁錮1年)とした。
国井恒志裁判長は「わずか3歳11カ月という幼さで生きる権利を奪われた。高温の車内に1人取り残され、誰からの助けを得られることなく、その苦しみは想像を絶する」と述べた。
判決によると、千奈ちゃんは同年9月5日午前8時50分ごろ、増田被告が運転する送迎バスで同園に到着。その後、施錠された車内に約5時間置き去りにされ、熱中症で死亡した。
判決はまず、こども園の職員は子どもの命を預かる専門職で、増田被告は園の業務を統括管理し、園児が死亡する結果を防止する具体的な地位にあったと指摘した。にもかかわらず、バスの運転手として降車する人数の確認や取り残された園児の確認をせず、窓を閉め切ったバス内に千奈ちゃんを放置したと認めた。
21年7月には福岡県の認可保育園で同種事件が起きていたことも踏まえれば、増田被告は危険性を具体的に予見できたと指摘。園児の安全確保を怠った過失は著しく、「園児の命を預かる保育者として厳しい非難は免れない」として刑の執行の猶予は認められないとした。
西原被告については、日ごろから千奈ちゃんが無断欠席や遅刻をしていなかったことから、教室にいないと気づいた時点で、バスに取り残され死亡する危険性を具体的に予見できたと認定。長時間にわたって千奈ちゃんの所在が不明な状態を放置し続けた過失と、千奈ちゃんの死亡には因果関係があるとしつつ、職員を適切に指導・監督していなかった園のずさんな安全管理体制が大きく影響したと判断。実刑を科すべきではないと結論づけた。
判決言い渡し後、国井裁判長は涙を浮かべ、「千奈ちゃんは、お父さんとお母さんを幸せにするために生まれてきた。教訓になるために生まれてきたわけではありません」と説諭した。最後には「千奈ちゃんが生きていた意味、子どもを守る大切さを考えなければいけない」と声を震わせた。【丘絢太】
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