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チアダンス、燃える「もみじ」は86歳 起業や介護…続くチャレンジ

毎日新聞 / 2024年7月6日 13時0分

仲間とレッスンする86歳の坂本幸代さん(中央)=福岡市西区で2024年6月4日、吉田航太撮影

 笑顔と華やかな演技で競技者自身も見る人も元気にするスポーツ「チアダンス」。チャレンジはいくつになってもわくわくするもの。福岡県内では、50代以上のグランド世代(年長者)を対象に「グランチア」と名付けたチアダンス教室が活況を呈している。

 金髪のウイッグに水玉模様のおそろいの衣装――。6月上旬、福岡市西区にあるグランチア福岡西校を訪ねると、受講生でつくるチーム「グランチアスターズ」の女性メンバー13人が、12月に横浜市で開かれるチアダンスのシニア全国大会に向けた練習で、整列の準備をしていた。

 「今日は何順で並びますか」「美人!」「じゃあ美人順で!」「はーい」――。スタッフとメンバーが冗談を言い合い、教室内はとにかく明るい雰囲気。チームは60代が中心で、介護職や接客業、保育士など現役で働く人も多い。ダンスに年齢や上下関係はなく、メンバーは「ハイジ」「クララ」「シャーロット」などそれぞれ自ら付けたチアネームで呼び合っている。

 教室は2017年10月、子どものチアダンス教室などを運営する「MIKI・ファニット」(同区)の古庄美樹社長(57)が発足させた。仕事や子育てなどが一段落した50代以上の人たちに挑戦の一つとして提案するとともに、メンバーの姿を見てもらうことで周囲の人たちを刺激したいという狙いがあった。

 「健康のため」「何かに挑戦したい」「ピンク・レディーに憧れて」……。受講生の動機はさまざま。現在、県内5カ所の教室に50~80代の計700人超が通っている。

 「チアは年齢を感じさせない」と魅力を語るのは、「もみじ」のチアネームこと坂本幸代さん(86)=福岡県久留米市=。発足時から在籍し、教室全体の最高齢。全国大会に出場する「グランチアスターズ」の一員でもある。移り変わる色合いで人々を楽しませる紅葉を愛し、「真っ赤に燃えたい」という自身の思いがチアネームに込められている。

70歳まで社長 夫の難病

 1937年に山口市で生まれ、結婚を機に25歳で久留米市に移住。専業主婦で息子3人を育て、40歳の時、建設会社の事務としてパートを始めた。事務職だけでなく、営業や解体作業も任されるうち、「もっとお客様にできるサービスがあるのではないか」と考え、50歳でリフォーム会社「坂本住宅」を起業。70歳まで社長を務めた。

 その後、難病を発症した夫を8年間介護。死別してまだ間もない79歳の時、「思いもよらんこと」でグランチアに足を踏み入れた。

 当初、次男の知人だった古庄さんから「イベント出演に向けて練習中だ」と聞いた。ところが訪ねた先の教室にメンバーは誰もいなかった。実は古庄さんの誘い文句は、教室の開講準備をしている段階でのハッタリだったのだ。それでも「(教室が)成功するイメージしかない」と奔走する古庄さんを見て、坂本さんは馬が合うと感じたという。自身も「できないと言わないこと」を信念とし、仕事で現役のころ、周りの知恵を借りながら困りごとを解決してきたからだ。

 程なくして坂本さんを含め5人の初期メンバーが集まって教室は始動した。約1カ月半の練習を経て初のイベントも実現。後に活動はテレビや新聞で取り上げられた。

 「誰がミニスカートをはいて足上げたばあちゃんを見るか」などと心ない言葉を浴びせられたこともある。一方で、「こんなことがやりたかった」と受講生の意欲もまた高まっていった。

 教室のレッスンは月2回で、通常クラスが1回60分、坂本さんがメンバーのグランチアスターズは1時間45分。準備体操をした後、腕を動かす「アームモーション」やステップなど動きの練習に入る。

 練習間隔が空くため、振り付けを忘れてしまう受講生も少なくないが、それもご愛嬌(あいきょう)。「うまくいかないことも楽しんでほしい」とスタッフが受講生に声をかけ、気持ちを盛り上げていく。

 加齢に伴って肩が上がらない人もいれば、膝を痛めた人もいる。スタッフは一人一人の体の状態や動きを確かめ、演技の構成を考える。「誰もが主役になれるような立ち位置を見つけて全体のバランスを整え、一つの作品を作る」と古庄さん。これもまたスタッフの腕の見せどころだ。

 坂本さんはグランチアスターズのメンバーとして18年以降は毎年全国大会に出場。各教室の受講生による成果発表会はもちろん、県内を拠点にイベントにも多数出演し、地域を明るくしている。

 最近はラップやヒップホップなどにも挑戦。今後は「Y字バランスをしたい」とも語る。「1日1ミリがんばれば、1年で約36センチも足が上がる。今日の1ミリが大切」と坂本さん。つえが必要になっても、つえにポンポンをつけてチアを続けるつもりだ。「明るい衣装を着て『おぎゃー』と生まれた時のような元気な顔で。人生まだまだこれから」【本多由梨枝】

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