被災民家を改修し交流拠点に 家主の遺志で活用 西日本豪雨
毎日新聞 / 2024年7月6日 10時30分
2018年7月の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町地区で、被災した民家が改修され、今年4月、地域の人たちの交流や福祉の拠点として再生した。豪雨後に亡くなった家主の男性の遺志を継ぎ、NPO法人「ぶどうの家わたぼうし」(同市)が「土師(はじ)邸」と名付けて運営。同NPOの津田由起子理事(59)は「誰もが気軽に立ち寄れる場。ふだんから顔を見せ合うことが災害時の共助にもつながる」と期待する。
西日本豪雨によって倉敷市では災害関連死を含めて75人が亡くなり、真備町地区が最も被害が大きかった。民家は同町箭田(やた)の木造2階建てで、男性が1人で暮らしていた。豪雨で1階部分が約1・5メートル浸水し、全壊と判定された。男性は4カ月ほど避難所で過ごした後、住宅に隣接する離れを改修して生活していたが、21年5月に89歳で亡くなった。
男性は生前、近所の子どもたちを家に集めて絵を教えたり、地域の行事に積極的に参加したりして周囲に慕われていたという。被災後は公費解体を断り、親族にも「壊さず残すように」と伝えていたといい、男性が同NPOと関連のある施設の訪問看護を受けていた縁で、親族から相談を受け拠点施設への活用が決まった。
当初は資金集めに難航したが、社会問題の解決に取り組むNPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」(広島県神石高原町)などの協力でめどが立ち、23年夏から改修工事が始まった。作業は高校生ら多くのボランティアも手伝い、廃材は地域の人たちが再利用に引き取り、ほとんどごみは出なかったという。
1階の4室を交流拠点、2階の2室を福祉関連の事務所として今年4月20日にオープン。豪雨の記録として、浸水で削られた廊下の壁の一部はガラスで覆って残した。普段はお年寄りが集まることが多いが、廊下には隣接する幼稚園の園児たちが作ったセメントアートが飾られ、世代間交流の場にもなっていることを示している。
6月26日にはボランティアによる演奏会が開かれ、約20人のお年寄りたちが楽しんだ。自慢のサックスで10曲ほど披露した岡本義和さん(74)は「笑顔で音楽を聴いて、みんなが一体になったのがうれしい」と満足げだった。また、土師邸で知り合った女性たちが朗読グループ「えぇ~本の会」を結成。今月9日に初めての活動として、家族連れなどを対象に絵本の読み聞かせを開く。
わたぼうしの津田さんは「(浸水被害をもたらした)河川の改修などが終わり、これから人と人のつながりなどソフト面が大切。土師邸では互いに顔の見える関係を作れて、どんな困りごとでも相談し合える場となってほしい」と話した。【石川勝己】
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